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歴代朝ドラで“珍しい展開”を迎えたヒロインに「泣いた」「多くの人が抱える思い」SNSも共感の声続出…『あんぱん』

  • 2025.9.1

NHK連続テレビ小説『あんぱん』は第22週に入り、いよいよクライマックスへ。第21週のラストでは、嵩(北村匠海)の手によって『アンパンマン』の元となるあんぱんを配るおじさんのヒーローが生み出された。第21週は、嵩にとっても、のぶ(今田美桜)にとっても節目となる週となり、とくに第105話は『あんぱん』第2章の終幕といった雰囲気があった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

漫画以外の仕事が増えていく嵩

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『あんぱん』第21週(C)NHK

『あんぱん』の一つ目の節目は、戦後にのぶと嵩が“逆転しない正義”を探し始めると決意をした第63話だろう。以降、のぶは新聞記者として戦後の街の実情を書き、自身の正義感に突き動かされ、東京で代議士・薪鉄子の秘書として務めることに。嵩は三星百貨店のデザイナーとして勤務し、後に漫画家として独立した。

漫画家として独立した嵩だったが、旧友から舞台美術を依頼されたり、作詞やテレビ出演、テレビドラマの脚本など、漫画家としての代表作を生み出せないまま、漫画以外の仕事がどんどん増えていった。さまざまな形で世間からきちんと評価されている一方で、嵩は自虐をしてしまったりと、前向きになりきれない様子。

のぶに苦労をかけないために、何がなんでも働かなければという思いがあるせいで漫画に向き合えないと、夫としての責任感を漫画を描けない理由にしているように見える。そして、それを察しつつあるのぶは嵩に複雑な思いを抱えるように。

幼なじみだった頃は、互いに素直に向き合い、支え合っていたのぶと嵩だったが、夫婦という関係性になったことで、社会通念に流される形で嵩がのぶを養うべき、のぶが嵩を支えるべきという概念が生まれてしまった。これは2人の関係性の変化によるものだけでなく、夫婦という共同体に向けられる社会の目がそうしている。本来の2人の関係性からは、かけ離れたものである社会的に常識とされる夫婦像を目指そうとしたことで、2人はギクシャクしてしまったのかもしれない。

はじめて仕事をやめ、目標を見失うのぶ

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『あんぱん』第21週(C)NHK

新聞記者、代議士・薪鉄子(戸田恵子)の秘書として立派に仕事をしてきたのぶだったが、薪鉄子の代議士としてのフェーズが変化したことで、のぶは秘書業務に違和感を持ってしまう。のぶが持つ正論すぎて政治の世界では忌避されてしまう正義感を、鉄子から指摘されてしまい、のぶは退職させられる。そして、鉄子に紹介された次の仕事はのぶにとってはやりがいの薄い事務職。その仕事も数年後、辞めさせられることに。

これまで、教師、新聞記者、代議士の秘書と、自身の価値観に沿って夢や目標を変えながら、ひた走ってきたのぶは、職を失ったことではじめて立ち止まることを余儀なくされてしまう。のぶにとって、仕事とは生活のためにお金を稼ぐものではなく、夢や目標のために頑張るものだったのだろう。新聞記者や代議士の秘書の業務は、社会をよりよいものにし、弱い人を助けたいというのぶの正義を貫けるものだったはずだ。

仕事を辞めることになったのぶに、周りがかける声はそんなのぶの心情を理解していないものばかりだった。嵩を支えることも立派なのぶの役割なのだが、のぶの表情は「そうではなくて……」という言いたげだ。嵩もまた、仕事を辞めたのぶに「僕が支えるよ」などと声をかけてしまう。第21週で描かれた2人の喧嘩は、夫婦という関係性に互いを当てはめてしまったために、起きたものだろう。

第105話ではのぶが自分と向き合い、はじめて嵩に思いをこぼす。仕事を最後まで成し遂げられず、嵩の妻として子どもを産むこともできなかった。何者にもなれなかった自分が情けない。一生懸命走ってきたからこそ、ここからの人生がどこにつながっているのか分からなくなったことが大きな不安となったのかもしれない。

これまで、仕事に邁進するヒロイン、妻として夫を支えるヒロインなど、朝ドラではさまざまな女性像が描かれてきた。嵩が活躍し始めたあとも、妻として支えることのみにやりがいを見出すのではなく、「何者にもなれなかった」と泣くヒロインは正直朝ドラでは珍しい。朝ドラの長い歴史のなかに、このような女性がいてもいいだろう。

そんなのぶに嵩がかけたのは、のぶのこれまでとこれからを肯定する言葉だった。そんな2人が見つめるのは、“逆転しない正義”を体現するアンパンマンの原点となるイラスト。“逆転しない正義”を探すという2人の夢が形になるまであと少しだ。

SNSでは、「『私は何者にもなれなかった』と泣いているのを観て一緒に泣いた」「のぶちゃんの思いは多くの人が抱える思いなんじゃないかな」など、のぶの涙に共感を寄せている視聴者も多い様子。

残りの放送も約1カ月。のぶと嵩は人生をどのように走り抜けるのか。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202