２０代前半ながらベテランにも負けない“唯一無二の個性”　繊細さと存在感を兼ね備えた“若手俳優の真骨頂”【木曜ドラマ】

阿部サダヲと松たか子が共演するマリッジ・サスペンスドラマ『しあわせな結婚』のなかで、ひときわ目を引く存在となっているのが、板垣李光人演じる鈴木レオだ。物語の中心である夫婦の関係性や、15年前の事件にまつわる真相に比べれば、レオはサイドに位置づけられるキャラクターかもしれない。しかし、彼の持つ“特別さ“は作品全体の緊張感を和らげ、また逆に張りつめさせるという二面性をもたらしている。若手ながらも確かなキャリアを積み重ねてきた板垣の存在感が、この複雑なバランスを成立させているのだ。

鈴木レオというキャラクターの立ち位置

レオは本作の主人公の一人・鈴木ネルラ（松たか子）の弟であり、幼少期に母を亡くしたことから父や姉、叔父たちに特別に可愛がられて育った。SNS上でも「才能と努力の結晶」「愛され末っ子」と評されている。

彼の職業は、アイドルグループの衣装を手掛ける若きデザイナー兼スタイリスト。高校時代にその才能を見いだされ、芸能事務所の社長にダメ出しをして採用されるという、型破りかつカリスマ的なエピソードを持っている。華やかなキャリアを築きつつ、実は大学を休学中というリアルな等身大の葛藤も抱える人物だ。

物語においてレオは、家族の秘密と真相解明に密接に関わる立場に置かれており、彼の存在そのものがサスペンス性を高めているとも言える。と同時に、ネルラや、その夫・幸太郎（阿部サダヲ）に人知れず寄り添い、そっと背中を押す役割も果たしている。この“密かに支える人“としての側面が、作品の重苦しさを和らげる役割を担っている。

板垣李光人の演技の魅力

板垣の最大の魅力は“繊細な感情表現”にある。彼は多くを語らずとも、表情や仕草、わずかな間によって登場人物の心情を観客に伝えてしまう。『silent』で主人公の弟を演じた際にも、静かなシーンのなかで感情の揺らぎを的確に表現し、大きな話題を呼んだ。

今回の『しあわせな結婚』でも、レオが姉のネルラを思いやる場面、あるいはアルバムをめくる静かな時間に映る表情が、多くの視聴者の心を打った。

さらに、板垣は幅広い役柄に対応できる俳優だ。ドラマ『カラフラブル』でのジェンダーレスなキャラクター、NHK大河ドラマ『どうする家康』での歴史上の人物、そして『しあわせな結婚』でのカリスマデザイナーと、役の幅を柔軟に演じ分ける。どの作品においても「板垣らしさ」を残しながらキャラクターに完全に溶け込む点が、彼の俳優としての強みだろう。

また、経験豊富なベテラン俳優たちと並んでも埋もれない存在感を放てる点も注目すべきだ。松たか子や阿部サダヲという強力な共演者のなかにあっても、板垣は自分の光を失わない。むしろその存在感が、彼らとの対比で際立ち、作品全体に奥行きを与えている。

演技のハイライトと次回作への期待

『しあわせな結婚』第6話から第7話にかけては、物語の核心に迫る展開が描かれた。ネルラが家を出る決意をするシーンで、レオが姉をそっと後押しする場面は、その優しさと強さを同時に体現していた。単に支える弟というだけではなく、家族のなかで彼がどれほど重要な役割を果たしているのかが、この瞬間に凝縮されていた。

また、そっとアルバムを開く場面で不協和音が流れる演出は、彼自身が家族の秘密に深く関わっている可能性を示唆する。板垣は、驚きや困惑を大げさに表すことなく、微細な表情の変化で視聴者に“この先に何かある”と感じさせることに成功している。この表情で物語る能力こそ、板垣李光人という俳優の真骨頂だ。

そして板垣は、次回の朝ドラ『ばけばけ』にも出演が決定している。演じるのは、雨清水家の三男・三之丞。世間知らずで家のなかに居場所がなく、主人公トキ（髙石あかり）の仕事場に入り浸るという役柄だ。『しあわせな結婚』で見せた繊細な演技力と存在感が、『ばけばけ』の長丁場の物語でどのように発揮されるのか、大きな期待が寄せられる。

『しあわせな結婚』で見せた鈴木レオ役の存在感、そして次なる挑戦『ばけばけ』。板垣李光人は、繊細な感情表現と役に溶け込む力を武器に、着実にキャリアを広げている。彼の演技は静かでありながら観る者の心を強く揺さぶり、その存在感は確実にドラマを支える力となっている。

まだ20代前半にしてこれだけの演技力と存在感を兼ね備えた俳優は稀有だろう。『しあわせな結婚』と『ばけばけ』という二つの作品を通じて、板垣李光人という俳優がどのように成長していくのか。視聴者はその歩みを見守りながら、彼の次なる演技に胸を高鳴らせている。

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テレビ朝日系『しあわせな結婚』毎週木曜よる9時
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ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter：@yuu_uu_