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朝ドラで“電話ひとつ”で空気を変える貴重な存在 主人公たちの支えになっている人物に視聴者からも“称賛の声続出”

  • 2025.8.29
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『あんぱん』第22週(C)NHK

今田美桜と北村匠海が夫婦役を演じる朝ドラ『あんぱん』は、やなせたかしと妻・暢をモデルに、愛と夢の軌跡を描く物語だ。第22週「愛するカタチ」は、嵩(北村匠海)の詩が世に羽ばたき、人々の心を動かす姿が中心に据えられた。漫画が評価されず苦悩する嵩が、自らの言葉を詩に託すことで新しい表現の道を切り拓いていく。その背後には、のぶ(今田美桜)の支え、八木(妻夫木聡)の慧眼、そして出会った人々の存在がある。

嵩の苦悩と「手のひらにある夢」

嵩・のぶの自宅の壁に貼られた、太ったおじさんがあんぱんを配る絵。それは、嵩の創作の核となる重要なイメージだ。しかしなかなか周囲には認められず、落ち込む嵩の姿が切ない。そんな彼に、うちは好きだよ、と言って励ますのがのぶだ。この言葉は、嵩にとって創作を続ける原動力そのものだろう。

やがて嵩は、自費出版による『ぼくのまんが詩集』を制作し、のぶに贈る。さらに八木の熱意に背中を押され、詩集『愛する歌』を出版することになる。当初は売れないと見られていたが、予想を裏切るヒットを記録。嵩自身も驚きながら、少しずつ詩作に没頭していった。

物語の大きな山場となったのは、小学生の佳保(永瀬ゆずな)との出会いだ。彼女は嵩の詩に救われたと祖父が語る一方、本人は辛辣な態度で大人たちを翻弄する。親を失い、心の奥に深い傷を抱えた少女にとって、嵩の言葉はまさに光だった。

「詩は人を救えるのか」という問いに対し、このエピソードは確かな肯定を与えていた。佳保が、太ったおじさんの絵にだけは関心を示していたことも象徴的である。言葉だけでなく、嵩の描く世界観そのものが、彼女に寄り添う力を持っていることを示している。

羽多子という存在の温もり

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『あんぱん』第22週(C)NHK

一方で、のぶと嵩の関係にも小さな波が生まれた。のぶは嵩の才能を信じ続けているが、のぶの妹・メイコ(原菜乃華)の存在や、その夫・健太郎(高橋文哉)の動揺など、周囲にいる大切な人たちが夢と現実の狭間で揺れる姿が、自分自身の不安を映す鏡のように映っている。

“夢を信じること”は、簡単ではない。むしろ、失望や諦念に直面することのほうが多いだろう。しかし嵩との生活を通じて、のぶは“夢を信じ続けることの尊さ”を日々噛み締めているはずだ。彼女の真剣な眼差しが、嵩の創作を後押しし、同時に物語を一層厚みあるものにしてもいる。

ここで忘れてはならないのが、江口のりこ演じる羽多子の存在だ。嵩とのぶが同居を始めると、彼女の飄々とした存在感がより一層物語に軽快さを与える。電話に出て嵩宛の脚本依頼を軽やかに受けてしまう一幕など、視聴者に思わず笑いをもたらした。だがその軽さは無責任さではない。どんな苦境でも、人生丸ごとしなやかに受け入れる、そんな強さの表れのようにも見える。

「おなごの心を持ち続ける羽多子さん、素敵です」と嵩に評された場面も象徴的だった。夫・結太郎(加瀬亮)から過去にもらった手紙に沿って、旅をしたいと夢を語る羽多子の姿は、つらいだけに思える現実にも温もりがあるのだと教えてくれる。SNS上でも「羽多子さん、素敵」「自分の夢を叶えるのね」という声が多く挙がった。

生活という基盤を支える存在であり、彼女の一言や仕草が、のぶや嵩の葛藤を和らげている。羽多子は、芸術や夢だけでなく“生きること”そのものを肯定するキャラクターなのかもしれない。

『あんぱん』が描く夢と日常の交錯

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『あんぱん』第22週(C)NHK

言葉の力と日常の温もりが交差する瞬間を描いた22週。嵩の詩は人を救い、幼い子どもの心を照らした。その一方で、羽多子の存在が物語に柔らかな現実感をもたらす。芸術と生活、夢と日常は対立するものではなく、互いに支え合うものなのだと教えてくれる。

『あんぱん』は単なる夫婦の物語でも、芸術家の成長譚でもない。夢を信じる人々と、それを支える生活の物語である。のぶと嵩は今後、どんな未来を切り拓いていくのだろうか。


連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_