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“1998年放送”の金曜ドラマが描いた大人の恋愛 “27年経っても”なお夏の終わりに見たくなる名作

  • 2025.9.1
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田中美佐子 (C)SANKEI

夏の終わりになると思い出すドラマがある。1998年の夏クールにTBSの金曜ドラマ(金曜夜10時枠)で放送された『ランデヴー』だ。
本作は34歳の専業主婦・田所朝子(田中美佐子)が、夫への不満が爆発したことをきっかけに家を飛び出してしまう、ひと夏の物語。

全財産を銀行でおろして家を出た朝子は、大勢の外国人が暮らす無国籍な街にあるホテル「マリア」に長期滞在することになるのだが、そこで同じようにホテルで暮らしている43歳のポルノ小説家・工藤真由美(桃井かおり)と出会う。

大人の夏休みを淡々と描いた女性版『ビーチボーイズ』

脚本は連続テレビ小説『ちゅらさん』等の作品で知られる岡田惠和が担当。
本作の一年前に岡田は、二人の男が海の家で働きながらひと夏を過ごす姿を描いた月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)のドラマ『ビーチボーイズ』を大ヒットさせているが、『ランデヴー』は女性版『ビーチボーイズ』という印象だ。
しかし、月9のキラキラ感が全開でビジュアルがにぎやかだった『ビーチボーイズ』と比べると『ランデヴー』のトーンは淡々としており、静かで落ち着いたドラマとなっている。
若者向けの月9と大人向けの金曜ドラマの違いと言ってしまえばそれまでだが、この淡々としたトーンが心地よい寂しさとなって滲み出ている不思議な作品だと感じる。

同時に本作は、長らく恋とは無縁の暮らしをしていた中年女性2人が、年下の男性と出会うことで人生のときめきを取り戻していく物語でもある。
家族で屋形船を営む青年・岩田守(柏原崇)が借金取りに絡まれている場面に遭遇した朝子は、見るに見かねて借金の100万円をその場で立て替えてしまう。
そして困惑する守に対して、お金は返さなくていいから「私をあなたの恋人にしてほしいの」「あのお金で、あなたを買いたい」と言ってしまう。守は朝子のことを若い男の身体目当てのおばさんだと思い、初めは警戒していた。しかし朝子の求めているものが性的な欲望ではなく、青春時代のようなピュアな恋愛だとわかると、戸惑いながらもデートするようになる。
朝子は守と会って何かをする度に、立て替えた借金を減額していくという約束をし、全額分の返済が済んだら、付き合いは終わりにすると言う。 朝子と守の関係はどこかユーモラスで、お金が絡んだ打算的なものでありながらピュアな男女交際を演じるごっこ遊びのようでもある。
また、当初は衝動的に家を飛び出して行き当たりばったりの行動を取っているかに見えた朝子だが、守との関係も「マリア」での暮らしも、この夏が終わるまでの期間限定のものだと理解した上で行動していることが次第にわかってくる。
このあたりは20代の守と30代の朝子の人生経験の差で、どれだけ無茶をしているように見えても朝子は、物事には終わりがあることに気づいており、最終話に近づくにつれて、守と別れる準備をゆっくりと進めていく。
一方、真由美は、ホストクラブで知り合った守の兄・猛(高橋克典)が昔の恋人と瓜二つだったことから彼に興味を持ち、頻繁に会うようになっていく。 実は真由美が昔一緒に暮らしていた恋人は小説家志望だったが、真由美が純文学作家として成功したことにコンプレックスを抱き、自ら命を断ってしまった。そのトラウマから真由美は純文学を書かなくなり、ポルノ小説家として暮らしていた。 そのため、人の生き死に対して過敏に反応する所があるのだが、実は猛は大きな病を抱えており、いつ亡くなってもおかしくない身体だった。
朝子と守の関係が別れることを前提としたひと夏の物語であるのに対し、真由美と猛の間には常に死の気配が漂っており、どちらの関係も、あらかじめ終わりを予感させるものとして描かれている。
そんな両者の関係が「大人の夏休み」というモラトリアムの時間にぴったりとハマっており、いつか終わることがわかった上で楽しそうに振る舞う朝子たちの姿に切なさを感じる。
それが『ランデヴー』というドラマが持つ独自の魅力ではないかと思う。

怪獣オタクのダメ夫にも優しい物語

一方、独自の存在感を見せているのが、朝子の夫・田所誠治(吹越満)だ。 彼は怪獣オタクで『快獣ブースカ』の主人公・ブースカが大のお気に入り。
28万円で購入したブースカの人形が入ったダンボールを誠治の部屋に届けようとした朝子が階段から転落した姿を見た誠治は、真っ先にブースカの人形が壊れてないかを心配し、朝子のことは全く心配しなかった。 そのことに腹を立てた朝子はブースカの人形を持って、家出してしまうのだが、誠治は彼女が出ていったことではなく、ブースカを持っていかれたことを気にし、ネットでブースカに懸賞金をかけて探し出そうとする。
誠治の造形は『ずっとあなたが好きだった』で佐野史郎が演じた女性との付き合いが苦手なオタクの夫・冬彦さんのようなタイプだ。また、妻に逃げられた夫というと同じ佐野史郎が『青い鳥』で演じた、男と逃げた妻を追いかける地元の名士を思い出させる。
その意味で誠治は90年代のテレビドラマで悪役として描かれていた、妻の気持ちに寄り添うことができない無神経なオタク夫の典型例なのだが、彼の描き方も独特で序盤は妻の朝子を全く探そうともしない。しかもソフビ人形のショップで知り合ったオタク趣味に理解ある女性と仲良くなり、家に連れ込んでしまう。
つまり、朝子が「マリア」でひと夏のモラトリアムを楽しんでいる時間、誠治もオタクの独身ライフをそれなりに楽しんでいたのだが、その後、連れ込んだ女性とは些細なことでケンカ別れとなる。
そして同じようにショップで偶然知り合った野々村光作(田口浩正)が、真由美の担当編集者だったことで、朝子が真由美と同じホテルにいることを知り、ブースカを取り戻すために「マリア」へ向かうのだが、朝子との再会はあっさりと描かれ、ドラマ的な盛り上がりは意識的に避けられている。

妻の朝子から見たら良いところが全くない最低の夫だが、ドラマ内での描き方はどこか優しく、オタク友達となった野々村との繋がりが最終的に描かれた。
誠治のような悪役も含めた全ての登場人物に『ランデヴー』は居場所が用意されている。だからこそ夏の終わりになると、本作を見返したくなるのだ。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。