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視聴者の先入観をひっくり返す“意外な結末”… 独自の価値観が浮かび上がる“本作ならではの物語”【月10ドラマ】

  • 2025.8.15
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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話より(C)カンテレ・フジテレビ

今クールのテレビドラマは、ユニークな学園ドラマが多いのだが『僕達はまだその星の校則を知らない』は、スクールロイヤーという生徒たちを取り巻く問題を法的に解決する弁護士の視点を通して令和の高校生たちの姿を描いた異色の学園ドラマである。
舞台となる濱ソラリス高校は、男子校と女子校が合併して共学となった高校だが、共学となった影響で様々なトラブルが起きていた。スクールロイヤーの白鳥健治(磯村勇斗)は教師の幸田珠々(堀田真由)と共に、生徒たちの抱える悩みと向き合っていく。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

学校で起きた問題は法律で裁くことができるのか?

第1話では、合併によって制服が変わったことをきっかけに、スラックスを着用した生徒会副生徒会長の女子生徒と、スカートを着用した生徒会長の男子生徒が登校した後、不登校になるという前代未聞の出来事が起こる。
この事件をきっかけに「そもそも制服など無い方がいいのではないか?」という意見が生徒の間で盛り上がるのだが、健治は制服廃止について討論する模擬裁判をおこなうことを提案する。
第2話では、恋人ができたことを理由に付き合っていた女子生徒に振られた男子生徒が、「これはいじめだ」と訴えて登校拒否になる。教師たちはよくある恋愛のもつれだと考え、静観しようとしていたが、健治は男子生徒を「被害者」、女子生徒を「加害者」と呼び、いじめ対策委員会による調査を訴える。
第3話では、男子生徒に盗撮されたと被害を訴える女子生徒のために健治は調査を開始する。盗撮した男子生徒に事情聴取をして証拠となるスマホを押収するのだが、意外な真相が明らかになる。
第4話では、子ども・福祉コースの1年梅組の生徒のテストの点数やクラス順位といった成績一覧がタブレットで閲覧できるという事件が発生。自分の成績が学年最下位で学習評価欄に「トンチンカンな面あり」と書かれていることを知った女子生徒は落ち込み、学校を欠席する。一方、情報漏えいの原因となる生徒用共有フォルダへの誤送信をおこなった副校長は、校長から自主退職を促されるが、学校として謝罪することを避けようとする校長(と顧問弁護士)のやり方に健治は反発を覚える。

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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話より(C)カンテレ・フジテレビ

どのエピソードも、学校で起きた生徒や教師のトラブルを法律で裁くことができるか? ということに焦点が当てられている。
劇中では生徒間のトラブルは話し合いで解決すべきだと考えている教師が、法律の力でトラブルを解決しようとする健治の対処法に唖然とする姿が繰り返し描かれる。しかし、弁護士が法律の力でいじめや性犯罪を裁く物語になるかと思って観ていると、ドラマは意外な展開を迎える。 たとえば第3話で女子生徒を盗撮したかに思えた男子生徒は生物部に所属しており、撮影したのは女子生徒の肩に止まった珍しい種類のテントウムシだったことが明らかとなる。
もちろん、無断で女子生徒の姿を撮影したことは許されない行為であり、男子生徒も反省して女子生徒に謝罪する。また、物語終盤で実は他の男子生徒が盗撮を行っていたことを臭わす場面も登場するため、生徒による盗撮が全く存在しなかったというわけではないのだが、盗撮による生徒の性犯罪を法律で裁く物語だと思い込んで観ていたため、意外な結末に驚いた。
他のエピソードも視聴者の先入観をひっくり返して意外な結末を迎えるオチが多い。
近年のドラマで定番化しているアップデートされた現代的な価値観で旧態依然とした価値観に囚われている人間を批判する作品ではなく、かといって『不適切にもほどがある!』のようなアップデートされた現代の価値観に対して息苦しさを感じている古い価値観の持ち主が異議申し立てをするような作品でもない本作は、独自の価値観を提示している。
最終的にどのエピソードも、生徒が善良で優しいことによって問題が解決する。
その意味で性善説に基づいた「優しいドラマ」だと言える。

本作に登場する生徒たちは優しい善人で、そのため繊細でとても傷付きやすいのだが、実はもっとも優しくて繊細で傷つきやすい内面を抱えているのが、スクールロイヤーの健治である。
彼はどうやら学生時代にいじめられていたようで、そのことがトラウマとなり学校自体を恐れている。濱ソラリス高校に通う際にも校門の前で立ち止まってしまい、中に入ることができない場面が繰り返し描かれており、人と喋る時もおどおどしており、自信なさげに見える。そんな人と関わるのが苦手な健治に、同じように傷つきやすい優しい生徒たちはシンパシーを抱くようになる。
そして話が進むと、健治は廃部になっていた天文部を復活させるために顧問となり、物語は天文部を舞台にした部活モノとしての側面が大きくなっていく。

学ぶことで「幸い」を見つける大森美香の世界

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月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話より(C)カンテレ・フジテレビ

本作の脚本を担当する大森美香は、NHKドラマ『ひとりでしにたい』も今クールで担当していたが、オリジナルドラマの『僕達はまだその星の校則を知らない』の方が彼女の作家性が強く現れているように感じる。
大森は人間ドラマの背後に学術的な価値観を重ねる作劇手法を得意としている。例えば大森の代表作『不機嫌なジーン』では、動物行動学を専攻する大学院生の女性を主人公に、恋愛感情は遺伝子を残そうとする生物の本能なのか? という問いかけが恋愛ドラマの中で描かれていた。
今回の『僕達はまだその星の校則を知らない』では法学と天文学が物語の背骨となっている。
今のところ、法律と天文は無関係に感じるが、第3話で健治は「法律も宇宙も学校とは違って秩序がある」と言い、その後、天文部を復活させたい男子生徒が健治から言われて、学校の校則を詳しくチェックする場面が描かれる。 健治は生徒に「僕は何かをどうにかしたいと思う時には法を読みます。そうすると世の中の仕組みがわかって前に進む手段が見つかることがある。日本は社会のあらゆる人が法律に従う法治国家ですから」と言った後、学校内における法律が校則だと指摘する。

タイトルにある「その星の校則」とは、学校の校則のことであり、あらゆる場所に存在する法則だとも言える。
世界の法則を学ぶことで、自分にとっての「幸い」を見つける。 それこそが、大森美香がドラマの中で描いてきたことである。


カンテレ制作・フジテレビ系列 月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』 毎週月曜よる10時

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。