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メゾン マルジェラのグレン・マーティンスが堂々デビュー。創設者との間に見出す、ベルギー人ならではの感性を光らせて【2025-26年秋冬 クチュール】

  • 2025.7.11

グレン・マーティンスのメゾン マルジェラ（MAISON MARGIELA）でのデビューショーで私たちが目にしたものが何であれ、それは凄艶とした美の幻影に包まれていた。剥がれかけた紙が何層にも壁に貼られた地下の部屋で、精巧なマスクを被り、ゴシック彫刻や奇妙なアンティーク風のパッチワークを想起させるルックを身に纏ったモデルたちは、まるで壁から飛び出してきたかのようにも映る。

マルタン・マルジェラとジョン・ガリアーノ、このふたりに続いてアーティザナルコレクションを披露するには、それなりの度胸がいる。この挑戦には、勇敢で恐れ知らずでありながら、ファッション界の多くが神聖視するメゾンの伝説に傷をつけることのない、スマートで熟練したデザイナーが必要だった。そんななか抜擢されたマーティンスだったが、彼はベルギー人が創設したこのメゾンに自らのベルギー人独特の感性を持ち込み、適任であることを証明してみせたのだ。

ショーの前、マーティンスはこう話していた。「私はブルージュ出身なのですが、そこにはどこかゴシック調の陰鬱な空気が漂っているんです。ブルージュにはフランダース地方の厳かな雰囲気があり、もちろんそれはマルタンにも通じるものです。彼は私たちの服に対する見方を変えました。ですから、このメゾンの一員になれたことは非常に身に余る光栄です。そして当然、最高のクチュリエであるジョン・ガリアーノの後任ということもあって、さらに身が引き締まる思いです」

マーティンスはこのコレクションをひとつの家に例えたようで、17世紀のフランドル地方のエンボスレザーの壁紙やアンティークのテキスタイル、当時飾られていたであろうオランダの花や静物画などに見る、豊かであると同時に朽ち果てたようなテクスチャーを取り入れた。「私はミニマリストではありません」とデザイナーは笑う。彼の頭のなかでは、剥がれた壁紙の表面は、マルジェラが最初のコレクションに用いたペイントやパッチワークのテクニックとつながっていたようだ。

マーティンスはまた、紙やフォトコピー、ハンドペイント、ジャンクジュエリー、ブリキなどを駆使して、コレクションの3分の1をアップサイクルした素材で作り上げた。彼は透明なプラスチックのルックから着手したそうで、これは吹きガラスを参考にしているという。思えば、マルタン・マルジェラの1990年春夏コレクションに登場したドライクリーニングバッグにも似ているかもしれない。

そして彼は、自身のスタイルも存分に発揮している。不気味なオーラを纏ったゴシック教会の彫像を思わせるルックに、発光するようなメタリック加工が施されたベルベットのドレープ。リサイクルされたバイカージャケットはマルジェラの定番だが、それも壁紙をプリントしたパッチワークで覆われていた。

それから、よりデリケートなデザインからなる「チャプター（マーティンスはこう表現する）」が続いた。チュールのフェザーに翼、プリントの表面に咲き乱れる花、シアードレスから剥がれるようにあしらわれたレースのカットアウト。そこに、ケープのようなドレープがかった3着のドレスが登場すると、ぞくっとするような感覚を覚えた。このヴェールのようなルックの下には不思議な構造のコルセットがのぞいており、ヒップは突き出し、フロントはやや盛り上がっている。マーティンスはここでガリアーノにオマージュを捧げていたとも読み取れる。

デビューコレクションとしては、驚異的な仕上がりだ。しかしここで忘れてはならないのは、マーティンスはどこからともなく突如現れたデザイナーではないということだろう。現在42歳の彼は、自身のブランドであるY/プロジェクト（Y/PROJECT）の成功の後、ディーゼル（DIESEL）のクリエイティブ・ディレクション、そしてジャンポール・ゴルチエ（JEAN PAUL GAULTIER）のゲストデザイナーを務めた経歴の持ち主で、若い頃から着実に実績を積み上げてきたデザイナーの部類に属する。2025年のファッション界の覇権を争うべく、今まさにトップブランドに上り詰めているのは、この部類の面々だ。メゾン マルジェラは、グレン・マーティンスという理想的な守護神を見つけたと言っていいのではないだろうか。

Text: Sarah Mower Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.COM

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