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「今じゃ絶対規制される」“あまりの過激描写”に前代未聞の事態が勃発…「観る手段がほぼない」33年前に公開された“伝説アニメ”

  • 2025.8.6

映画の中には、公開を待ち望まれながらも、さまざまな事情によって上映中止に追い込まれた作品があります。今回は、そうした“一度上映禁止になった邦画”の中から、5本をセレクトしました。本記事ではその第2弾として、『地下幻燈劇画 少女椿』(密閉映劇霧生館)をご紹介します。ひとりぼっちになった少女がたどり着いたのは、異形の芸人たちが暮らす見世物小屋――。“伝説のアンダーグラウンドアニメ”として封印された本作が、今も語り継がれている理由とは?

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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Google Geminiにて作成(イメージ)
  • 作品名(配給):『地下幻燈劇画 少女椿』(密閉映劇霧生館)
  • 公開日:1992年5月2日
  • 出演:みどり(中 美奈子)

貧しい家で病気の母と暮らしていた少女・みどり(:中美奈子)は、花を売りに出かけた先で“親切なおじさん”に声をかけられます。「困ったときは、いつでも訪ねておいで」と告げられたみどりは、その言葉を胸に帰宅しますが、母はすでにネズミに襲われて亡くなっていました。

ひとりぼっちになった彼女は、おじさんを頼って訪ねますが、そこは“赤猫座”という異形の芸人たちが暮らす見世物小屋でした。過酷な日々の中で、彼女は虐待やいじめにさらされながらも必死に生き延びていきます。

やがて、謎のマジシャン・ワンダー正光(声:森下紀彦)が小屋に現れたことで、みどりの運命は大きく動き始めるのでした――。

“グロテスクで耽美”…伝説の自主制作アニメ

本作の原作は、雑誌『ガロ』で強い存在感を放っていた漫画家・丸尾末広さんの同名作品です。浮世絵を思わせる緻密な画風と耽美でグロテスクな世界観で国内外の多くのファンを魅了し、『少女椿』は丸尾さんの代表作となっています。

監督の原田浩さんは絵津久秋という別名で指揮を執り、脚本・作画・製作のすべてをひとりで担当。完全自主制作のこの異色作は、完成までに4年を要したといいます。本作はただのアニメーションではなく、白煙や紙吹雪を用いた“仕掛け上映”を前提としており、神社や地下室などでゲリラ上映されていました。

製作を担ったのは、アングラ色の濃い制作集団“密閉映劇霧生館”。既存の配給に頼らず、表現の自由を貫く独自路線を歩んでいます。

声の出演には、主人公・みどりを演じた中美奈子さんのほか、小劇団の俳優たちが参加。舞台仕込みの迫力ある演技が、物語の独特な世界観をさらに際立たせています。

“ファン投票1位”で特別上映するも“国内上映禁止”

本作が“伝説のアンダーグラウンドアニメ”と呼ばれる理由のひとつは、国内で事実上の上映禁止となった異例の経緯にあります。物語には、奇形や内臓の露出、児童虐待や性的暴力、動物虐待など、現在の倫理基準ではスクリーンに映すことが難しい描写が多く含まれており、“一般公開は不可能”と言われてきました。

初上映は1992年5月。神社や地下室での“仕掛け上映”が話題を呼ぶ一方、作品自体は次第に問題視されるようになっていきます。

そして1999年、スペインの映画祭での上映後、帰国時にフィルムが成田空港で没収され、そのまま破棄される事態に発展。のちに製作元の霧生館には“国内への輸入および上映は禁止”とする正式な通知が届きましたが、具体的な理由は一切明かされませんでした。

さらに混乱を招いたのが、フランスでDVD化を試みた際の出来事です。成田空港から送られたマスターテープには“要注意貨物”と書かれた書類が添付されており、フランス・ドゴール空港で“わいせつ物”と判断されて没収されてしまいました。

幸いにも、現地にいたDVD会社の社長がカンヌ映画祭に出席していたため、“映画祭に関係する作品”と説明。フランス側と交渉を重ね、2週間後にようやく返却されたといいます。

2004年には東京ファンタスティック映画祭でファン投票1位を獲得し、特別上映が実現。しかしその後、警察から「今後8年間は上映を控えるように」との要請がありました。“8年後には社会が変わっているかもしれない”との期待もありましたが、現実には表現への規制は一層強まっています。

SNSでも「観る手段がほぼない」という声がある通り、現在も日本国内では正規流通されておらず、DVD化もされていないため、正式な形で鑑賞することは非常に困難な状況が続いています。

「クセになる」と称される異色の名作

原作『少女椿』は2011年に舞台化され、2016年には俳優・中村雅俊さんと五十嵐淳子さんの娘でモデルの中村里砂さん主演で実写映画化も実現しました。

1992年のアニメ版『地下幻燈劇画 少女椿』も今なお語り継がれており、その過激な内容から「地上波では絶対に放送できない」「今じゃ絶対規制される」という声も。しかし、「後味は最悪だけどクセになる」「悪趣味なのに、なぜか心地いい」といった称賛も多く寄せられています。

「レトロな画風がいい」「原作愛にあふれている」「アニメというより舞台」「紙吹雪や口上があって初めて完成する」と語る人もおり、当時のゲリラ上映を“体験してみたかった”という声も少なくありません。

封印されたまま、いまもなお強烈な存在感を放ち続ける『地下幻燈劇画 少女椿』“一度上映禁止になった邦画”という言葉を象徴する一本です。


※記事は執筆時点の情報です