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駅員「88万円請求します」妻「たった1回で…」2年前、“最悪の結末”を招いた絶対NG行為【法律のプロが解説】

  • 2025.8.10
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「体調を崩して会社を休むことになったので、定期券を貸してあげた」「夫の定期券で買い物に行った」

何気ない「家族間の貸し借り」が、後に数十万円の請求や刑事責任に問われるなど深刻なトラブルに発展するケースがあります。

実際に、妻が夫の定期券を使用したことが駅員に発覚し、3か月間の不正利用分として88万円の請求を受けた事例が、2023年にSNSで話題となりました。「家族だから大丈夫」という軽い気持ちが、なぜこれほど重大な結果を招くのでしょうか。

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所 寺林智栄 弁護士に詳しく聞いてみました。

なぜ88万も請求?法的責任は?

——JRの定期券を名義人以外が使用した場合、どのような法的責任が生じるのでしょうか?

JR各社の旅客営業規則では、定期券の名義人以外による使用は明確に禁止されています。

たとえばJR東日本の規則では、第168条で「定期乗車券をその記名人以外が使用したとき、無効として回収する」と定められており、第265条では「第168条に該当する場合は、その定期乗車券の効力が発生した日からそれぞれの無効の事実を発見した当日まで、その定期乗車券を使用して券面に表示された区間を、毎日1往復(又は2回)ずつ乗車したものとして計算した普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせ収受する」とされています。

つまり、名義人以外が使用することは運送契約の条件違反であり、発覚すれば定期券を没収され、過去に遡って運賃と増運賃を請求されることになります。

——このような規約違反は、法的にはどのような責任につながるのでしょうか?

民事責任と刑事責任の両方が発生し得ます。

まず民事責任についてですが、旅客営業規則は運送契約の一部ですから、違反は契約違反(債務不履行)となります。JRは契約に基づき、規定された額の損害金を請求できます。具体的には、無効乗車が発覚した日から遡って、利用が確認できる期間(多くは最大3か月)について、①実際の運賃、②同額の増運賃を合計して請求します。長期間の不正使用だと、請求額が数十万円に及ぶことも珍しくありません。

刑事責任については、ケースによって以下の罪名が考えられます。

  • 詐欺罪(刑法246条):JRに対して「正当な利用者である」と誤信させ、運送サービスを不正に受けた場合に成立し得ます。刑罰は10年以下の懲役刑です。
  • 私電磁的記録不正作出・供用罪(刑法161条の2):自動改札機に虚偽の情報を作らせる行為に該当する可能性があります。刑罰は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
  • 偽計業務妨害罪(刑法233条):JRの改札業務を偽計により妨害したと評価される場合があります。刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

刑事事件としての立件は民事請求よりハードルが高いですが、長期間・計画的・高額であれば立件される可能性があります。

 貸した側は罪に問われる?

——定期券を家族に貸した名義人にも、法的責任が及ぶ可能性はあるのでしょうか?

故意に定期券を貸した場合、名義人にも共犯・幇助といった法的責任が発生する可能性があります。

共犯(刑法60条)は不正使用の計画に加わり実行させた場合、幇助(刑法62条)は不正使用を容易にした場合、教唆(刑法61条)は不正使用をそそのかした場合に成立します。名義人に適用される可能性がある主な罪は、詐欺罪や私電磁的記録不正作出・供用罪の共犯・幇助と考えられます。

実務上は、不正使用の主導・黙認が明白で、金額が高額かつ長期間の場合に、これらの共犯や幇助としての立件が検討されるでしょう。

——会社から支給されている定期券を家族に使用させていた場合、勤務先からの処分はありますか?

会社が支給する定期券や通勤手当は、「通勤のために使用する」という条件付き支給です。家族に貸与した場合には、以下のリスクが発生します。

  • 不正受給・横領扱い:実費と異なる用途で使用したため、「通勤手当の不正受給」や「会社財産の横領」にあたる可能性があります。
  • 返還請求:不正期間の通勤手当・定期代が不当利得として返還請求されるリスクがあります。
  • 懲戒処分:就業規則の「会社の名誉・信用を傷つける行為」「会社財産の不正使用」等に該当し、減給・停職・解雇まであり得ます。特に公務員や大企業では懲戒処分が厳格に運用されるので、注意が必要です。

「悪気はなかった」「知らなかった」も処分される?

——「悪気はなかった」「知らなかった」場合でも、処分や請求の対象になってしまうのでしょうか?

旅客営業規則は契約条件の一部です。利用者は切符や定期券を購入した時点で、規則に同意したものとみなされます。そのため、故意や認識の有無に関わらず、規則違反として取り扱われ、定期券が無効化されるなどの措置が行われるリスクがあります。

民事上の請求については、違反の自覚がなかったケースでも、JRからは遡及運賃+増運賃(2倍払い)の請求が行われます。「知らなかった」「家族だから大丈夫と思った」という理由は、請求免除の根拠にはなりません。

懲戒処分についても、会社から支給される通勤定期や通勤手当は「本人が通勤のために使う」ことが支給条件です。不正使用の認識がなかった場合でも、就業規則違反として処分対象になり得ます。悪質性が低ければ戒告・注意で済む可能性がありますが、繰り返していたり金額が大きい場合は減給・解雇の可能性もあります。

刑事責任については、詐欺罪や私電磁的記録不正作出罪などは「故意犯」です。刑罰が科されるためには「禁止されていることを知っていてやった」ことが必要となります。本当に禁止を知らなかった場合は成立しにくいですが、社会通念上「知らないはずがない」と評価されれば、故意ありとみなされ犯罪が成立する場合もあり得ます。

例えば、駅構内の表示や定期券購入時の注意書きがあったのに見ていない、あるいは無視した場合などは、「未必の故意」(禁止かもしれないが構わないと思ってやった)として立件される可能性があります。

一瞬の気の緩みが最悪の結末を招く

家族間での定期券の貸し借りは、明確な規約違反であり、数十万円規模の経済的負担や懲戒処分、さらには刑事責任に問われる可能性もある、悪質な行為です。

「家族だから大丈夫」「少しの間だけなら」という軽い気持ちが、人生を大きく左右する深刻な結果を招きかねません。定期券は必ず名義人本人のみが使用し、必要な場合は正規の方法で別途購入するか、現金で運賃を支払いましょう。

一時の便宜のために、取り返しのつかないリスクを背負わないよう、日ごろから十分に注意することが大切です。


※この記事は、公開日時点の法律や情報に基づいています。

出典:JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第4章 乗車券類の効力 -第2節 乗車券の効力

出典:JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第7章 乗車変更等の取扱い -第3節 旅客の特殊取扱 -第2款 乗車券類の無札及び無効


記事監修:NTS総合弁護士法人札幌事務所 寺林智栄 弁護士

 

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2007年、弁護士登録(札幌弁護士会所属)。 2013年から2017年まで東京家庭裁判所家事調停官を務める。 離婚・相続などの家事事件、労働問題、一般民事事件、企業法務など、幅広い分野を担当している。



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