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生徒「夏休みの宿題はAIで」令和ならではの光景に先生は何を想う?元小学校教諭が語る“本音”

  • 2025.8.5
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

AIの技術は日々進歩し、私たちの暮らしの中にも当たり前のように浸透し始めています。文章の要約や翻訳、資料作成、スケジュール管理まで、以前は人の手で時間をかけて行っていた作業も、今ではAIが一瞬でこなすように。

こうしたAI活用の流れは、大人だけでなく子どもたちの世界にも影響を与えているようです。特に、夏休みになると「AIを使って読書感想文を書いた」「AIで宿題をはやく終わらせた」といった声がSNSでも見られるようになりました。

しかし、夏休みの課題や読書感想文をAIに任せることは、本当に子どもたちのためになるのでしょうか?

そこで今回は、「読書感想文や夏休みの宿題をAIにやらせること」について、元小学校教諭のAさんにお話を伺いました。

子どもたち自身にも考えさせたい問題

---近年、読書感想文や夏休みの課題を生成AIで“代行”させるケースが話題になっています。現場の先生として、こうした傾向をどう受け止めていらっしゃいますか?

AIは確かに便利であり、うまく使えば私たちの暮らしを向上させてくれるものであることは確かです。しかし、AIはあくまで生活を良くするための“手段”であって“目的”ではないことを心に刻んでおくべきです。

---AIの使用は課題本来の目的には沿わないということでしょうか?

読書感想文の“目的”は、「じっくりと読書をし、本の内容について『自分自身が』どう感じたのか、思いを文章化すること」だと考えます。また、夏休みの宿題の“目的”は、これまでの学習内容を振り返り、2学期に向けて足りない分を補強すること、学校の授業から離れる夏休みにも学習習慣を確立することにあると思っています。AIを使うことでこれらの目的は達成されるのか?私の答えは否です。

---たしかにそれでは目的とはかけ離れてしまいそうですね。

便利なものがあれば当然使いたくなるのが人間の心理です。しかし、便利だからといってなんでもAIに任せていいのか?をしっかりと考えさせていくことが、現場の教師の役目ではないでしょうか。私であれば、宿題を配る前に、学級の子どもたちに「宿題にAIを使う人が増えているみたいなんだよね、どう思う?」という話をします。そうした対話の時間を通して、子どもたち自身に考えさせたいと思います。

---子どもたち自身に考えさせることは大切ですね。実際に、AIを使って書かれたと見られる作文や課題に接したことはありますか?

実際にAIを使ったと思われる課題に接したことはありません。(小学校だからかもしれませんが…)学級には30人以上の子どもがいるため、一人ひとりの課題を精査してAI使用の有無を見抜く時間は、正直言って取れません。学級の子どもにそれを指摘して、保護者が「うちの子は自分でやったと言っている、担任に言いがかりをつけられた!」と言われるリスクも考えられます。

ですから、実際にAIを使用したと思われる課題に遭遇しても指摘することはしないかなと自分は思います。ただし、先ほどの回答のように、課題を出す前にAIについて考える時間を設けることは大切にしたいです。

「AIを使って宿題を終わらせることはできても、それは“自分の力がついた”ことにはならない」ということは、子どもたちにしっかり伝えておきたいと思っています。

---これからAI時代を生きる子どもたちにとって、“書く力”や“考える力”はどのように育てていくべきだとお考えですか?

まず何より、子どもたちには「自分自身で考えることの大切さ」を伝えていきたいと考えています。

 現代の子どもたちはデジタルネイティブ世代であり、物心ついたときからインターネットやAIなどのテクノロジーに囲まれて育っています。そうした環境の中で、「答えはAIに聞けばいい」と安易に正解を求める姿勢が小学生にすら広がりつつあることに、現場でも危機感を覚えます。

けれども、「自分で考える力」こそが、自分の人生を自分で選び、社会の中で自立して生きていくための土台です。

---AIを使ってばかりでは、考える機会を失ってしまいそうですね。

さらに、「書く力」は、思考を整理し、自分の感じたことや考えたことを他者に伝えるための重要な手段であり、人間らしさや個性を表す力だと思います。

AIの進化は止められませんし、それをうまく活用して生活を豊かにしていく力も、これからの時代には必要です。ですが、AIと共存する社会だからこそ、「自分の言葉を持つこと」「自分なりの視点で物事をとらえること」がより重要になると感じています。

---AIを全く使わないのではなく、うまく活用することが大切なのですね。

そのためにも、私は日々の授業の中で、子どもたちが「書くことに自信をもち、自分の思いや考えを言葉にする楽しさ」を味わえるような取り組みを大切にしていきたいと考えています。

---先生方が日々子どもたちのために考え、工夫されていることが伝わりました。ありがとうございました!

AIを上手に活用できるように

AIの活用は私たちの暮らしを便利にしてくれますが、子どもたちの学びにおいては“使い方”が大切になってきます。読書感想文や宿題は、単に終わらせればよいわけではなく、自分の力をつけるためのもの。便利だからといってAIに任せてしまっては、本来の目的は達成できなくなってしまいます。

一方で、AIはすでに私たちの身近にあり、これからの時代は上手に活用する力も必要でしょう。だからこそ、「自分の言葉を持つこと」「自分なりの視点で物事をとらえること」が大切だといいます。

AIと共に生きるこれからの社会で、子どもたちが自分らしく学び、成長する力をつけていけるように、大人がサポートしていきたいものですね。


《取材協力》
元小学校教諭・Aさん(30代・関東在住)
2010年より教職に就き、主に5年生を担任。得意科目は体育。教職のやりがいは「子どもの『わかった!できた!』の瞬間」

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