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ただの恋愛ドラマじゃない…“名前すら書けないホスト”と“元ストーカー教師”が出会う予測不能な大人のドラマ

  • 2025.7.16
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(C)SANKEI

7月10日に放送がスタートした連続ドラマ『愛の、がっこう。』は、教師とホストの愛の物語だ。
主人公の小川愛実(木村文乃)は真面目な高校教師。教え子の沢口夏希(早坂美海)がホストクラブ「THE JOKER」に入り浸っていることを学校から知らされた愛実は、彼女を連れ戻すため、しぶしぶホストクラブに乗り込むこととなる。
愛実はホストのカヲル(ラウール)に、二度と夏希とは会わないという念書を書くように要求する。しかし中々、念書を書いて送ってこないカヲルに腹を立てて、再び彼の元を訪れる。カヲルは自宅のマンションの屋上で念書を書こうとするが、実は彼は小学校、中学校にもまともに通っておらず、自分の名前すらちゃんと書けなかった。

そんなカヲルに、念書を通して文字の書き方を愛実が教える場面が第1話のハイライトだ。

また、カヲルの本名は鷹森大雅だが、鷹という字がなかなか書けないカヲルに教えることで、自分の名前の良さを再発見していく姿がとても微笑ましく、このドラマならではの美しい場面となっている。

真面目で保守的な教師に見えるが内側に激しい衝動を抱えている愛実

昨年、話題になった定時制高校を舞台にしたNHKドラマ『宙わたる教室』や、現在放送されている、かるた競技を題材にした学園ドラマ『ちはやふる-めぐり-』など、学ぶことの喜びを描いた学園ドラマはいつの時代も人気だ。

この『愛の、がっこう。』では、文字を教えることを通して、女教師とホストの間に絆が芽生える場面が描かれており、これから愛実に文字を教わったカヲルが、これまでの自分を見つめ直し人として成長していく姿を描くドラマになるのではないかと予感させるが、各登場人物が抱えているものは複雑で、そう単純にはいかなそうだ。

まず何より驚いたのが愛実の過去。元々、彼女は出版社で働いており、職場の先輩と付き合い結婚の約束をしていたが、男に別の好きな人ができて振られたことで、心のバランスを崩し、何度も電話し、ストーカー行為を繰り返した末に警察に通報され、会社から自己都合退職を迫られ、仕事を辞めることとなった。その後、自殺未遂をおこない、一年間家に引きこもった末に、母校の採用試験を受けて教師となった。

地味な風貌で生真面目で保守的に見える愛実の心の奥底には、一度火がつくと制御できない激しい衝動のようなものが存在し、第1話冒頭でも自分のことをバカにする態度をとる生徒と小さなトラブルを起こしている。

また、愛実は父親の紹介で大手銀行勤務の川原洋二(中島歩)と交際しているのだが、穏やかで優しそうに見える洋二には何か別の顔がありそうだ。 第1話の終盤では彼が人妻とホテルで情事に耽っている姿が描かれており、今後、痴情のもつれで酷い事件が起こるのではないか?と心配になる。そしてホストのカヲルは、そんな愛実の中にある孤独な心を嗅ぎ取っており、客として落とそうと考えているようで、これからの展開を考えると修羅場は避けられそうにない。

『昼顔』の井上由美子と西谷弘が紡ぐハードボイルドなラブストーリー

本作の脚本は井上由美子。チーフ演出は西谷弘が務めている。

二人は2014年に放送され大ブームとなった不倫ドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』を手掛けたタッグだ。 大人の色気が漂うハードボイルドな恋愛ドラマを作らせると右に出るものがいない二人だが、今回の『愛の、がっこう。』も硬質なタッチで人の心の機微を描いており、ハードなタッチのラブストーリーとなりそうな気配が漂っている。

本作が放送されているフジテレビの木曜劇場(木曜夜10時枠)は、元々、大人向けドラマ枠としてドラマファンから愛されており、『昼顔』が放送された10年前は本作の他にも『最後から二番目の恋』や『最高の離婚』といったベテラン脚本家による大人の恋愛ドラマのヒット作が続々と作られ、話題になっていた。

近年は『silent』や『波うららかに、めおと日和』といった若者向けドラマの印象が強く、大人向けドラマのヒット作は減っているが、今回の『愛の、がっこう。』は久しぶりに木曜劇場らしいアダルトな色気が漂う大人のドラマとなっており、昔からの木曜劇場のファンにとっては待望の作品となっている。

また、ホストクラブの描き方もシリアスなものとなっており、ドラマ終了後には「このドラマはフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません」というテロップと共に「令和7年6月28日に改正風営法が施行されました。このドラマのホストクラブにおける一部表現には、違反となりうる営業行為が含まれています。」という注意喚起が表示され、番組ホームページには、改正風営法によるホストクラブの営業における禁止行為が羅列されている。

このテロップは、一昔前のドラマならファンタジーの存在として描かれていたホストの描写を、本作ではリアルに描くという宣言なのだろう。 しかし、だからといってカヲル達ホストを、女性客を搾取する一方的な悪として描くというわけでもなさそうである。

ドラマとしては愛実とカヲルが文字を教える勉強を通して師弟愛が芽生えていく方が収まりは良さそうだが、そこに恋愛の要素が絡むと、途端にいかがわしい気配が漂ってくる。

この生真面目さといかがわしさの危ういバランスこそが『昼顔』チームが作り上げてきた大人のドラマの魅力だ。

『昼顔』が他の不倫ドラマと大きく違ったのは、不倫に走る主婦が抱えている繰り返しの日常生活の中で感じている鬱屈をしっかりと描いていたことだった。その鬱屈に説得力があったからこそ、日常から逃げ出すための手段としての不倫が切実な行為として視聴者の胸に響いたのだ。

今回の『愛の、がっこう。』もその鬱屈は健在で、特に愛実が抱える切羽詰まった感情の切実さには説得力がある。

真面目な教師として日々をやり過ごしながら、今にも爆発しそうな鬱屈を抱えている愛実にとって、カヲルとの出会いは救いとなるのか、それとも破滅への一歩となるのか?

鬱屈を抱えた愛実がどこにたどり着くのか、最後まで見届けたい。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。