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“結婚しないとヤバい”からの解放 プロデューサー本人が語る、ドラマ『三人夫婦』が描いた“新しい愛の形”

  • 2025.6.17

「気づいたら30代。恋愛からも遠ざかっていて、焦りもある。でも、なんで焦ってるんだろう?」そんな疑問が頭をよぎったことのある人にこそ、見てほしいドラマがある。『三人夫婦』は、3人で夫婦を組むという異色の設定ながら、ほっこりと笑えて、観終えたあとにどこか自分を肯定したくなる、そんな不思議な魅力に満ちた作品だ。そこに込められているのは、恋愛や結婚に対してどこか息苦しさを感じている人たちに向けた「いまのあなたのままで、大丈夫」というメッセージ。その芯には、プロデューサー・箱森菜々花(AOI Pro.)自身の人生がある。彼女が30代前半に感じた葛藤、気づき、そして変化。それらが静かに、けれど力強くこのドラマを支えている。

30代の焦り、恋愛から遠ざかる感覚、そして“固定観念”からの脱却

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(C)「三人夫婦」製作委員会

『三人夫婦』のメインキャラクターの一人である美愛(朝倉あき)は32歳。仕事もそこそこ順調で、新平(鈴木大河)という大好きな恋人もいる。けれど、ふとした瞬間に“このままでいいのか”という不安がよぎる。「美愛の年齢設定を32歳にしたのは、自分自身のリアルな感覚に近いからです」

箱森さん自身も30歳を過ぎたころ、「早く結婚しないと」「私って、結婚できないのかな?」という謎の焦りに苛まれていたという。「若いころは『こうあるべき!』という理想や焦りがあったけれど、周りを見たり、自分自身が落ち着いてくると、恋愛だけがすべてではない、さまざまな形の『愛』があっていいんだな、と思えるようになりました」

恋愛の楽しさを知ると「また恋したい」という気持ちが自然と湧いてくるもの。たとえば、苦手だと思っていた年下の彼との出会いがあったり、自分が思い描いていた結婚とは違う「三人夫婦」という形に共感できたりと、人生には予測不能なことが起こるものだ。

「30代前半のころは恋愛に必死で余裕がなかったけれど、年齢を重ねていくうちに“一人でも楽しい”“恋人がいなくても大丈夫”という心のゆとりが生まれてくる。そんななかで、もし恋愛ができたらそれはそれでとても楽しい、という気持ちが本音なのだと思います。“こうあるべき”という固定観念を手放して“こんな形もアリかもね!”と、枠にとらわれない愛の形を受け入れてほしい。この作品には、そんなメッセージも込めています」

共同生活の"あるある"と人生の真実

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(C)「三人夫婦」製作委員会

「三人夫婦」という前代未聞の関係性を描くうえで、箱森がとくにこだわったのは“リアル”な描写だった。

「正直、第1話の時点で夫婦になって、そこから夫婦の話を描くこともできました。でも、やっぱり“三人で夫婦をやっていく、この決断をするには時間がかかるよね”という話になり、まずは『三人夫婦』を目指すためのストーリーにしよう、と落ち着いたんです」この判断が、視聴者が拓三(浅香航大)、美愛、新平の三人の関係性を自然に受け入れ、共感するうえで非常に重要なポイントとなった。

共同生活における“あるある”が随所に散りばめられているのも、このドラマの大きな魅力だ。

「本編でも描いていますが、トイレットペーパーの交換問題は出ますよね。芯を替えない人、まだ使えるのに替えてしまう人など、事前の打ち合わせではいろいろな話で盛り上がりました」

洗濯物のたたみ方、歯磨き粉の押し方、お風呂でのボディソープを使う量……。誰もが経験したことのあるような、些細なすれ違いや価値観のズレが丁寧に描かれることで、三人の共同生活がよりリアルに感じられる。三人で夫婦になることを持ちかけられる拓三が、トイレットペーパーの芯を替えない新平に対し戸惑いつつも、最終的に譲歩していく姿は、共同生活における成長の象徴でもあった。

本作は単なるフィクションに終わらず、現代社会における法的な側面にも踏み込んでいる。公正証書の話が出てくるなど、事実婚や同性婚といった制度を視野に入れている点にも注目したい。

「三人で夫婦になるって、実際にできるんだろうか? という観点から、事実婚や同性婚との違いがあるかどうかも調べて、最終的には弁護士さんに相談しました」

重くなりすぎない程度に現実との接続点を盛り込むことで、視聴者は“こんな未来も選べるのかも”と、よりリアルに“三人夫婦”という選択肢を考えることができる。

『三人夫婦』が描く、未来への希望

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(C)「三人夫婦」製作委員会

『三人夫婦』はSNSでも大きな話題を呼んだ。箱森さんは当初「タイトルが『三人夫婦』で、しかもオリジナルストーリーだから、どんな受け取られ方をされるかすごく懸念していました」と、放送前の不安だった気持ちを明かしてくれた。しかし、作品が進むにつれて“三人夫婦もアリかも”といったポジティブな声が増えていったのだという。

「“三人夫婦という形もアリなのかも”と視聴者の方々が思ってくれたことが、すごく嬉しくて。ポジティブな発言がたくさんあると、やっぱり嬉しくなりますね」最終回を前に、多くの視聴者が3人の未来を案じていることだろう。箱森さんは最終回について「一番悩んでいました」と語る。「いままで皆が抱えていた悩みの答えとして、すべて答え合わせをするような気持ちで、いろいろなことを考えました。何度も何度も検討を重ねた結果、出来上がった脚本が、今回の最終回の答えだったんです」

果たして、拓三、美愛、新平の三人が悩み、考え、最終的に行き着いた答えとは?

「彼らの人生はまだまだ続いていくし、ここからが始まりです」と語る箱森プロデューサーが提示する最終回は、恋愛や結婚生活に限らない、人生のあらゆる場面で通用するメッセージも込められているはずだ。『三人夫婦』は、私たちに“愛の形は一つではない”ということを優しく、しかし力強く示してくれた。ラブコメとしてのおもしろさだけでなく、共同生活のリアルや、人生の選択に対する深い洞察が込められているからこそ、多くの人の心を掴んだのだろう。

このドラマが提供してくれた新しい視点は、私たちの固定観念を打ち破り、未来への可能性を広げてくれた。箱森さんの言葉から溢れる作品への愛情と、視聴者への真摯な思いは、これからも私たちのなかに深く刻まれていくはずだ。


TBSドラマストリーム『三人夫婦』毎週火曜 深夜0:58~ ※一部地域をのぞく

【TVer】1話と最終話 無料配信中
https://tver.jp/series/sr60s0sczr

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧:Twitter):@yuu_uu_