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一級建築士「この間取り、後悔します」理想の『南向きリビング』を購入も…一家を襲った“大誤算”

  • 2025.8.9
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「回遊動線があって、南向きリビングで…」といった間取りは、多くの人にとって理想的に映るかもしれません。実際、住宅展示場やSNSでも人気のある間取りパターンです。ですが、こうした“見た目の良さ”や“流行の仕様”を重視しすぎると、暮らし始めてから「なんか違った…」と後悔することがあります。

私は一級建築士としてさまざまな住宅相談を受けてきましたが、人気の間取りほど、意外な落とし穴が潜んでいると感じています。ここでは、実際にあった二つの事例を紹介しながら、間取り選びで注意すべきポイントをお伝えします。

回遊動線が裏目に出た“通過するキッチン”

最近増えているのが、「回遊動線」を取り入れた間取り。家の中をぐるっと一周できる動線は、移動距離が短くなる・家事が効率的になるといったメリットがあります。

しかし、実際にご相談を受けたあるご家族では、この回遊動線が思わぬストレスを生んでいました。間取りは「玄関→リビング→キッチン→洗面所→浴室」と一方向に回れる構成。一見、家事効率が良さそうなレイアウトですが、問題は「キッチンが完全な“通過点”になっている」ことでした。

奥様はこう語っていました。

「キッチンで料理をしていると、子どもが横からサッと走り抜けていきます。包丁を持っていたり、火を使っていたりするのでヒヤッとすることが多くて…」

キッチンが通過動線になると、他の家族の出入りが増えるため、調理に集中できず、調味料や器具の置き場所も制限されがちです。特に小さなお子さんがいる家庭では、動線と安全性が深く関わってくるため注意が必要です

南向きリビング+東西に長い間取りのワナ

もうひとつの事例は、「明るい南向きリビング」を実現するために、建物を東西に細長く設計したケースです。たしかに南面に大きな開口を取ったリビングは非常に明るく、日中は照明が要らないほど快適でした。

ところが、東西に引き伸ばしたことで北側の部屋が暗くなり、一日中日が当たらない環境になってしまいました。加えて、通風のルートも限られており、空気の流れが滞りやすくなっていたのです。

「北側の子ども部屋は昼でも照明が必要で、冬場は結露がひどい。カビも出てきてしまって…」と、相談者は困っておられました。

「南向き=正解」という先入観からくるこの失敗は、敷地や建物全体のバランスを無視してしまった典型例です。

プロが見る間取りの“チェックポイント”

間取りを見るとき、設計者として私が必ず確認しているのは、図面では気づきにくい“生活のリアル”です。以下の点は、特に重要だと感じています。

● 動線が重なっていないか
調理中のキッチンを家族が横切るような動線は、安全性に欠けます。洗濯・掃除などの家事動線と、家族の移動動線が交差していないかどうか、必ず確認します。

● 採光・通風が確保されているか
窓の配置だけでなく、風が通り抜ける経路があるかどうかも重要です。風の“入口”と“出口”がなければ、空気は動きません。居室が空気の“行き止まり”になっていないか確認します。

● 音の伝わり方に配慮されているか
寝室の隣にトイレや洗濯機置き場があると、夜間の生活音が気になります。家族間で生活リズムがずれる家庭ほど、防音や距離感への配慮が求められます。

● 収納が使う場所にあるか
収納スペースは「量」だけでなく「場所」が大切です。玄関には靴や上着、洗面所にはタオルや下着といった具合に、生活の流れに沿って収納が配置されているかを見極めます。

間取りの「見た目」だけに惑わされないこと

設計者として感じるのは、図面上で魅力的に見える間取りほど、生活の中で思わぬ不便さが現れることがあるということです。人気のあるプランでも、家族構成や生活習慣によって向き不向きがあります。

家づくりや住宅購入の際には、「いま流行っているから」「モデルルームでよく見たから」といった理由だけで間取りを選ばず、自分たちの暮らしに本当に合っているかを見極める視点が大切です。


yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。