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NHKならではの“魅力”とは? 自局と他局との“それぞれの長所”が光った人気女優主演のドラマ

  • 2025.6.18
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『エンジェルフライト』第5回放送(C)NHK

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』は、海外で亡くなった方のご遺体を家族の元に届ける国際霊柩送還士たちが働く会社・エンジェルハーツを舞台にしたドラマだ。
劇中では毎回、海外で亡くなったご遺体を届ける際に起こる様々なトラブルが描かれる。

エンジェルハーツのメンバーは、物事をはっきりと言う社長の伊沢那美(米倉涼子)。
那美とは逆に、思っていることを言うのが苦手な新入社員・高木凛子(松本穂香)。
遺体修復や死化粧を施す遺体処理のスペシャリスト・柊秀介(城田優)。
元ヤンの若手社員、チームのムードメーカー・矢野雄也(矢本悠馬)。
遺体処理にまつわる複雑な書類を整え、運送業者や航空会社の連絡を担当する松山みのり(野呂佳代)。
霊柩車のドライバーを担当し、常に白い手袋を身につけている得体の知れない男・田ノ下貢(徳井優)。
採算度外視で遺族のケアをおこなう那美と、事あるごとに衝突する会長の柏木史郎(遠藤憲一)。

一癖も二癖もある会社の仲間たちがそれぞれの得意スキルを駆使して海外で亡くなられた方の遺体を無事、家族の元に届ける展開はドラマとして見応えがあり、死者と遺族の物語が時にハードに、時にハートフルに、時にコミカルに描かれる。

海外ロケの映像が魅力的なスケールの大きなドラマ

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『エンジェルフライト』第5回放送(C)NHK

原作は佐々涼子の同名ノンフィクション。製作はNHKだが、本作は2023年にAmazonプライム・ビデオで全話配信されたドラマで、その後、2024年にNHK BSで放送され、今年はNHK総合で夜9時から放送された。

外資の有料動画配信サービスが日本のテレビ局と共同でドラマを作る機会が増えている。映像制作のノウハウはあるテレビ局のスタッフが海外の動画サービスと組むことの利点は、豊潤な予算と余裕のあるスケジュールの元でスケールの大きな作品が作れることで、海外ロケやアクションシーンといった日本のテレビドラマでは難しいシーンに力を入れることが可能となっている。今回の『エンジェルフライト』も、NHKドラマのノウハウを活かしつつ、海外ロケが多用された豪華映像満載の社会派エンターテインメント作品に仕上がっている。

監督は堀切園健太郎。メインライターは古沢良太。二人が組むのは2009年のNHKドラマ『外事警察』以来。『外事警察』は国際テロ捜査をおこなう警視庁公安部外事第4課の刑事たちの活躍を描いたドラマで、2012年には映画化もされた。

堀切園の映像は細部まで作り込まれた重厚なもので、『外事警察』を筆頭に、シリアスな社会派ドラマに定評がある。一方、古沢は『リーガル・ハイ』や『コンフィデンスマンJP』といった物語が二転三転する人を食ったコメディテイストのサスペンスドラマを得意としている。そのため、どの作品もコメディ色が強いのだが、堀切園と組んだ『外事警察』はとてもシリアスな作品で、今回の『エンジェルフライト』も笑える場面はあるものの、映像のトーンはとてもシリアスだ。

また、今回は古沢の他に、香坂隆史が2、4話の脚本家としてクレジットされており、古沢と香坂の他に、協力ライターとして関えり香、小田康平、そして監督の堀切園と3人のプロデューサーが参加し、みんなで意見を出し合うことで作品の強度を高めていくライターズルーム方式で脚本が作られている。チームで執筆するライターズルーム方式は、海外ドラマで多用されている手法で、日本のテレビドラマは一人の脚本家が全話執筆し、その作家性が魅力となっていることが多かった。古沢もまた強烈な個性が魅力の脚本家だが、今回のようなチームによる執筆でも高いクオリティを発揮しており、脚本家として新境地を見せている。

NHKらしさとテレ朝らしさが備わったドラマ

また、主演は米倉涼子だが、耶美のスーパーヒロインぶりを見て、彼女の代表作『ドクターX ~外科医・大門未知子~』を思い出した方も多いのではないかと思う。

古沢良太は元々、『相棒』シリーズや『ゴンゾウ 伝説の刑事』といったテレビ朝日の刑事ドラマで頭角を現した脚本家で、香坂隆史も全話執筆した『ハヤブサ消防団』の他にも『緊急取調室』や『ドクターX』に参加している。そのため、本作には、NHKドラマっぽさとテレ朝ドラマっぽさが同時に存在しており、それが配信によって国外で観られることを意識したワールドワイドな物語として展開されているため、不思議な味わいとなっている。

刑事や医者を主人公にした一話完結の作品を多数手掛けるテレ朝のドラマには、現代を舞台にした時代劇とでも言うようなケレン味があり、幅広い層から良質なエンタメ作品として支持されている。

対してNHKのドラマは、緻密な取材を元にリアルな社会派ドラマを手掛けることに定評があり、ジャーナリスティックなアプローチによるドキュメンタリーテイストの作品を得意としている。

『エンジェルフライト』の面白さは、そんなNHKらしさとテレ朝らしさがうまく融合していることで、その結果、お互いの長所を活かした良質なエンタメに仕上がっていた。

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『エンジェルフライト』第4回放送(C)NHK

全6話、どの物語も見応え抜群だが、個人的に印象に残ったのはエピソード4だ。

この回は日本で事故死したベトナム人技能実習生のグエン・ティ・スアン(リエン)の物語。彼女は裁縫工場「トミカワ縫製」で働いていたが、賃金が支払われておらず、事故死の労災も払われていなかった。その酷い労働環境に抗議するため、スアンの元同僚で漫画家を目指している上田礼人(濱津隆之)がスアンの遺体を奪い、工場の倉庫に立て籠もる。

日本で働く外国人の苦しみを描いたシリアスなエピソードだが、同時進行でアメリカで事故死した二人の日本人が実は不倫カップルで、その遺族である夫と妻が遺体安置所で鉢合わせとなるコミカルなエピソードが展開され、その両者のエピソードの落差が物語に奥行きを与えている。

グエンにとって日本は憧れの国で、日本で作られるアニメや漫画が好きだった。しかし彼女を待ち受けていた日本の現実は過酷で理想と現実のギャップが残酷な形で描かれる。

最終的に救いのある物語に着地するのだが、海外を舞台にしたエンタメ大作で終わらせずに、日本人と外国人の関係を劇中に盛り込む真面目な作りは、NHKドラマならではの魅力だと言えよう。


NHK土曜ドラマ『エンジェルフライト』毎週土曜よる10時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。