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「ドラマ10の名作が増えた」「素晴らしかった」NHK大人気ドラマの最終回 “心ほどけるような幕引き”に絶賛の声

  • 2025.6.3

NHKドラマ『しあわせは食べて寝て待て』が最終回を迎えた。薬膳と団地という一見地味な題材ながら、多くの視聴者の心に静かに沁みたこのドラマ。桜井ユキ演じる主人公・麦巻さとこは、持病によってキャリアの夢を絶たれながらも、団地の人々と支え合い、少しずつ「自分を大切にする生き方」を取り戻していく。最終回では「やれるだけやる」ことの大切さ、そして「帰れる場所」の尊さが、優しく温かく描かれた。

薬膳と団地と“人とのふれあい”

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『しあわせは食べて寝て待て』第9話より(C)NHK

『しあわせは食べて寝て待て』は、病を抱えた元キャリアウーマン・さとこが団地に引っ越し、薬膳やご近所づきあいを通して再生していく物語だ。テーマは薬膳とふれあい。けれどそれはあくまで入口であり、本当に描いていたのは「自分を取り戻すまでの小さな歩み」だった。

築45年の団地に引っ越したさとこが出会ったのは、90歳の大家・美山鈴(加賀まりこ)と、薬膳料理をつくる羽白司(宮沢氷魚)。一見バラバラな住人たちが、それぞれの寂しさや生きづらさを抱えながらも、ゆるやかに結びついていく姿が、見る者の胸をじんわりと温めてくれる。

SNSでも「空気感や所作が素晴らしかった」「光がさす結末」「自分の人生も変わりはじめた」「ドラマ10の名作が増えた」といった声が多く見られた。

「自分を大切にする」とはどういうことか

ドラマの要となるのは、さとこの内面的な変化だ。彼女は膠原病を患ったことで、長年続けた仕事を辞めざるを得なくなる。家賃11万円のマンションも手放し、築古団地への引っ越しを決める。最初は“負けた人生”のように映るその選択も、物語が進むにつれ、“自分を守るための勇気ある一歩”だったのだとわかってくる。

象徴的な場面がある。旧友から「話を聞いてほしい」と連絡を受けたさとこが、「水曜は身体を休める日だから電話は控えたい」と返信するのだ。一見冷たくも思えるこの言葉の裏には、自分をすり減らしてまで人に応えることをやめた、彼女の静かな決意が見え隠れする。

ドラマは、病気や高齢など、働きたくても働けない人の現実も描く。団地に住む70代女性の職探しを手伝うさとこ。「年齢不問」の求人に応募しても、結局は門前払いを食らう理不尽。それでもさとこは「働く場所がないなら、自分たちで作ればいい」と発想を転換し、団地の集会所をリフォームしてレンタルスペース兼カフェにしようと奔走する。

理事会の反対で計画は一度頓挫するが、それでも彼女たちはめげない。「やれるだけやる」ことが、誰かの希望になっていく。ここに、ドラマの根底に流れる“生きる力”が集約されている。

「ただいま」が言える場所を守る

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『しあわせは食べて寝て待て』第9話より(C)NHK

もう帰ってはこないだろうと思われた司が、ふたたび団地に戻ってきた理由。きっと彼は、山で行きあった高齢男性が「家に帰りたい」とつぶやく姿を見て、こう思ったのではないだろうか。「帰れる場所」があるうちに帰ろう、と。

団地という空間は、単なる住宅地ではない。支え合い、見守り合い、誰かの“ただいま”を受け止めてくれる、そんな場所なのだ。

最終回で印象的だったのは、さとこの言葉。

「私はやっと、自分を大切にできるようになったんです」

頑張らないことは、諦めることじゃない。未来への不安があっても、いまを心地よく生きる選択はできる。無理をせず、薬膳を続け、自分を丁寧に扱う。その小さな積み重ねが、さとこの人生を変えていった。

本編では、NHKの過去作『団地のふたり』のキャラが画面に登場するという、どちらの作品も観ていた視聴者にとって嬉しい演出もあり、心がほどけるような幕引きとなった。

『しあわせは食べて寝て待て』は、食べて、寝て、生き抜いていくことの大切さを、ささやかに、しかし確かに伝えてくれた作品だった。


ドラマ10『しあわせは食べて寝て待て』 毎週火曜よる10時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_