1. トップ
  2. 「歌ってなくてもオーラ」元・国民的グループ“最年少ボーカル”の演技に肯定的な声 最終回直前『対岸の家事』

「歌ってなくてもオーラ」元・国民的グループ“最年少ボーカル”の演技に肯定的な声 最終回直前『対岸の家事』

  • 2025.6.3

かつて日本の音楽業界に新風を吹き込み、一世を風靡した島袋寛子。現在はシンガーとしての活動に加え、俳優という新たな表現の場で静かに存在感を放っている。TBSドラマ『対岸の家事』で演じる“バリキャリママ”役や、『放課後カルテ』での母親役では、歌手として培った感受性と表現力が演技にもにじみ出ている。怒りや悲しみを過剰に演じることなく、繊細に感情をにじませる“静けさの演技”こそが、島袋寛子の真骨頂だ。かつて“声”で時代を作った彼女が、今は“佇まい”で物語を紡ぎはじめている。

“働く母”をどう演じたか

undefined
火曜ドラマ『対岸の家事』第8話より(C)TBS

かつて、あの強烈なスピード感で時代を駆け抜けた少女たちがいた。1996年、平均年齢13.5歳という若さでデビューした4人組ユニット「SPEED」。その中心にいたのが、最年少にしてメインボーカルを務めた島袋寛子さんだった。

あれから四半世紀。いま彼女は、表現のフィールドを俳優業へと広げ、TBS火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』では外資系ベンチャーで働く“バリキャリママ”・中谷樹里を好演している。

演じる樹里は、いわゆる“勝ち組”の立場にいる女性だ。仕事も家庭も、努力して手に入れてきた。しかし、彼女の完璧なように見える日常もまた、「家事」や「育児」といった名もなき労働をめぐる葛藤を孕んでいる。第6話では、夫(ディーン・フジオカ演じる達也)との価値観の衝突が描かれ、言葉にならない苛立ちやもどかしさが静かに画面に広がっていった

そこで感じるのは、島袋寛子という俳優の「声」と「間」が持つ力だ。彼女の演技は、どこか穏やかで、それでいて観る者の胸をじわりと締めつける。怒鳴らず、泣き叫ばず、丁寧に感情を積み重ねていく表現。その静けさが、時に叫び以上の説得力を持つ。

“歌手”から“俳優”へ……感受性のバトンを渡すように

彼女は、歌を通して私たちの心にまっすぐ飛び込んできた。高音域をスッと伸ばすその声は、明らかに並外れた才能の証であり、同時に感受性の高さを物語っていた。

その“声の力”は、俳優としての現在にもしっかりと息づいている。セリフのトーン、息づかい、視線の動き。どれもが「無理に演じよう」としていないからこそ、登場人物として自然にそこに「いる」ことができるのだ。

SNSでも「島袋寛子さん、落ち着いた演技が良い」「綺麗になられてびっくり」「歌ってなくてもオーラがある」と、肯定的な声が並ぶ。“懐かしい”では終わらない、いまこの瞬間の彼女にこそ魅了されている人が、確実にいる。

また、ドラマ『放課後カルテ』では、問題を抱えた児童の母親という難役に挑戦。かつての少女スターが、誰かの“お母さん”を等身大で演じることに感慨を覚えつつも、そこに“無理してる感じ”は一切なかった。むしろ、島袋寛子という人物がもともと持っていた包容力や深い共感力が、見事に役と重なっていた。

私たちは、彼女が「誰かの物語を生きる」ことで、自分自身の物語に向き合うきっかけをもらっているのかもしれない。

誰かの物語に、そっと寄り添う存在へ

undefined
火曜ドラマ『対岸の家事』第6話より(C)TBS

もちろん、まだ俳優としてのキャリアは始まったばかりだ。出演作は限られているし、どこか新鮮な“たどたどしさ”を残している瞬間もある。しかしそれも含めて、彼女の演技は魅力的だ。完成されたプロではなく、“成長していく人”としてのリアリティがあるからだ。

そして、島袋さんのもう一つの魅力は「背負いすぎないこと」だと感じる。彼女自身の人生には離婚という出来事もあった。だがそれを“女優のネタ”にしすぎず、肩に力を入れすぎず、自分の歩幅で進んでいる。ときにゆっくり、ときに立ち止まりながら、でも確実に前を向いている。そんな姿勢が、画面を通しても伝わってくるのだ。

“対岸”という言葉には、分断や遠さのイメージがある。しかし、島袋寛子さんの演技を見ていると、その対岸にそっと手を伸ばすような、あたたかい橋がかかっているような気がしてくる。声で時代をつくり、いま“佇まい”で物語を紡ぐ彼女。これからも、その歩みを見守っていきたい。


TBS系 火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』毎週火曜よる10:00~

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_