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すべてはここから始まった… 27年前に“高校生探偵”が切り開いた革命的ミステリードラマ

  • 2025.5.28
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(C)SANKEI

一話完結のミステリードラマが日本のテレビドラマに定着して久しいが、そのきっかけとなったのは1995年に放送された『金田一少年の事件簿』(以下、『金田一』)だろう。

本作は名探偵・金田一耕助の孫にあたる高校生の金田一一(堂本剛)が、幼馴染の少女・七瀬美雪(ともさかりえ)と共に次々と起こる殺人事件を解決していくミステリードラマだ。

劇中では毎回、山奥の別荘や孤島の洋館といった外界から隔てた場所で殺人事件が起こり、建物に集まった人々の中にいる真犯人を金田一が推理する姿が描かれる。 金田一と美雪と共に参加者のアリバイを聞き、殺害現場の惨状から殺人事件のトリックを見破り真犯人を見つけ出そうとするが、犯人による第2、第3の殺人が次々と起こってしまう。果たして金田一は犯人を見つけ出すことができるのか?

一話完結のミステリードラマの型を作り多くのフォロワーを生んだ『金田一』

『金田一』は毎回、そのようなパターンで物語が進んでいく。放送を観ながら、犯人探しやトリックの謎解きを楽しめるゲーム的な面白さは、当時のテレビドラマでは画期的で、大人向けのラブストーリーやお仕事モノが主流だったテレビドラマに若者向けミステリードラマという新しいマーケットを掘り起こすことに成功した。

『金田一』以前のミステリードラマと言うと松本清張や西村京太郎の推理小説を原作とした2時間サスペンスが主流で、連続ドラマの枠組みで1話完結のミステリードラマを次々と放送するという構成は画期的だった。

1話完結のミステリードラマという意味では、1994年からフジテレビで放送が始まった三谷幸喜脚本の『古畑任三郎』シリーズの方が早かったが、予め犯人を明示してそのアリバイを刑事が崩す姿を描くという『刑事コロンボ』型の倒叙型ミステリーだった『古畑任三郎』の完成度の高い脚本は、三谷以外の脚本家が書くことは難しかったため、現在に至るまでフォロワーは決して多くはない。

対して『金田一』は基本的なパターンがはっきりしていたため、模倣がしやすかった。そのため後続のフォロワーが多数登場し、今ではテレビドラマの1ジャンルとして完全に定着しており、ミステリー形式の刑事ドラマやリーガルドラマも含めるとその数は膨大だ。 本作の成功がなければ日本のミステリードラマは、全く違うものとなっていただろう。

ミステリードラマ以外の側面でも『金田一』は画期的だった。 本作が放送された日本テレビの土ドラ枠(土曜夜9時~)は、90年代前半は『悪女(わる)』など働く女性を主人公に、仕事と恋愛の悩みを描いたトレンディドラマ的な大人向け作品を制作していたが視聴率は伸び悩んでおり、明確な個性を打ち出せずにいた。 しかし1994年に野島伸司が企画した安達祐実主演のドラマ『家なき子』が高視聴率を記録。土ドラは、若者向けに振り切った漫画的なドラマだった『家なき子』のテイストを引き継ぐ形で路線変更し、その第一弾となったのが『金田一』だった。

原作は当時少年マガジン(講談社)で連載されていたさとうふみや(作画)、天樹征丸(原案)、金成陽三郎(原作)の人気漫画。主演は堂本剛。『金田一』の少年漫画を原作に、ジャニーズ事務所(現・STARTO ENTERTAINMENT)所属の人気男性アイドルが主演を務めるという座組は、その後の土ドラ枠の基本フォーマットとなっていった。その結果、土ドラ枠は10~20代の若者を取り込むことに成功し、10代の若手アイドルが俳優として演技の経験を積む貴重な登竜門となっていった。
同時に原作漫画のエッセンスを実写映像の世界に落とし込む中で漫画やアニメのような虚構性の高い映像表現の実験場となった。 そこで頭角を表したのが映像作家・堤幸彦である。

テレビドラマの外側から堤幸彦が持ち込んだ独自の映像表現

当時の堤はMV(ミュージックビデオ)、映画、バラエティ番組などの様々なジャンルで活躍する映像作家だったが、テレビドラマを専門とするディレクターとは全く違う映像センスの持ち主だった。

当時のテレビドラマの多くはスタジオに組んだセットで撮影しており、複数のカメラで演技を同時に撮ることが主流だったが、毎週放送するという過密スケジュールだったため、照明やアングルに凝ることができなかった。そのため平坦な映像になりがちで、映像作品としては見劣りするものが多かった。

対して堤の映像はロケが多く一台のカメラで順番に撮影していくスタイル。そのためカメラアングルや照明に凝ることが可能で、カット数も膨大だった。

また芝居の見せ方も独特で、コントのような掛け合いが延々と続くかと思えば、人間を無機質なオブジェのように撮影したり、そうかと思うと手ブレの激しい映像で極端な顔のアップを撮って人間の生々しさを強調したりと、とにかく手法が多彩で観ていて飽きない。

他にも不穏な場面で、耳障りなノイズ音を入れたり、強調した場面で「シャーン!」、「ドーン!」といった印象的な効果音を鳴らしたりと、音響面での発明も多かった。

それらの手法の多くは堤が他ジャンルから持ち込んだものだったが、それらが混ざり合い一つになった結果、堤の映像はドキュメンタリー映像のような生々しさと漫画やアニメのような作り込まれた映像による人工的な美しさを兼ね備えた独自のものへと進化していった。

堤が土ドラで開発した映像手法はその後、彼がTBSで制作した『ケイゾク』やテレビ朝日で制作した『TRICK』を経由してミステリードラマのフォーマットと共に日本のテレビドラマに波及していくのだが、全ては『金田一』から始まったと言って間違いないだろう。

堤が演出し堂本剛が主演を務めた『金田一』はシーズン2まで連続ドラマが制作される人気シリーズとなり、1997年に制作された映画『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』で幕を閉じた。

その後、『金田一』は何度もリブートされ、その時代ごとの人気若手俳優が主演を務めるロングシリーズとなっているが、初代『金田一』の魅力は別格だ。

そこには映像作品としての魅力もさることながら、堤幸彦や堂本剛が土ドラで試行錯誤する中で独自の映像表現を発見していく姿が刻まれており、今観ると彼らの青春を記録したドキュメンタリーを観ているような味わい深さがある。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。