3月19日、東京国立博物館・表慶館で英国のファッションブランド、ポール・スミス（PAUL SMITH）が2025-26年秋冬コレクションを開催した。日本のファッションシーンをエンパワーメントする楽天のプロジェクト「by R」の一環によるものだ。ポール・スミスは上質なテイラリングやブリティッシュカルチャーを反映したテキスタイルを得意とし、伝統とモダンを融合した独自の美学で確固たる地位を確立してきた。ビジネスシーンで使いやすいという点でも男女ともに幅広い世代から親しまれている。東京でのショーは14年ぶりで、前回は東日本大震災が起きた2011年。復興へエールを送るため東コレに参加し、ファッションの力で多くの日本人を勇気づけた。大の親日家として知られるスミス氏ならではの計らいだ。今回のショーは、今年1月パリで披露されたメンズに加えウィメンズの合同形式で発表された。
ファーストルックは、ポール・スミスのシグネチャーストライプをアレンジしたカラーブロックニットでスタート。温もりのあるテクスチャーで仕立て、シャツをレイヤードすることでエレガントな表情に。パンツは伝統的なハウンドトゥースチェックを採用し、やや細みのシルエットでブリティッシュスタイルを柔らかに表現した。ボックスシルエットのバッグには、ネクタイをアレンジしたようなショルダーが取り付けられ、さりげない大人の遊びを加えている。
ポール・スミスが得意とするテイラードスタイルも同コレクション全体を通して多くみられた。ベロア素材のジャケットは、袖周りに程よくゆとりを持たせリラクシングなムードを醸しだしている。トラウザーはややワイドめで縦のラインを強調。歩くたびに流麗なシルエットを描く。ニットの色彩をアクセントに忍ばせることでスタイルに奥行きをもたらした。
ウィメンズのチェスターコートはメンズライクなシルエットに仕立て、肩のラインを際立たせてハンサムな印象に。同系色のカーゴパンツはカジュアルでありながらも、落ち感のある素材と繊細なパターンでスタイル全体に気品を漂わせた。
テイラリングの技術は至る箇所に見受けられる。トレンチコートは生地の特性を生かした2枚のラペル仕立てで、ダークトーンに奥行きを出し歩くたびに軽快なリズムを生む。
また今シーズンのテーマ軸として、幼少期から影響を受けたフォトグラファーや自身が撮影した作品にもスポットをあてている。蘭のフォトグラフィックはスミス氏自らが撮影したもので、シャツやジャケット、ニット、ドレスなどにも用いられている。凛とした蘭の花はしなやかで奥ゆかしく、深みのあるトーンで衣服に彩りを添えていく。
同コレクションを語るうえで大きなカギとなっているのが、ポール・スミスの父であるハロルド・B・スミスの存在だ。ショー会場の座席にはフォトブックが置かれ、ポールがこれまでに影響を受けてきた写真がコレクションされている。なかにはハロルド・B・スミスが撮影した野生のデイジーを映した「フィールド フラワー(Field Flower)」も。フォトブックにはこう記されている。「父が撮った写真には、他の人なら見逃してしまうような日常の小さなことが映し出されている。インスピレーションはふとした日常の瞬間から生まれる。父のアプローチは今でも私に大きな影響を与えている」と。
ハロルドが撮った繊細なデイジーモチーフはときに愛らしく、ときに力強く、カタチや色を変えて衣服に投影されていく。ダークトーンのデイジーをグラフィカルに描いたロングドレスは、歩くたびに空気をはらみ妖艶なオーラを放つ。ニットにもさりげなくデイジーの描写をあしらい、ひねりを効かせているのが印象的だった。
ショーの中盤ではバブアー（BARBOUR）とのコラボが登場。「Paul Smith Loves Barbour」と題し、クラシックなオイルドジャケットをベースに、ポール・スミスらしいカラーリングでモダンな感覚をミックスしてみせた。
東コレの大きなハイライトとなった今回のショー。会場には俳優の本田翼や長谷川京子、リリー・フランキー、滝藤賢一らがポール・スミスの2025年春夏コレクションを着て来場。豪華なゲスト陣の顔ぶれに会場は大いに盛り上がった。また、「フォトグラフィー」をテーマに、ポール・スミスが撮影した写真でデザインした「by R」限定商品もRakuten Fashionの公式サイトで販売中だ。蘭の花（ジャパニーズオーキッド）をモチーフにしたシャツやTシャツ、トートバッグなど全8型がラインナップしている。
本田翼
長谷川京子
リリー・フランキー
滝藤賢一
Photos: Courtesy of PAUL SMITH Text: Megumi Otake
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