家族は、時に一番近い存在でありながら、一番遠く感じることもあります。
血のつながりがあるからこそ、逃れられない関係の中で、深く傷ついてしまうこともあるのです。
今回ご紹介するのは、20代で心の病を抱え、実家での生活を選んだAさん(仮名)が、その後、長兄夫婦との関係に悩み続けたという15年前の実話です。
心を壊した20代、頼ったのは“家族”だった
Aさんが最初に心のバランスを崩したのは、20代のとき。
職場でいわゆる“お局様”からの嫌がらせを受け、うつ病を発症してしまいます。苦しみの中で退職を決意し、しばらく実家に戻って、両親の仕事を手伝いながら静養することになりました。
「うつ病の症状が少し落ち着いてきた頃、外でアルバイトも始めました。でも、その無理がたたったのか、また症状が悪化して、再び引きこもりのような生活になってしまったんです」
Aさんの実家は二世帯住宅。Aさんと両親、そして長兄夫婦とその子どもたちが一緒に暮らしていました。
家族に囲まれていれば、少しは安心できるかもしれない──そう思っていたAさんでしたが、現実は想像以上に厳しいものでした。
「長兄と義姉が、“働け”“変われ”“出て行け”“恥ずかしい”って、毎日のように責めてくるんです。弱っていた私には、そのひとつひとつが刃のように感じられました」
本来、支え合うはずの家族から浴びせられた言葉は、Aさんの心に深い傷を残しました。
それでもAさんは、自分を奮い立たせ、再びフルタイムの仕事に就くことを決意します。
「何だアレは!」…お年玉で起きた信じられない出来事
少しずつ生活を立て直していくなかで、Aさんは懸命に働き、安定した収入を得られるようになりました。
年末には、はじめて働いたお金で、長兄の子どもたちにお年玉を渡すことに。
ところが、その夜、思いもよらない出来事が起こります。
「長兄が突然、私の部屋に乗り込んできて、“何だアレは!ひとり○○○○円にしろ!”って怒鳴ったんです。お札の枚数が少ないって意味だったんでしょうけど…あまりにも理不尽で、呆れてしまいました」
その瞬間、Aさんの中で「何かが切れた」と言います。
翌日、定期預金を解約し、長兄の“言い値の倍額”を渡したそうです。
「怒りというより、もう呆れましたね。お金のことを怒鳴って要求してくるなんて…この家にはもういられないと思いました」
そしてその年の12月、Aさんは長兄夫婦に何も告げず、ひっそりとアパートへ引っ越します。
それが、家族と距離を取る大きな転機になりました。
「私が救ったのよ」…消えない怒りと疑問
あれから約15年。
Aさんは長兄夫婦とは連絡を取らず、顔を合わせることもなく暮らしてきました。母親の入院時に義姉と少し言葉を交わした以外、長兄とは一言も会話をしていないといいます。
「次兄がいて、その彼から聞いたんですが、義姉が“○○ちゃん(Aさん)を引きこもりから私が救ったのよ”って、周囲に話してたらしいんです」
その話を聞いたとき、Aさんは驚くよりも、怒りと虚しさがこみ上げてきたそうです。
「よくそんなふうに“手柄”のように話せるなって。こっちは今でも、あの頃のことを思い出すと怒りがこみ上げてくるのに…」
今では、母親はすでに他界。次兄とも、長兄夫婦とも絶縁状態が続いています。
「家族」という言葉は、今のAさんにとって、どこか遠くて冷たいものになってしまいました。
「家族だからこそ」耳を傾けてほしい
Aさんの体験は、家族という存在の複雑さを私たちに教えてくれます。
本来は支え合うはずの関係のなかで、立場の強い者が弱っている人を追い詰めてしまうことがある。
信じたかった人からの言葉こそ、時に一番深く心を傷つけるものです。
「家族なんだから、我慢しなきゃ」
「自分が甘えてるだけかもしれない」
そんなふうに、自分の気持ちを押し殺してきた人も少なくないでしょう。
けれど、本当に大切なのは、“家族だからこそ”、お互いの痛みに耳を傾けることではないでしょうか。
Aさんのような経験をした人が、少しでも心を軽くできますように。
「あなたの苦しみは、決してひとりだけのものじゃない」──そんな想いを込めてお届けしました。
※本記事では、読者の皆さまから投稿いただいた体験談をご紹介しています。
アンケート実施日:2025年3月23日
投稿方法:TRILL 募集フォームより
投稿者:50代女性