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香川照之、主演ドラマで魅せる“圧倒的な演じ分け” 6つの異なる役を生きる“究極の挑戦”のウラ側

  • 2025.4.5
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(撮影/松川李香)

2025年4月6日(日)午後10時よりWOWOWで放送・配信される「連続ドラマW 災」は、葛藤を抱えながら現代を生きる罪なき6人の登場人物のもとに“ある男”が現れ、ある“災い”が無慈悲に降りかかる様を描く異色のサイコサスペンス。名前も職業も顔つきも性格も違う謎の男を中心に、物語が進んでいく。主演を務めるのは、圧倒的な演技力で観る者を魅了する香川照之。本作では、6つの異なる役を演じるという挑戦に挑む。

今回の取材では、主演・香川照之がどのようにして6つの役を作り上げたのか、演技のアプローチや撮影現場での工夫について語ってくれた。

“人間は大きくは変わらない”――香川流の演じ分け

6つの異なる人物を演じるうえで、香川がまず考えたのは 「人間というのは根本的にはそう大きくは変わらない」ということだった。

「私も人間ですから、じゃあ腕を一本なくしましょう、みたいな極端な変化はできないわけで。だからこそ、話し方やトーンといった細かな部分で演じ分けをしていったんです」

香川は「このキャラクターは早口で話す」「この人は丁寧な話し方にする」「このキャラは低音で話す」 というように、それぞれの役の個性を微妙なニュアンスの違いで作り上げたという。見た目が同じでありながら、別の人物として映るようにするための“さじ加減”は、彼の演技力が試される部分だった。

また、香川は 6つの役がバラバラにならないように、全体を繋ぐ“共通の視点”を作ることを意識したという。

「キャラクターをただ分けるだけではなく、彼らの間に一本通る共通点を見つけることで、観ている側も無意識に繋がりを感じられるんじゃないかと思いました」

この“共通点”は映像上でははっきりと見えない部分もあるが、物語全体に流れる違和感や不協和音のようなものとして作用する。この緻密な演技の設計こそ、香川照之ならではのアプローチと言えるだろう。

本作の撮影は、ほぼ順撮り(物語の流れに沿って撮影する手法)で進められた。香川はこの撮影方法が、演技の鮮度を保つうえで大きな助けになったと語る。

「毎シーン、次の展開を新鮮な気持ちで迎えることができました。昨日まで演じていた役とは違う人物になりきることで、現場の反応も新鮮でしたね」

彼が演じるたびに「昨日までの人と全然違いますね」と驚かれることもあったという。衣装やメイクも細かく調整されており、香川自身も 「演じながら自分がどんどん変化していく」 という実感があったようだ。

「6つの役にはすべてモデルがいた」香川のリアリティ追求

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(撮影/松川李香)

香川といえば、その豊かな表情とダイナミックな演技が特徴的だ。しかし、今作と同じ監督集団『5月』とともに取り組んだ前作『宮松と山下』(2022)の撮影では「顔を動かさないでくれ」と監督に指示される場面が多かったという。

「僕は普段、眉間にシワを寄せるクセがあるんですが、それを完全になくすように指摘されたんです。その経験を踏まえて、今回は表情のコントロールを意識しました」

ただし、今回は場面によっては顔の可動域を存分に使うことも許された。とあるシーンにおいては、監督たちも「ここは暴発するべきだ」と大喜びしたという。

また、香川は本作の役作りにおいて 「すべての役にモデルがいた」 ことを明かしている。

「それぞれの役には、実在のモデルがいるんです。現場でも、1話と2話の役についてはモデルを発表していました。でも3話以降のキャラクターは僕しか知らない」

しかし、6話だけは「香川照之自身」を演じた。自分自身の経験や話し方を元にキャラクターを作り上げることで、最終話において「すべての役が繋がる瞬間」を生み出しているのだ。

俳優・香川照之の挑戦は続く

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(撮影/松川李香)

ドラマ『災』で香川照之が見せたのは、6つの異なる役を生きるという“俳優としての究極の挑戦” だった。

話し方や仕草の細かな変化による演じ分け、共通視点を通じたキャラクターの繋がり、順撮りによる新鮮な演技、そして顔の可動域のコントロール。これらのすべてが香川ならではのアプローチ であり、俳優としての技術の結晶だ。

彼の言葉からも、本作がこれまでにない演技の試行錯誤と挑戦に満ちた作品であることが伝わってくる。ドラマ『災』で、香川照之が見せる6つの異なる顔に注目したい。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_