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「間違いなく大傑作」結婚が無効に…?消えた“チャラ男”を追いかける主人公に世界中が夢中【アカデミー賞5部門受賞作品】

  • 2025.3.19

2025年3月2日に開催された第97回アカデミー賞。毎年、授賞式を観ている筆者は、授賞式までにできるだけマスコミ試写にてノミネート作を鑑賞するようにしている。本年度は、その中で最も面白いと思った『ANORA アノーラ』が作品賞を含む最多5冠に輝き、大満足の結果となった。その『ANORA アノーラ』をはじめ、第97回アカデミー賞受賞作品の中から、ぜひチェックしてほしい3本を紹介したい。

『ANORA アノーラ』

600万ドル(約8.8億円)という低予算※で製作されるも、全米辛口映画レビューサイト「ロッテントマト」で99%という高評価を得て、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。そのほか数々の賞に輝き、アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・編集賞の5部門を受賞。今、最も大きな話題を呼んでいる注目作だ。

ニューヨークのクラブでストリップダンサーをしている“アニー”ことアノーラ(マイキー・マディソン)は、客として店を訪れたロシア人の御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会い、見初められる。彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5千ドルで“契約彼女”になったアニーは、イヴァンと一緒にパーティーやショッピングなど贅沢三昧の日々を過ごした末、ラスベガスの教会で衝動的に結婚。幸せ絶頂の2人だったが、怒ったイヴァンの両親が結婚を無効にするために、ロシアからやって来ることになり……。

イヴァンは、まさに“チャラ男”といった印象で、アニーのために怖い両親に立ち向かってくれるわけもなく、あっさりと姿を消し、その結果、アニーは彼の両親に雇われた屈強な男たちに捕まってしまう。だが、彼女は全く屈することなく、大男たちに罵声を浴びせ続けたり、全身でぶつかっていったりしながら、何が何でもイヴァンを見つけ出そうと奔走する。

幸せを手に入れるために、諦めない姿勢を貫く主人公が本当に痛快で、139分という長めの尺だが、「もっと観たい! 終わってほしくない!」と思いながら、アニーが迎える結末を見守った。SNSにも「最高の映画」「ヒロインの心情を丁寧に拾っている」「こういうのが観たかった!」「間違いなく大傑作」というコメントが上がっており、筆者同様、本作にハマっている人が多い模様。世界中で評価の高い、非常に面白い傑作映画だ。

※参考:『アベンジャーズ』シリーズは1作につき制作費3億ドル(約445億円)越え。

『ANORA アノーラ』2025年2月28日(金)公開
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ ほか
監督・脚本・編集・製作:ショーン・ベイカー
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
映倫:R18+
公式サイト:https://www.anora.jp/
(C)2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. (C)Universal Pictures

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『教皇選挙』

全世界に14億人以上の信徒を有するキリスト教最大の教派であるカトリック教会の総本山、バチカンのトップに君臨するローマ教皇を決める教皇選挙<コンクラーベ>の舞台裏をスリリングに描出する、超一級のミステリー映画。

ローマ教皇が死去。悲しみに暮れる暇もなく、主席枢機卿のローレンス(レイフ・ファインズ)は新教皇を決めるコンクラーベを執り仕切ることに。世界各国から100人を超える強力な候補者たちが集まり、外部との接触を禁じられた隔離状態のシスティーナ礼拝堂の中で、極秘の投票が始まった。2/3以上の票を得た者が新教皇となるが、票が割れて再投票が繰り返される。そんな中、水面下で陰謀がうごめいたり、差別が繰り広げられたり、スキャンダルが発覚したりして、ローレンスは苦悩を深めいく。そして、いよいよ新教皇誕生が目前となった時、厳戒態勢下のバチカンを揺るがす大事件が勃発するのだった……。

主演のファインズをはじめ、一流の演技派俳優が顔をそろえ、ほんの一握りの関係者しか知る由もないコンクラーベの内情が綴られていく。筆者がコンクラーベについて知ったのは、トム・ハンクス主演の映画化作品でも知られる『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの『天使と悪魔』を読んだ時だ。礼拝堂の扉が閉じられたら、関係者以外は誰も入ることができないし、中で何が起きているかも分からないコンクラーベ。枢機卿たちは隔離されたまま投票を繰り返し、さぞかしストレスが溜まることだろうと思った。日本語の根比べと音が似ていることも興味深いと感じた。

原作者のロバート・ハリスがコンクラーベについて調べ上げ、映画化された『教皇選挙』は、謎の多いコンクラーベを描くと共に、驚きの展開が待ち受けるラストまで、極上の気分を味わえる。本作の結末は絶対に予想できないが、今の時代に相応しい斬新な展開だと思う。アカデミー賞で脚色賞を受賞した必見作だ。

『教皇選挙』2025年3月20日(木)公開
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ ほか
原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
監督:エドワード・ベルガー 脚本:ピーター・ストローハン
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://cclv-movie.jp/
(C)2024 Conclave Distribution, LLC.

(C)2024 Conclave Distribution, LLC.

『Flow』

ラトビアの新鋭ギンツ・ジルバロディス監督率いる50人以下のスタッフという、極めてインディペンデントな体制で、全編がオープンソースソフトウェア「Blender」で制作され、制作費は350万ユーロ(約5.5億円)。アニメーション映画の常識を覆す本作は、『インサイド・ヘッド2』などハリウッドのメジャースタジオ作品を抑えて、アカデミー賞で長編アニメーション賞を見事受賞した。洪水に呑まれつつある世界を舞台に、時には運命に抗い、時には流され漂う1匹の猫の旅路を見つめる、圧巻の映像体験が繰り広げられる、美しい映像のアニメ作品だ。

世界が大洪水に包まれ、今にも街が消えようとする中、ある1匹の猫は暮らしていた場所を後に旅立つことを決意する。流れて来たボートに乗り合わせた動物たちと一緒に、想像を超えた出来事や予期せぬ危機に襲われる猫。だが、動物たちの間に少しずつ友情が芽生え始め、猫たちは逞しくなっていく。彼らの冒険の果てにあるものとは……?

セリフは一切ないが、猫たちの動きや表情に感情移入しながら、映画に夢中になり引き込まれていく。猫が遭遇する動物は犬、キツネザル、カピバラ、ヘビクイワシなど。猫は自立していて、最初はほかの動物たちと一緒にいたがらない。反対に犬は仲間と共に行動しようとする。キツネザルは装飾品を集め、鏡に映った自分の姿に見とれる。カピバラはマイペースだが、あらゆる動物たちとうまく付き合える様子。そして、ヘビクイワシは孤高の存在に見える。そんな動物たちが、非常事態を乗り切るために力を合わせる姿が描かれる。

大作アニメーション映画が受賞する印象のアカデミー賞において、ラトビアのインディーズ作品が受賞したことは画期的だと思うし、受賞後すぐに日本で上映されることがうれしい。監督が本作に込めた深いメッセージを感じることができ、没入感のある映像と展開が非常に魅力的な作品なので、強くおすすめしたい。

『Flow』2025年3月14日(金)公開
監督・脚本・編集・製作:ギンツ・ジルバロディス
配給:ファインフィルムズ 後援:駐日ラトビア共和国大使館
公式サイト:https://flow-movie.com/
(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

(C)Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.


ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP