『おむすび』第24週「家族って、何なん?」では、登場人物のそれぞれが自分自身の人生や家族観に向き合い、新たな選択を迫られた週だった。とくに印象深かったのは、かつて結(橋本環奈)や歩(仲里依紗)と友人だった真紀に瓜二つの少女・詩(大島美優)が登場したこと。そして、佳代(宮崎美子)や愛子(麻生久美子)、聖人(北村有起哉)たちが示した、それぞれの人生の岐路と「家族」の在り方もまた、物語の深みを増している。
真紀と詩――大島美優が見せた驚異的な演じ分け
第24週で衝撃だったのは、やはり大島美優が演じる詩の登場だろう。以前、彼女が演じていた役・真紀は、明るく溌剌とした印象を与えるキャラクターだった。しかし今回、大島が演じた詩という少女はまったくの別人であり、路上で栄養失調のため倒れているところを保護され、食事を拒み、「なんで助けたの? 放っておいてくれたらよかったのに」と絶望を露わにする。
大島の演技は、その視線ひとつで詩の孤独や絶望を表現していた。目に宿る光は完全に消え、まるで別人が演じているかのような印象を視聴者に与えた。この巧妙な演技はSNSでも大きな反響を呼び「演じ分けがすごすぎる」「同じ女優とは思えない」と絶賛されている。大島は明るい役柄から絶望的なキャラクターまで、その幅広い演技力を存分に発揮したと言える。
詩の姿を通じて、このドラマが問いかける「家族」というテーマの深さも際立っている。主人公の結(橋本環奈)が「家族」について優しく語りかけても、詩は「そんなのいない」とつれない態度。家族という存在のありがたみや暖かさを当然として描くのではなく、その不在がもたらす孤独や絶望をリアルに突きつけた点で、視聴者に新たな問いを投げかけている。
場所を超えて繋がる家族の形
詩のエピソードが家族という存在の重さや複雑さを描いていた一方で、佳代(宮崎美子)、愛子(麻生久美子)、聖人(北村有起哉)らの選択は、離れていても絆が繋がっているという新しい家族観を提示した。
糸島で一人暮らしをしている佳代を訪ねた愛子は、佳代の本心を問いただす。佳代は「やりたいことがあるからこそ、糸島を離れたくない」と意思を曲げない。糸島の地で農業を営み、次から次へと新たな“やりたいこと”を見出す佳代の姿は、単に「家族と一緒にいること」だけが家族の形ではないことを示している。
場所が離れていても、互いが自分の夢や希望を追求することを許容する関係性こそが、真の家族なのかもしれない。
久々に聖人の元を訪れた孝雄(緒形直人)。彼が「世界中が俺の職場だ」と豪語し、全国を自由に飛び回る生き方を選んでいるのを見て、聖人は密やかに考えを巡らせる様子を見せた。孝雄が「職人は道具さえあれば、どこでも仕事ができる」と話す様子は、たとえ神戸から糸島に居を移したとしても、理髪師としてやっていけるかもしれない可能性を、聖人に思い出させたのではないか。
聖人と愛子は、ついに糸島へ移住する決断を下す。聖人は一度は胃がんを患い、神戸で静かに暮らそうとしていたように見えたが、家族や周囲の生き方に触れ、新しい一歩を踏み出す勇気を得たのだろう。この選択は、家族とは、距離や場所を超えたところにこそ存在するものだと再確認させられるものだった。
家族という絆は決して一つの形に縛られず、離れていても、価値観が違っても、心が繋がっている限り、そこに家族は存在するのだとあらためて教えてくれた。いよいよ次週、最終週。結を含む家族それぞれの形が、どう収束するのか、楽しみに見守りたい。
NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
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ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_