2017年に放送された、日本テレビ系ドラマ『過保護のカホコ』。社会現象にもなった大ヒットドラマ、日本テレビ系『家政婦のミタ』(2011年)を手掛けた遊川和彦が脚本を手がけている。
主演の高畑充希は、過保護に育てられ、母の助けなしでは生活できない女子大生・加穂子というユニークなキャラクターを演じた。そんな箱入り娘が、一人の青年に出会い自立していく姿を描いた本作では、加穂子らの家族の再生も描かれ、観る者の涙を誘った。
「こんなの初めて!」な経験でピュアでまっすぐなヒロインが成長
大学卒業を控えるも、就職試験に落ち続けている根本加穂子(高畑)は、一人娘で両親や親戚らの惜しみない愛情を注がれ、人に悪意を持たず、素直にまっすぐ育った箱入り娘。毎朝、母・泉(黒木瞳)に起こされ、着ていく洋服も決めてもらい、車で送ってもらうという生活を送っていた。父・正高(時任三郎)も一人娘ということもあり、加穂子はもちろんかわいい存在だが、あまりにも過保護に育てられ自立できない娘が心配で…。
根本家では口が立つ泉に言い返せずに妄想をふくらませがちな正高。そんな正高の心の声が、ナレーションとしてドラマのナビゲート役になっている。正高は、自身の実家や泉の実家の家族・親戚たちの人となりを動物に例える。劇中でも、例えが具現化され、ユーモラスにキャラクターを見せる演出が楽しい。
一方、泉は家や自身の実家といった自分のテリトリーでは弁が立つも、正高の実家やテリトリーを出てしまうと途端に声が小さくなってしまうという内弁慶な性格。愛情を注いで育てた加穂子に関しては、行動に口も出し、手助けしてしまう。正高も娘以外のことに関心を持たない妻と加穂子の異常な依存関係に危機感を抱きつつ、加穂子を甘やかすことをやめられず…。
親離れできない加穂子もさることながら、子離れできない両親のキャラクターも強烈で、放送当時「こういう親子結構いそう」「ぶっ飛んだ親子だな」「なんか憎めない」「親の在り方も考えさせられる」など、さまざまな反響を呼んでいた。
そんな加穂子は、ある日、同じ大学に通う画家志望の麦野初(竹内涼真)と出会う。苦学生の初は、加穂子の過保護っぷりを痛烈批判した。加穂子はその言葉に驚き、ショックを受けるのだった。だが、初との出会いが加穂子を変える。働くことの意味を考えることや傷くこと、恋や母に意見を言うことなど…さまざまな“初めて”の経験が、加穂子の社会的な成長を促しながら、彼女本来の長所も浮き彫りにしていた。
過保護に育てられたヒロインの“愛”が家族の危機を救う!
たくさんの愛情を受けて育ったがゆえに、「大好きだよ」とピュアでまっすぐに愛を届けることができるのが、加穂子の強み。物語では、ときにお節介と言われながらも、彼女の愛が周囲の人々の心のトゲや痛みを癒やし、家族や親戚の危機を救った。素直な性格ゆえの思い込んだら一直線な行動力や諦めない心も、加穂子ならでは。そのひたむきな姿が周囲を心を動かし、視聴者の感動も呼んだ。
終盤、泉の母で「ばあば」と慕う初代(三田佳子)は、家とバラバラになりかけている家族のことを加穂子に託し、「どんなにつらくても、ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、好きな人の手を離さないで」と優しくアドバイスするシーンが感動的だった。その言葉を信じ、大事な決断に至った加穂子。その言葉は「ずっと心に留めておきたい」「私にも届いてます」「涙腺崩壊」と視聴者の心にも響いていた。
彼女がこれまで自分を支えてくれた周囲の人々全員への感謝と愛を伝えた場面も印象に残っている。そんな本作に「ただ 幸せが 1日でも多く側にありますように」と歌う星野源による主題歌「Family Song」が寄り添っていたことも特筆したい。
放送終了後、加穂子の口調を真似た「すっばらしかった」という賛辞の声がSNSで続出していた。2018年には連ドラのその後を描いたスペシャルドラマも放送された人気作を今一度味わいたい。
ライター:小松加奈
ライター/編集者。音楽・映画・ドラマ・アニメなどのエンタメ系を中心にインタビュー/レビュー/コラム記事などを手掛ける。
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