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【最新話】“最大の謎”が網羅『しあわせな結婚』ダブル主演の“絶妙な空気感”が視聴者を翻弄…

  • 2025.8.21

大石静脚本によるテレビ朝日のテレビドラマ『しあわせな結婚』は、単なる夫婦の愛を描くホームドラマではない。幸せな結婚生活が、一つの疑惑をきっかけに予測不能なサスペンスへと変貌していく様を描いた、異色の「マリッジサスペンス」だ。ラブコメディのような軽快な幕開けから一転、視聴者を混乱と疑心暗鬼の渦に突き落とす本作は、愛と真実という普遍的なテーマに鋭く切り込んでいる。

※【ご注意下さい】本記事はネタバレを含みます。

愛と真実が天秤にかけられる、マリッジサスペンスの核心

物語の根幹は、主人公である弁護士・幸太郎(阿部サダヲ)の妻、ネルラ(松たか子)にかけられた15年前の元婚約者殺害容疑だ。幸せの絶頂から突き落とされた幸太郎は、夫として妻を信じるべきか、弁護士として真実を追求すべきかという究極の選択を迫られていく。

本作はこの夫婦の葛藤を通して、単純な犯人探しのミステリーにとどまらない問いを投げかける。ネルラが語る「記憶がない」という言葉、蘇る記憶の断片、そして父への突然の告発。二転三転する状況の中で、「愛する人を信じ抜く」とはどういうことなのか、そしてその愛が時として真実から目を背けさせる危うさを孕んでいることを示唆しているのだ。

個性豊かな鈴木家が抱える秘密や、執拗にネルラを追う刑事・黒川(杉野遥亮)の存在も相まって、物語は誰の言葉が真実で誰が嘘をついているのか、簡単には判断できない複雑な様相を呈しており、考察要素もふんだんに盛り込まれた内容となっている。

揺れ動く主人公の葛藤と、試される“信じる”ことの意味

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『しあわせな結婚』第5話(C)テレビ朝日

本作の物語の大きな柱となるのが、主人公・幸太郎の葛藤だ。当初、結婚に冷めた視点を持ち独身貴族をきどっていた彼が、ネルラと出会い、これまでにない幸福感に満たされ結婚するところから物語は幕を開ける。しかし、妻に殺人の嫌疑がかけられていたことで、彼の価値観は根底から揺さぶられることになる。

法廷では自信に満ちた弁護士である幸太郎が、家では妻の一挙手一投足に翻弄され、疑心暗鬼に陥ることになる。妻を信じると決意したかと思えば、新たな疑惑を前に「もう支えきれそうにない」と家を飛び出してしまう。この幸太郎の人間くさい弱さや優柔不断さが、視聴者に「もし自分が同じ立場だったら」と考えさせるきっかけを与えているのだ。愛するが故に冷静な判断ができず、真実を知りたいと願いながらも、その真実が幸せを破壊することを恐れる。彼の揺れ動く姿は、「人を信じる」という行為の難しさと尊さを同時に描き出している。

安易な答えを許さない、複雑な問い

このドラマは、「妻は犯人か、否か」という単純な二元論に安易な結論を出すことを避ける。むしろ、登場人物たちの嘘と真実が複雑に絡み合うことで、視聴者に考えを促すような作りになっている。愛する人の言葉をどこまで信じられるのか。真実を知ることが、必ずしも幸せに繋がるとは限らないのではないか。本作は、簡単には答えが出せない複雑な問題を投げかけ、視聴者の人間関係や価値観をも揺さぶってくるのだ。

物語を支える主演二人(阿部サダヲ・松たか子)の演技力

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『しあわせな結婚』第5話(C)テレビ朝日

この予測不能なマリッジサスペンスを見事に成立させているのが、主演を務める阿部サダヲと松たか子のたしかな演技力だ。

阿部サダヲは、愛情と猜疑心の間で揺れ動く幸太郎の葛藤をリアルに体現している。妻を想いオムライスを作る愛情深い姿と、法廷で苛立ちを見せる姿。その両極を自在に行き来し、情にもろく頼りない主人公に、抗いがたい魅力を与えている。彼が演じるからこそ、幸太郎の滑稽さと悲哀が際立ち、視聴者はこのどうしようもない男から目が離せなくなる。

一方の松たか子の怪演は、本作のミステリーそのものを牽引している。天真爛漫な言動で周囲を和ませる無垢な妻の顔と、刑事と対峙し妖しく微笑む底知れぬ顔。その境界線を巧みに行き来する演技は、ネルラが純真な被害者なのか、すべてを計算する悪女なのかを最後まで分からなくさせる。彼女の存在そのものが最大の謎として、物語に緊張感を生み出しているのだ。

この実力派二人による演技のぶつかり合いがなければ、本作は単なる奇抜な設定のドラマで終わってしまっただろう。二人が織りなす絶妙な夫婦の空気感が、この奇妙でスリリングな物語に確かな説得力をもたらしている。

また、幸太郎とネルラを囲む鈴木家の面々も一癖ある役者が集まり、底が見えないスリルをさらに深めている。ネルラの父・鈴木寛を演じる段田安則、叔父の鈴木考は岡部たかし、弟のレオは板垣李光人と実力派が揃う。特に段田安則と岡部たかしという組み合わせは、単なる好々爺と親切な叔父で終わるはずはなく、何かを隠しているような佇まいを漂わせていて、キャスティングの妙を感じさせる。

また、15年前の事件に執拗にこだわる刑事・黒川を演じる杉野遥亮も一見好青年だが、ただの正義感だけで事件を追っているわけではなさそうな雰囲気を醸し出していてサスペンスに彩りを添えている。

実力派キャストのアンサンブルは、見ていて心地良い。幸太郎とネルラの結婚生活はどうなっていくのか、目が離せない展開が続きそうだ。


テレビ朝日系 『しあわせな結婚』毎週木曜よる9時
TVerで見逃し配信中
https://tver.jp/episodes/ephfvw1lru

ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi