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どうもスッキリしない“矛盾”はなぜ起こる? 日曜劇場『キャスター』仕掛けた“制作者の意図”

  • 2025.5.30

メディアに対する風当たりが厳しい時代になった。テレビ業界もそのことを自覚し、直面する課題を考えようとしているのだろうか。TBSの日曜劇場『キャスター』は現代の報道が抱える課題と倫理観に対して挑みかかる、挑戦的な内容となっている。

本作は、阿部寛演じる型破りなニュースキャスターが生ぬるい民間地上波テレビの報道姿勢を、違法すれすれな手法(時には違法なものも)で改革していく様が描かれる。時に相手を罠にはめてでもスクープをつかみ取るその姿勢は賛否両論だ。そして、そんな主人公の行動を通して、「真実を伝えることの難しさ」を視聴者に届けようと試みている。

報道をミステリーとして見せる

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日曜劇場『キャスター』第6話より (C)TBS

第1話、主人公の進藤壮一(阿部寛)が、視聴率低迷に苦しむ地上波のニュース番組「ニュースゲート」に招かれる。低迷している原因は、お決まりの横並びの報道のせいだと考える進藤は忖度なしで、本音で向き合う報道を志向する。いきなり、台本を無視して官房長官への生放送インタビューを敢行する、と思わせてそれが実はリハーサルだったという演出がなされる。ドラマ視聴者はいきなりこの展開に虚を突かれる。

忖度という言葉が一般的になって久しいが、政治家や警察を怒らせれば、その報道機関は会見を出入り禁止にされたりして、情報をもらえなくなる。だから、報道は本来きびしく追及しないといけない相手に忖度してしまう。結果、報道はつまらなくなったのだと進藤はこのリハーサルで、ニュースゲートのスタッフ、そしてドラマの視聴者に突きつける。

そして、報道にもリハーサルがあり台本があるということを伝え、このドラマ全体が本当の展開かと思わせておいて、どんでん返しを仕掛けてくる作品なのだと宣言しているシーンだ。

実際に、第一話から目まぐるしく事実が二転三転していく展開となるが、何が真実なのか、視聴者には簡単にはわからない。報じられた事件が本当にディテールまで正しいのか、もしかして恣意的に切り取られているのではないかと疑わせるような仕掛けが満載だ。第一話では官房長官が不意の病で倒れ輸血が必要になるが、官房長官を優先したせいで、本来輸血が必要だった子どもが死亡した可能性が浮上するも、結局そのような事実はなかったと執刀医は言う。事実は切り取り方によっていくらでも見え方が変わってしまうことを示唆するようなエピソードだ。

本作のエピソードは現実の事件を参照したものも多い。第2話ではスポーツ賭博に関するエピソードが描かれ、第3話ではSTAP細胞のデータ改ざんを模した内容が展開された。普段、接している報道内容も、だれがどんな意図で切り取っているのか、報道の裏側を描くことで真実を知るのは簡単ではないと視聴者に伝えることを意図した作品と言える。

そんな報道の裏側をミステリー仕立てで描いているのが本作の特徴だ。ミステリーというジャンルは事実が何かを考察することに面白味があるジャンルだが、それが見せ方によって真実はいくらでも変化する報道のあり方とマッチしている。最初の切り取り方では善人に見えた人物が、次に提示された切り取り方では裏のある悪人に見えてしまうことが、このドラマでは多々起きる。

これは制作者の意図であり、現実の報道もそのようになっているのだと主張しているのだろう。現実の報道もミステリーを考察するように疑りながら接する必要があると伝える作品なのだ。

臓器移植をめぐる進藤と崎久保の因縁

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日曜劇場『キャスター』第6話より (C)TBS

物語は、ベテランキャスターの進藤と、若手ディレクターの崎久保華(永野芽郁)との対立を中心に展開する。素朴に報道の正義を信じる崎久保は、進藤の違法な癒着にすら手を染めるやり方に納得いかず、進藤からスクープを取って見せるという。しかし、常に進藤は一枚も二枚も上手で崎久保を先回りし続ける。

そんな2人の過去の因縁が第6話では明かされた。崎久保は、幼い時に臓器移植が必要だった姉を亡くしている。母親はそんな姉を海外での違法な臓器移植で救おうとしたが、進藤がそれを報じたことで手術は不可能となり、姉の命は失われたのだ。

進藤はその報道を間違っていないと主張する。報道のせいで姉は死んだと主張する崎久保に対して、海外の違法な臓器移植を認めれば、貧しい人が無理やり臓器を奪われることにつながると進藤は言う。

6話では崎久保が、自分の姉と同じように海外で臓器移植せねば助からない少女を救うために奔走する。目の前で苦しんでいる少女を救うために報道に何ができるかを考えたい崎久保と、商売のために海外の貧しい子どもの臓器が売買されることを止めるために報道があると考える進藤。

移植を待つ少女を切り取れば、海外の臓器移植は正しいことに見えるが、その背景で臓器売買に利用される子どもたちに目を向ければ、正しいこととは言えなくなる。絶対的な正義はなく、何を報じるべきかを決めるのは個人がどこに目を向けているかの違いで決まる。そのように簡単には答えの出せない問題を正面から突きつける、骨太さが本作の大きな魅力になっている。

「報道は毎日がエイプリルフール」の真意は?

一方で、進藤の行動には矛盾も感じられる。進藤はこの臓器移植の件で、ルールは理不尽に思えても意味があって制定されているのだから守られるべきと言うが、進藤自身、何らかの目的のために官房長官から機密費を受け取るなどルール違反を犯している描写がある。進藤はルールを守れと言いながら、自分で破っている時がある。

このあたりのすっきりしない部分は、まだ明かされていない秘密があるのだろうか。第1話で進藤自身が「(報道の現場は)毎日がエイプリルフールだと思え」と言うのだが、進藤の言動もどれが本音でどれが嘘なのか、判然としない部分がある。このあたりも本作のミステリー要素を高めている。

進藤の言葉は、報道に接する時は嘘だと思うくらいがちょうどいいという意味かもしれない。このドラマの主人公の言動の信用できなさは、そのことを視聴者に伝えるためと言えるかもしれない。


TBS系 日曜劇場『キャスター』 毎週日曜よる9時〜

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi