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大人気小説がNHKで映像化!「ドラマも良い」「覚悟を見せられた初回」原作ファンも高評価な第1話

  • 2025.2.6

藤岡陽子の同名小説を山田杏奈主演のドラマ化した『リラの花咲くけものみち』(NHK)。山田演じる主人公・岸本聡里は中学生時代は引きこもり、その後チャレンジスクールを卒業した後に獣医師を目指し、獣医学生になる。人との繋がりを放棄しかけていた彼女が、動物の命を救う獣医師を夢見て、ふたたび前を向く物語。SNS上では、原作ファンからの好意的な声も見られる。

初々しさとひたむきさが光る山田杏奈

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『リラの花咲くけものみち』2月1日放送(C)NHK

小学4年生のころに母を亡くし、継母との生活が始まるも、ソリが合わずに引きこもり状態になってしまった聡里。祖母の牛久チドリ(風吹ジュン)が、室内にうずくまる彼女を発見するシーンは、なんとも痛々しい。「ごめんね、知らなくて」と急いで聡里を抱きしめるチドリと、祖母の胸の温かさを感じて外界との接続をゆるやかに立ち上げ直す聡里の身体性が、鮮やかに浮かび上がる場面でもある。

その後、聡里はチャレンジスクールを経て、獣医師になるために北農大学獣医学類の学生となる。チャレンジスクールとは、主に中高時代に不登校を経験した生徒が、自身の興味や適性に合わせて目指す職業や道を見つけ直し、勉学に取り組み直す高校の総称だ。

祖母と暮らすようになった聡里は、おそらくチャレンジスクールでの経験と、チドリからの働きかけ、亡くなった母との結びつきを示す愛犬・パールとの思い出や、元来、大の動物好きである自身の性質などから、獣医師になることを志す。

チドリに夢を聞かれたときも、獣医師になる可能性を示唆されたときも、聡里は及び腰だった。しかし、いざ「私、やってみる」とチドリに伝えた瞬間の聡里の目には、一抹の迷いはありながらも、それ以上の期待や可能性に彩られていたように見える。聡里を演じる山田杏奈の、初々しさとひたむきさが全面に出たシーンだった。

「ただの美少女」イメージからの脱却

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『リラの花咲くけものみち』2月1日放送(C)NHK

彼女の演技が光るシーンは、ほかにもある。大学の寮で同室となった梶田綾華(當真あみ)に、愛犬・パールの遺骨を箱に入れて持ち込んでいた件を指摘され、その理由を懸命に伝える聡里の場面だ。

パールとの出会いは、聡里が3歳のころだった。母が亡くなり、継母との関係性が悪くなったこと、犬が苦手な継母によって「自分が学校に行っている間にパールが捨てられてしまうのでは」と恐怖に駆られ、パールとともに部屋に引きこもるようになったこと。引きこもっている間の心の支えは、パールだけだったこと。大学に合格した日に、まるで安心したように、眠るように命を閉じていったこと。

涙ながらに言葉を尽くす聡里に、それまで拒否反応を示していた綾華も理解を見せた。パールの遺骨が入った箱を部屋の窓辺に置き、二人でともに見守るシーンにかけて、聡里と綾華が互いに信頼関係を醸成させた過程が描かれている。

山田杏奈は、映画『ミスミソウ』(2018)や『ひらいて』(2021)、ドラマ『幸色のワンルーム』(2018)など少々影のある、重たい背景を負った役柄のイメージが強い。多くのメディアで「美少女」と呼称されているように、類を見ない透明感を伴ったビジュアルと相まって強固にされたイメージだ。しかし『ゴールデンカムイ』(2024)のアシㇼパ役のように、漫画原作のキャラクターを忠実に再現することも、ドラマ『未来への10カウント』(2022/テレ朝系列)や『ゼイチョー〜『払えない』にはワケがある〜』(2023/日テレ系列)のように、等身大の女性像を体現することもできる。ある意味、ただの美少女イメージからの脱却を図ることが、彼女を役者として一回りも二回りも成長させる鍵になる。

全3話、原作ファンの反応は?

ドラマ『リラの花咲くけものみち』は全3回の放送を予定。SNS上では、放送回数が短いからか「1話の展開が早く感じた」との意見もある。しかし、原作ファンからの評価は概ね好意的なものが多い。

「原作も良かったけど、ドラマも良い」「最後のシーン、泣けた」「逃げずに描く制作陣の覚悟を見せられた初回」など、原作の雰囲気を汲み取りつつ、映像としての魅力を加味している点が評価されている。とくに終盤、聡里たちが馬の出産に立ち会うシーンでは、ときに獣医師は命を天秤にかける行為も余儀なくされる現実を、如実に打ち出す場面でもあった。

今後の展開として注視したいのは、聡里たちの動物との向き合い方や、それらを描く制作側のスタンスが作品上にどう現れるか、といった点だ。

聡里が獣医師を目指すきっかけとなったのは、自身が動物好きであることはもちろん、パールとの思い出が大きな比重を占めている。この事実そのものは美しい反面、動物の存在や、動物と過ごす時間を「救い」「癒し」とだけ受け取る姿勢は、どうしても人間主体にならざるを得ない。

本編に登場する久恒先生(山崎静代)という動物病院の院長が口にするセリフで「動物と接していると、いかに人間が傲慢かがよくわかる」といったものがある。動物が好きだから、動物と触れ合いたいから、そういった理由だけで獣医師を目指すことの密かな危険性を内包している言葉とも取れるだろう。

動物を救うために、別の動物を犠牲にしなければならないこともある。無情にも思える現実を前に、聡里はどのように折り合いをつけていくのだろうか。



土曜ドラマ『リラの花咲くけものみち』 毎週土曜よる10時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_