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“朝ドラ特有”のシーンがカット…視聴者が感じた“違和感”の正体とは?NHK『おむすび』

  • 2025.2.7

2週間ほど主人公の不在が続いた連続テレビ小説『おむすび』。第18週「おむすび、管理栄養士になる」で、念願の管理栄養士になった結(橋本環奈)がようやく帰ってきた。主演・橋本環奈の多忙さなど、制作の裏事情を想像してしまう展開となり、視聴者からの苦しい声が相次いだ。しかしSNS上では「本編内でスピンオフをやってくれている」とする、あたたかい見方もある。

管理栄養士になりたての数年が省かれた理由

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『おむすび』第18週(C)NHK

橋本環奈演じる結が不在の間、結の姉・歩(仲里依紗)のエピソードが約2週に渡って描かれた。震災で命を落とした親友・真紀(大島美優)と、その父・孝雄(緒形直人)との関係性を再構築し、新たなスタートを切る過程が、彼らを繋ぐモチーフの一つである「カセットテープ」を媒介に描かれた週だった。

その後、舞台は再び、管理栄養士の資格を得た結のもとに戻ってくる。しかし彼女はすでに現場に出て3〜4年ほど経っており、新人というよりは少々の経験を積んだ、組織の中核を担うポジションにいる。朝ドラ特有の、新しい仕事や環境に慣れず四苦八苦しつつも成長する主人公の図……は、あまり見られそうにない。

しかし、おそらくこの脚本には意図がある。仮に結の成長譚を描くのが目的の場合、それはすでに彼女が栄養学校に入って栄養士となり、星河電器の社員食堂で仕事を覚えるくだりで描ききってしまっているのだ。

管理栄養士になりたての結の数年が省かれているのは、結の成長をドタバタ描く以外の目的があってこそ。つまり管理栄養士になった結が、あらためて「人と食を繋ぎ、笑顔を増やす」ためには具体的に何ができるのか、生身の人間に対して実践する過程を描写するのが18週以降のゴールだと考えれば、矛盾した展開ではない。

それでも、せめて子育てをしながら管理栄養士になるための勉強をするのが、どれだけ大変か……その背景を少しでも描いてほしかった。そう考えるのは筆者だけではなく、SNS上でも似た嘆きが散見される。いくら家事も炊事も実家の手伝いもできるスーパーダーリン・翔也(佐野勇斗)がいたとしても、国家資格を取得するのは骨が折れただろうから。

『おむすび』が大事にしたがっている軸

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『おむすび』第18週(C)NHK

管理栄養士になりたての結のシーンが省略されたのと同様に、前クールの『虎に翼』に続いて『おむすび』でも主人公の出産シーンがカットされている。

老若男女問わず視聴する可能性の高い朝の時間帯に放送される点、出産シーンをリアルに描きすぎることの多方面へのリスク、そもそも出産シーンを描く演出や役者へのアフターケアの難しさなど、出産シーンが描かれない理由は数多く挙げられる。

しかし、もっとも的を射ている視聴者の意見は、「出産シーンを描くことで物語の軸がブレてしまうから」ではないだろうか。

『虎に翼』は主人公・寅子(伊藤沙莉)が、日本初の女性弁護士として法曹界で仕事を成していく過程を追った作品だ。ならびに『おむすび』も、結が栄養士から管理栄養士となり、食の分野で人を笑顔にする夢を形にしていく物語である。どちらも「仕事」に重きを置いている以上、妊娠や出産シーンに尺を割きすぎるのは、作品としての方向性を歪めかねない。

女性にとって、妊娠や出産と、仕事を続けていくことは、より良く生きていくうえで決して分離する要素ではない。しかし、現実は厳しい。少しずつ制度が整ってきつつあるとはいえ、まだまだ女性が妊娠・出産を経て元のキャリアルートに戻るには、多くの時間と労力と周囲の支えが必要である。

現実の事情を踏まえながら、『おむすび』はどんな生き方を提示するのか。今後、結が新たな壁にぶつかるのではあれば、それをどう乗り越えるかで答えを示してくれるだろう。

NHK 連続テレビ小説『おむすび』
毎週月曜〜土曜あさ8時放送 NHKプラスで見逃し配信中



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_