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『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』に続くか 「ジャンプ+」の注目作【2選】

  • 2025.1.30
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(C)SANKEI

現在、もっとも面白い漫画を多数生み出しているプラットフォームは、漫画アプリ「少年ジャンプ+」(以下、「ジャンプ+」)だ。

2014年9月にスタートした「ジャンプ+」は話題作、ヒット作が次々と配信されており、その勢いは本家の「週刊少年ジャンプ」(集英社)に迫るものとなっている。
ページ数の制限と定期的な発売日が決まっている雑誌と違い「ジャンプ+」は毎日更新なので、ページ数の制約も少なく新人の読切も多数掲載されている。また、新人作家が自由に投稿可能でインディーズ連載もできる「ジャンプルーキー!」という漫画アプリも運営しており、定期的に開催されている「ジャンプ+連載争奪ランキング」で人気を博した作品が「ジャンプ+」で連載されるという導線も存在する。

だからこそ「ジャンプ+」は、次の才能をいち早く発掘したいという漫画読者の注目を集めており、面白い漫画が配信されれば、X(旧Twitter)等のSNSで注目され、一気に話題となる。

何より、他の漫画アプリと大きく違うのが「ジャンプ+」で連載されている漫画や読切は、初回が無料で読めるということ。 かつて漫画雑誌が幅広い読者を獲得できたのは、コンビニや本屋で立ち読みが容易だったからだが「ジャンプ+」はアプリでの立ち読みが可能で、だからこそ若い読者を引き込むことに成功したのだろう。

そんな「ジャンプ+」を代表する現在の看板作品は、『SPY×FAMILY』、『ダンダダン』、『チェンソーマン』、『怪獣8号』の4作である。

『SPY×FAMILY』、『ダンダダン』、『チェンソーマン』、『怪獣8号』。「ジャンプ+」の看板作品。

遠藤達哉の『SPY×FAMILY』は、スパイの夫・ロイドと殺し屋の妻・ヨルと他人の心を読むことができる超能力者の娘・アーニャが、お互いの正体を隠して偽りの家族を演じる様子を楽しく描いたホームコメディ。

龍幸伸の『ダンダダン』は、宇宙人や妖怪といった怪奇現象にオカルトマニアの少年・オカルンと霊能力を持った女子高生・綾瀬桃が立ち向かう姿を、超絶作画で描いたオカルトアクションバトル漫画。

第1部が「週刊少年ジャンプ」で連載された後、第2部が「ジャンプ+」で連載されている藤本タツキの『チェンソーマン』は、悪魔の跋扈する世界で「チェンソーの悪魔」の力を宿した少年・デンジが凶悪な悪魔と戦う姿を描いたダークファンタジー漫画。

そして、松本直也の『怪獣8号』は、地震や台風のように怪獣が次々と襲来する日本で、怪獣と戦う日本防衛隊の活躍を描いた特撮映画テイストのバトル漫画である。

この4作は、幅広い支持層を獲得しているヒット作だが、ほかにも面白い連載作品は次々と立ち上がっており、どれも高いクオリティを誇っている。 そんな精鋭揃いの連載漫画の中で、今後の「ジャンプ+」をリードする新たな看板作品となりそうなのが、クワハリ(原作)と出内テツオ(作画)の『ふつうの軽音部』だ。

人間関係の描き方に光るものがある『ふつうの軽音部』

本作は鳩野ちひろを中心とした高校の軽音部の人間模様を描いた青春音楽漫画。
山下敦弘の2005年の映画『リンダ リンダ リンダ』の2020年代版とでも言うような作品で、銀杏BOYZやandymoriといった日本のロックバンドの楽曲が劇中に多数登場し、軽音部のメンバーが演奏する場面が本作の見せ場となっている。 登場する楽曲のチョイスが毎回絶妙で、どの曲を好きかということがそのまま生徒たちのキャラクター造形に繋がっているのが本作の巧みさだ。何より軽音部の人間関係の描き方がとても上手いため、音楽のことを知らなくても物語として楽しめる。

すでに本作は、人気漫画の指標となっている「次にくるマンガ大賞2024」WEB漫画部門の第1位、「このマンガがすごい!」2025-オトコ編の第2位、「THE BEST MANGA 2025 このマンガを読め!」の第2位と、昨年発表された漫画賞のランキング上位を獲得しており、漫画ファンの間での期待値は高まっている。 物語はまだまだ序盤だが、アニメ化等のメディア展開が始まれば、一気にファン層が広がることは間違いないだろう。まだコミックスは5巻しか出ていないので、作品を追いかけるなら今がチャンスだ。

SNSで盛り上がりを見せつつある異色の野球漫画『サンキューピッチ』

一方、最新話が掲載される度に一部で熱狂的な盛り上がりを見せているのが、住吉九の『サンキューピッチ』である。

本作は高校を舞台にした野球漫画で、野球部のキャプテン・小堀へいたが、剛速球を投げるピッチャー・桐山不折をワンポイントリリーフとして起用することによって野球部を強化しようとする物語。 中学の時に右肘を負傷してイップスとなった桐山は一日に3球だけしか全力投球できないという弱点があるのだが、その弱点を隠した上でいかにして桐山を活かすのか? という戦略戦が野球漫画としての見所となっている。

一方、桐山が入部したことで、プレッシャーを感じるとすぐに弱気になるエースピッチャーの三馬正磨が精神的に成長していく姿も描かれており、桐山を中心とした野球部のメンバー全員の人物像が掘り下げられているのも、作品の魅力である。まだコミックスが1巻しか刊行されておらず、野球の試合もあまり描かれてないのだが、癖の強いキャラクター描写にSNSでは注目が集まっている。

作者の住吉九は、かつて『ハイパーインフレーション』という漫画を「少年ジャンプ+」で連載して大きく注目された。
本作は偽札を身体から生み出すことができる少年・ルークが自分たちの民族を迫害し奴隷として支配する帝国に偽札の力で戦いを挑む姿を描いた物語で、超能力を用いた巧みな心理戦と、主人公のルークや奴隷商人のグレシャムを筆頭とする癖の強いキャラクターが注目された。 全6巻という短い巻数の中できれいにまとまっているため、今後、アニメ化等で再評価される機会もあるのではないかと思う。『サンキューピッチ』にハマった人は是非、こちらも読んでほしい。

最後に入門編としてオススメしたいのが「ジャンプ+」で配信された読切作品の傑作を収録した『読切集』だ。

今年の1月4日に4冊同時に発売され、「恋」「情」「生」「変」というテーマごとにまとめられているのだが、青春モノから実験的なSFまで幅広い作品が収録されていて、とても読み応えがある。 長編漫画は読むのは敷居が高いと感じる方は、まずはこの『読切集』を手にとってほしい。

一読いただければ「ジャンプ+」の持つ豊かさが実感できるはずだ。


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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