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二宮和也主演2年前の“日曜劇場”…大ヒット作品連発の有名脚本家による傑作の魅力 『スロウトレイン』放送記念

  • 2025.1.2

多部未華子出演の新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』放送を記念し、TVerでは多部未華子の過去の出演作『マイファミリー』(2022/TBS)1〜3話と最終話を配信中。1話から重厚に構成されているのが特徴の黒岩勉脚本である本作は、年末年始を利用して一気見するのにおすすめのファミリーサスペンスだ。

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(C)SANKEI

『マイファミリー』濃縮な1話

黒岩勉といえば、過去に『グランメゾン東京』(2019/TBS)『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(2021/TBS)『ラストマン-全盲の捜査官-』(2023/TBS)など話題性の高いドラマ脚本を手がけてきた。オリジナル脚本の質の高さに定評があり、一定のファンがいる。

2024年にも、藤原竜也主演の『全領域異常解決室』(フジ系列)脚本を担当した黒岩。妖怪や怪異現象が関係している事件を解決する特別対策室……を描いていると思いきや、隠された真実が明かされ、物語全体の色合いが変容していく。

1話から耳目を惹きつける重厚なつくりが特徴の黒岩脚本。『マイファミリー』は1話の序盤から、主人公・鳴沢温人(二宮和也)の娘・友果(大島美優)が誘拐される事件が発生。大事な娘を取り戻すため奔走する過程で、温人と友果との関係、ならびに妻である未知留(多部未華子)との夫婦仲も冷え切っていることが露呈する。

1話という限られた時間のなかで、大事な娘が誘拐される事件が発生し、家族のことを省みずに仕事に邁進していた温人の至らなさ、そのために家族関係が破綻している現状が違和感なく、過不足なく描写される。

なぜ誘拐事件が発生したのか、犯人は誰なのか。謎を追い求め、考察する要素のあるサスペンス性もありながら、同時に「家族とは何なのか?」というテーマが土台を支えている『マイファミリー』。主演の二宮和也はもちろん、娘を思うがあまりに夫にキツくあたってしまう妻・未知留を演じている、多部未華子のリアリティにも目をみはるものがある。

丁寧な描写とエンタメ性の高さ

『全領域異常解決室』でも顕著な特徴だったが、『マイファミリー』でも、犯人を考察するのに必要な登場人物は1〜2話の時点ですでに出演している。物語の中盤から新しく登場したキャラクターが、実は物語の根幹に深く関わる人物だった……なんていう小手先のまやかしは、黒岩脚本にはない。

視聴者に、適切なタイミングで公平な情報が与えられることで信頼を得てきた黒岩の手腕。同じように特筆したいのが『マイファミリー』1話に見られる、登場人物の丁寧な描写だ。

たとえば未知留の言動を例にとる。一人娘が誘拐され、その生死も不明で不安が募っているタイミングで、彼女はそっと娘のワンピースを手に取りアイロンをかけ始めた。襟元までしっかりと皺が伸ばされたワンピースは、持ち主の帰りを待つように凛としてハンガーにかけられる。

切羽詰まった状況でも、ただひたすらに娘の生存を願っている母の、シンプルで雑味のない愛が淡々とした手つきに表現されたシーンだった。

また別のシーンでは、犯人の指示通りに身代金を運ぶ途中で、未知留が自家用車の後部に積んだままだったベビーカーを取り出す。大量の紙幣を運ぶのに便利だ、という意図で用意されたベビーカーを見て、温人は「まだあったんだ」と口にする。それを受けて未知留は「また使うかもしれないって、あなたが言ったんでしょう」と返した。

状況が状況だけに、それ以上は追求されない発言だが、二人の夫婦仲がまだ良かったころを些細な一言で表現している、示唆に富んだセリフだ。

丁寧な描写とエンタメ性の高さ、重厚に作り込まれた黒岩脚本。なかなか日常の忙しさに取り巻かれ、こういったドラマを一気見する時間が確保できない方が大半だろう。年末年始の休暇を機に、『マイファミリー』一気視聴をおすすめしたい。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧:Twitter):@yuu_uu_