1. トップ
  2. 【北川景子主演】サイドストーリーの展開もドロドロ…復讐?愛?人の心わあらゆる視点から覗く“月10”

【北川景子主演】サイドストーリーの展開もドロドロ…復讐?愛?人の心わあらゆる視点から覗く“月10”

  • 2025.6.2

関西テレビ制作、フジテレビ系列で放送中のテレビドラマ『あなたを奪ったその日から』が面白い。娘を食品アレルギーで失った母親が復讐のために、惣菜会社社長の娘を誘拐して殺そうとするも、母性愛によって思いとどまり、その子をわが子として育ててしまう。

そんな複雑な状況に追い込まれる母親を北川景子が熱演。共演する大森南朋の奥底の読めなさとのケミストリーが極上のミステリー作品として成立している。

母性と復讐心に揺れる母親

undefined
月曜ドラマ『あなたを奪ったその日から』第5話より(C)カンテレ・フジテレビ

夫と3歳の娘と仲睦まじい家庭を築いていた中越紘海(北川景子)は、娘の食事には人一倍気を使っていた。娘の灯は甲殻類アレルギーを抱えているからだ。そんな灯が、YUKIデリで購入した総菜を口にすると、アナフィラキシーショックの症状が出る。急いで病院に連れていくも間に合わず、灯は亡くなってしまう。総菜を購入する時、食品成分は入念にチェックしたにもかかわらず、このような悲劇が起きたことで、紘海はYUKIデリの責任を問うが、総菜に甲殻類が混入したという証拠は発見されず、事件は未解決のままとなる。

しかし、紘海は娘を失った悲しみと怒りがおさまらず、YUKIデリの社長・結城旭(大森南朋)の次女を誘拐。自分と同じ苦しみを味わせようと殺害目的で誘拐した紘海だが、灯と同い年の彼女に、娘の姿を重ねてしまい、このまま自分の子どもとして育てることを決意。美海という名前を与えて10年が経過し、彼女はすっかり紘海を母親と信じて中学生に成長。紘海も旭への復讐心を忘れていたが、とあることで事件を思い出すこととなり、再び復讐するか、今の生活を守るべきかと葛藤にさいなまれていく。

子どもの誘拐という恐るべき発想に至る主人公だが、根底にあるのは娘への深い愛だ。そして、復讐対象の娘にまでその情愛を注いでしまい、復讐心と母性愛の板挟みとなっていく。3歳の娘を喪った深い悲しみから生まれた復讐心で始まった誘拐劇が、その誘拐した子によって、悲しみが癒されていくという展開に本作の面白さがあり、毎週のように復讐を続けるべきか、美海をこのまま娘として育てあげることに集中すべきか、しかし、その場合灯は浮かばれるのだろうかと葛藤する紘海の姿を緊迫感ある描写で表現している。

考察要素もふんだん

本作は復讐劇と母性愛の葛藤をミステリー仕立てで見せる構成を採用しており、考察要素もふんだんにある。そもそも、灯の死の原因となった甲殻類はどこから混入したのか、もしYUKIデリの総菜に入り込んだとしたらその過程と責任は誰にあるのか。これが物語を推進する最大の謎となっている。

事件をきっかけにYUKIデリは廃業したが、社長だった旭は、元義父の会社に常務として迎え入れられ順風満帆の人生を送っているかに見える。一方で、YUKIデリの調理担当だった男性・鷲尾勇(水澤紳吾)はクビとなり、人生が一変してしまった。旭はYUKIデリの社員を引き連れて義父の会社に入社したが、唯一、鷲尾だけは連れていかなかった。そんな鷲尾は、5話で旭を告発する動画を会社に送り付けてくる。その動画の真相は何か、混入は本当に隠ぺいされたのかどうかが今後明かされていくことになるだろう。

そして、この事件を10年間追い続ける週刊誌記者・東砂羽(仁村紗和)の執念にも裏がありそうな雰囲気だ。彼女の執念はただの記者としての情熱とは思えないものがある。そして、美海がいつ自分が紘海に誘拐された子どもであるという真実に気づいてしまうのかも気になるところだ。

「人の心は万華鏡」を体現する北川景子と大森南朋

undefined
月曜ドラマ『あなたを奪ったその日から』第5話より(C)カンテレ・フジテレビ

紘海は、復讐を再開することを決意し、旭の会社に就職する。彼の秘密を探ろうと近づいたのだが、思いがけず旭の意外な一面を知ってしまい、心が揺れる。6話では、美海の行方がわからなくなり、紘海はパニックに陥ってしまう。そんな紘海を旭は真摯に心配し、美海が無事に発見されたときも心から安堵の表情を浮かべる。旭は行方がわからなくなった次女を10年間探し続けており、娘を亡くす親の不安を誰よりも知っている。そういう旭の心情に紘海は気づいてしまう。それまでは冷酷で利己的な会社経営者だろうと思っていた紘海だが、旭の親としての一面に触れ、自らの行動が正しいのか、わからなくなる。

本作は、そんな人間の複雑さを巧みに描いている。ある一面では冷酷に見える人物も、別の見方では優しい人物に見えることがある。灯が亡くなった事件のマスコミ会見では、親側に責任があるかのような言い方をしていた旭だが、娘を想う気持ちは真剣そのもの。5話で旭は「人の心は万華鏡」という印象的なセリフを語るが、この言葉は本作全体を象徴している。紘海も娘を愛する母親としての側面と、人を憎む復讐者としての側面が、万華鏡のように見る角度によって変化していく。

こういう作品の芝居はとても複雑だ。ステレオタイプに感じさせない工夫が必要だし、場面ごとにその人物の別の側面を意識しなければならない。北川景子も大森南朋も、見事にその期待に応えており、役者陣の芝居も見どころとなっている。また、Snow Manの阿部亮平演じる玖村毅と旭の長女・梨々子(平祐奈)との淫靡な雰囲気漂うサイドストーリーも展開が気になるところだ。

そのように、人間を多面的な角度から描いているのが本作の面白さの本質だ。人の心は万華鏡のように変化する、おそらく、このドラマの展開も最後まで万華鏡のように見え方が変化していき、目の離せない展開が続くだろう。


カンテレ制作・フジテレビ系列 ドラマ『あなたを奪ったその日から』 毎週月曜よる10時

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi