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“2025年新春ドラマ”期待を上回る素晴らしさと予想から見事に外れた結末…!繰り返し観たくなる“名作”

  • 2025.1.9

2025年1月2日に放送された新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』。放送前に当サイトにて作品紹介と期待を込めたコラムを執筆したが、本編は期待や予想を上回る素晴らしさだった。 ※この記事にはネタバレがあります。

人生の分岐点に立つ3人

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新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』より(C)TBS

「鎌倉だけど渋谷です」と自己紹介するのを定番としている、鎌倉に暮らす渋谷家の3姉弟、葉子(松たか子)、都子(多部未華子)、潮(松坂桃李)。交通事故で両親と祖母を一度に亡くした時、葉子はすでに大人だったが、都子は中学生、潮はまだ小学生で、これまで3人だけで寄り添って暮らしてきた。

二十三回忌の法事の帰り道、都子は葉子と潮に韓国の釜山に引っ越すと宣言。仕事も恋愛も半年以上続くことが滅多にない都子の驚きの決断に葉子は呆れ、くわしい話を聞こうとするが、都子は葉子に説教されたくないからと、姉に会うのを避ける。葉子の留守中にこっそりと家に戻り、パスポートを取りに来た都子が潮と話しているのを、実は家にいて隠れて聞いている葉子。都子と潮は、子どもだった自分たちの面倒を見るために、葉子が婚期を逃したと思っていたが、葉子は独身生活に不満などなかった。それなのに、妹弟に申し訳なく思われたり、周囲から相手を探すように促されたりと、葉子は自分では感じていなかった“寂しさ”と向き合うことになる。

一方、恋人のオ・ユンス(チュ・ジョンヒョク)と一緒に釜山で飲食店の開業を目指す都子は、ユンスにプロポーズされても、姉より先に結婚はできないと断ってしまう。だが、本当の理由は都子自身の内面にあり、それには早くに家族を亡くしたことが影響していた。潮も同じで、彼も恋愛において大きな決断をする際にためらってしまう傾向にあった。

憎まれ口を言い合っても、一緒に生きてきた3姉弟はお互いが大切な存在であることを十分に感じているが、それぞれ人生という“旅路”の分岐点に立つことになり、自分自身をしっかりと見つめ直し始める。

野木亜紀子による脚本の妙

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新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』より(C)TBS

葉子は作家の百目鬼見(星野源)や二階堂克己(リリー・フランキー)から頼りにされているフリー編集者、都子は自分のアイデアを生かした飲食店を開店準備中で、潮は自分の仕事に誇りを持っている江ノ電の保線員。3人の仕事と向き合う姿が描かれているのも、本作の見どころの1つだと感じた。特に潮が、運転士になりたかったが保線員になったという新人の保坂颯太(倉悠貴)に、自分は最初から保線員になりたかったし、仕事が楽しいと話す場面は、見ていて清々しく、笑顔にならずにいられなかった。

3人の仕事と並行して、百目鬼から強く勧められて嫌々マッチングアプリを使い始めた葉子のデート風景や、一生懸命に韓国語を学ぶ都子と、そんな彼女を大好きなユンスとの恋愛模様、そして葉子に内緒にしている潮の“秘密の恋”といった、姉弟たちの私生活が描かれていく。

本作の予告を見た時、筆者は潮の恋人は男性じゃないかなと予想した。だが、その相手が、まさか星野が演じる百目鬼だとは予想できなかった。百目鬼が、担当を外れた葉子に執拗に絡むのは、彼女の弟と恋仲だったからなんて、さすがは野木亜紀子による脚本の妙だと感心することしきりだった。

潮は百目鬼から早く同棲したいと誘われるが、都子と同じ理由で一歩を踏み出せないでいる。そんな妹弟を見かねた葉子が発破をかける場面は、3人の関係性や絆が伝わってきて、強く心に響いた。

予想外の展開が魅力

筆者は、3姉弟はずっと一緒にいることを選ぶという結末を予想していたのだが、見事に外れたことが逆にうれしかった。これも野木脚本ゆえの秀逸さで、予想外の展開になるからこそ、心から作品を楽しめたのだと思う。本作の主人公は葉子であり、彼女の生き方や、人生の選択が描出されていく。葉子は“寂しさ”と向き合った結果、独りであることを噛みしめ、ただ生きて、楽しく日々を営むという“小さな時間”を過ごすことを選ぶ。

葉子を演じる松の凛とした姿が本作の一番の魅力であり、葉子と共に生きてきた都子と潮に扮する多部と松坂の繊細な演技、さらに姉弟と関わる人々の様子まで丁寧に綴られているのも見どころだ。

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新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』より(C)TBS

都子と潮が、葉子が結婚すると思っていた元彼の目黒時生役で井浦新が登場したり、松や星野が複数回出演した『タモリ倶楽部』の名物企画「空耳アワー」の“空耳役者”として知られる野田美弘と有田久徳が葉子と言葉を交わす役で姿を見せたりなど、ウキウキするような演出も見ものだ。

また、渋谷家の住まいや鎌倉の風景、どこか江ノ電に似ている釜山の鉄道と駅など、訪れてみたくなる素敵な場所の数々にも目を奪われる。

“孤独”について問いかける

見どころ満載の『スロウトレイン』だが、最後に本作の中で非常に印象的だったセリフを2つ紹介したい。

1つ目は、宇野祥平が演じる、葉子がマッチングアプリで出会った男性の、弟と暮らしていると言った葉子に向けた言葉。

「あなた、孤独じゃないんですよ。だから簡単に言えるんです、独りでも生きていけるって。独りじゃないから言えるんです」

2つ目は、同棲の話をすると、話題をそらす潮に百目鬼が告げた言葉。

「僕は常々、人といる孤独がつらいと考えてる、何よりも。だったら独りでいる方がマシだよ」

『スロウトレイン』は、“孤独”について視聴者に問いかけ、誰かを大切に想い一緒にいるという生き方や、独り暮らしだったとしても孤独ではないという考え方を提示している作品だと感じた。葉子、都子、潮、そして百目鬼の視点から、何度でも繰り返し観たくなるスペシャルドラマだ。



TBS系 新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP