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趣里の“怪物的演技”が際立つ…異色のリーガルドラマ『モンスター』

  • 2024.11.19

古くは『HERO』(フジテレビ系)や『リーガルハイ』(同)、最近では連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『虎に翼』(NHK)、『アンチヒーロー』(TBS系)など、近年のテレビドラマでは、裁判を描いたリーガルドラマが人気を博しており、刑事ドラマや医療ドラマに継ぐ新たな定番ジャンルとして定着したと言って間違いないだろう。

そして、作品数が増えるに伴い法廷劇の描き方も年々多様化しているのだが、現在放送されている『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)も、リーガルドラマとして新しいアプローチが多く「今回はこう来るのか」と、毎週楽しんでいる。

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月曜ドラマ『モンスター』(C)カンテレ・フジテレビ

フジテレビ系の月曜夜10時枠で放送されている本作は、得体の知れない弁護士・神波亮子(趣里)が主人公の物語。
弁護士の父親と二人暮らしだった神波は頭脳明晰で、幼少期から裁判を傍聴していたため裁判に関する膨大な知識を持っていた。
そのため、高校3年生の時に司法試験にも一発合格したのだが、なぜか法曹界には進まず、ひっそりと暮らしてきた。だが、ある日突然、大草圭子弁護士事務所を訪問し「弁護士をやってみることにした」と言って、周囲を唖然とさせる。
その後、亮子は東大出身の若手弁護士・杉浦義弘(ジェシー)とバディを組むことになるのだが、ゲーマーだった亮子は、ゲーム感覚で裁判に挑み、鋭い洞察力と他の弁護士が思いつかないようなアクロバティックなアプローチで次々と裁判で勝訴を勝ち取っていく。

リーガルドラマの魅力は弁護士や検事が法廷で激しく議論を交わす舌戦にあり、法律を武器に戦う言葉の格闘技として楽しむことができる。 同時に依頼人の弁護をするために、担当する裁判の原因となった事件の背景を調べていく中で、意外な真相にたどり着く姿を描いていく。そのため、ミステリードラマにおける探偵の役割も同時に果たすことになる。

法律を駆使して困っている人々を救う弁護士は、現代の魔法使いとでもいうような存在で、そのためか、世間の常識を無視して行動する「魅力的な変人」として描かれることが多い。

今作の主人公・神波亮子もゲーム感覚で裁判を解決していく変人弁護士で、さじ加減を間違えると説得力のない記号的なキャラクターになりかねない極端な存在だ。だが、趣里は見事なバランス感覚で亮子を好演し、彼女の存在にリアリティを与えている。

朝ドラ『ブギウギ』で国民的女優となった趣里の怪物的演技

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月曜ドラマ『モンスター』(C)カンテレ・フジテレビ

亮子の武器は先入観のない冷静な分析力と大胆な行動力で、そのため周囲の人間からみると何を考えているのかわからない不気味な存在に思える。
年齢よりも幼く見える少女のようなビジュアルと常に笑顔を絶やさない優しい顔立ちでありながら、弁護士として発する言葉は冷静沈着かつ攻める時は一気に攻めるというえげつなさがあるのだが、そこで口にする感情を剥き出しにした発言も、裁判を有利に運ぶための演技でしかない。 演技を武器にするという意味において、俳優と弁護士はとても似ている。だからこそ法廷劇はドラマと相性がいいのだが、このドラマの魅力の中核となっているのは、神波亮子を演じる趣里の、アンバランスさから醸し出される不穏な怪物性にあると考えて、間違いないだろう。
『3年B組金八先生ファイナル「最後の贈る言葉」』(TBS系)の中学生役でデビューした趣里は、その後も多数の映画やドラマに出演。そして、朝ドラ『ブギウギ』(NHK)の主人公・福来スズ子役を演じたことで、国民的女優となった。

昭和の人気歌手・笠置シヅ子をモデルとした女性を演じた趣里は、劇中で歌とダンスを毎週のように披露し、その圧倒的なパフォーマンス力が絶賛された。無論、演技の評価も高く、歌手として活動しながら少女から母親へと成長していくスズ子の変化を見事に演じきった。 趣里は現在34歳だが、年齢よりも幼く小柄な少女に見える。しかしセリフを口にすると、頭の回転の速い知的でタフな癖の強い女性だとわかる。 『モンスター』の神波亮子は、そんな趣里の少女のような幼い外見とタフで知的な内面のギャップがうまく活かされており、外見の幼さゆえに相手が舐めた対応をしてくると、予想外の一手を素早く打って相手を翻弄する。タイトルの『モンスター』とはまさに彼女のことで、まずは女優・趣里の怪物性を楽しむドラマだと考えて間違いないだろう。

ヒューマンドラマの名手・橋部敦子が描く優しくも残酷な真実

もう一つの魅力は、裁判をめぐって展開される原告と被告の物語。

第1話では恋人に対する誹謗中傷による自殺教唆、第2話ではアイドル歌手の歌詞盗作による著作権侵害、第3話では、東大卒と偽って精子を提供した経歴詐称といった現代的なテーマを扱った裁判が展開されるのだが、原告も被告もそれぞれ複雑な事情を抱えていることが次第に明らかとなっていく。 脚本を担当している橋部敦子は、草彅剛主演の『僕の生きる道』(カンテレ・フジテレビ系)を筆頭とする『僕シリーズ』3部作や『モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜』(テレビ朝日系)といった作品で知られており、重厚で優しいタッチのヒューマンドラマを得意としている脚本家だ。 今回の『モンスター』は一話完結のリーガルドラマだが、毎話登場する裁判で描かれるのは、人が生きていく中で体得していく感情の機微で、事件の根底にある動機を説き起こしていく中でわかる意外な真相に毎話、ほっこりとした感情になる。 その優しくて残酷な真実を守ろうとするあまり事件関係者は嘘を付き、モンスターとなってしまう。
つまり本作は弁護士の神波亮子というモンスターと、大切なものを守るために嘘をつく原告、被告というモンスターの衝突を描いたリーガルドラマだと言えるだろう。

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月曜ドラマ『モンスター』(C)カンテレ・フジテレビ

そして第5話では、新たなモンスターと言える神波亮子の父親・粒来春明(古田新太)が登場した。亮子と春明は二人きりの親子だったが、亮子が弁護士資格を取得した高校3年生の時に突如失踪し、亮子とは疎遠だった。
資産家の娘・サトウエマ(秋元才加)の依頼で、亡き父の遺言書が書き換える方向に誘導したと思われる岡本プレミアクリニックを訴えようとしていた矢先、病院側の弁護士として春明が急遽、担当することとなり、法廷では弁護士親子の対決が今後、展開される模様だが、怪優・古田新太が演じていることも差し引いても春明の動きは不穏で、亮子以上に怪物的な弁護士であることは間違いないだろう。

物語は、折り返し地点を迎え、いまだ謎に包まれている亮子の正体も次第に明らかとなってきた。怪物たちの法廷劇の行方をを毎週じっくりと見守りたい。

カンテレ・フジテレビ系 ドラマ『モンスター』 毎週月曜よる10時


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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