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「メンタルもきている」「見てて苦しい」食欲不振に不眠症状… 森川葵演じる教師の身に起こった悲劇『放課後カルテ』

  • 2024.11.23

人が持続的に、健やかに生き、働くために必要なもの。それは適切な睡眠と食事だ。しかしこれらは、幼稚園や小学校に通う頃から繰り返し説かれるシンプルな事実ゆえに、軽視されてしまうことでもある。11月16日に放送された松下洸平主演ドラマ『放課後カルテ』第6話にて、物語の主軸となったのは教師・篠谷(森川葵)の働き方だった。すべきことを一人で背負い込み、貧血で倒れてしまった彼女に対し「睡眠と食事は大事だよ」「でも、後回しにしがちなんだよね」「見てて苦しい」「睡眠と食事できてないからメンタルもきている」と同情の声が多かった。

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(C)SANKEI

6話、重度の貧血で倒れた教師

森川葵演じる教師・篠谷は、自分にも他者にも、そして生徒たちにも真摯に向き合う、実際にいたら少々「良い人だけど、真っ直ぐすぎるな」と煙たがられがちな性格だ。校医として赴任してきた牧野(松下洸平)に対しても、もっと笑顔で生徒たちに向き合うように、と再三要求する真面目さを見せていた。

『放課後カルテ』は、「保健室の先生」や「校医」として以前に、一人の人間として子どもたちと接する牧野の視点から、なかなか表面上に浮かばない「子どもたちの悩み・苦しみ」に焦点を当てるドラマだ。しかし、6話でカメラが向けられたのは、子どもではなく教師である篠谷。何事にも真正面から対峙し、一人で課題を解決しようとする性分が、この回で仇となったと言える。

初めて6年生の担任を受け持つ篠谷にとって、教師としての日々の仕事は、ただ「子どもに勉強を教える」だけでは過ぎ去っていかない。授業の下調べや準備、学校外行事にまつわる雑務、他教師との連携や保護者対応など、こなさなければならない業務は次々と積み上がっていく。篠谷のデスクやPC周りには、タスクを書いた付箋が散らばっており、一つの仕事が終わったと思えばまた一つ増える……といったラットレース状態に陥っていた。

次第に篠谷はよく眠れなくなり、食欲不振の症状を覚え始める。結果的に重度の貧血で倒れてしまい、ようやく彼女の働き方を考え直すきっかけに繋がった。

篠谷はなぜ、身体を壊すまで働き続けてしまったのか? それには複数の事情が絡んでいる。教師一人に負担が偏りがちな学校の勤務環境、周囲に頼ることが苦手な篠谷自身の気質、仕事を抱え込み睡眠や食事を疎かにせざるを得なかったこと、いざ倒れても「なんだ、ただの貧血ですか」と軽んじてしまった姿勢

人の健康を保ち、持続的に働き続けるには、食事と睡眠が大切だ。地盤がしっかりした土壌じゃなければ植物が根付かないように、より良い仕事にはより良い土台が要る。しかし、誰しも頭ではわかっているものの、幼少期から「よく寝てよく食べてよく動くこと」と繰り返し説かれてきたことによって、どこか軽視してしまいがちだ。

睡眠よりも、仕事が大事。ゆっくり食事をする暇があったら、家族・友人・恋人と過ごす時間や趣味に割く。どれだけ時代がアップデートされても、寝ている時間を短く済ませられるほど、起きている時間を有意義に活用できるという勘違いは減らない。

子どもだけではなく教師にも目を向ける真摯さ

子どもたちは、自分の悩みや苦しみを自覚し、言葉にすることに長けていない。だからこそ、大人が細やかに配慮し、ときには牧野のような医師の手を借りて「診察」することで、悩みや苦しみに呼び名を当てはめるのだ。

その工程は、大人にだって適用される。むしろ、仕事という大義名分を振りかざし、つい睡眠時間や食事を疎かにして働き続ける大人こそ、無理にでもインターバルが必要なのではないか

小学校を舞台にしたドラマ『放課後カルテ』だが、子どもたちだけではなく、働く教師にも目を向ける真摯さが感じられる。制作側はもちろん、役を丁寧に解釈する試行錯誤を止めない役者陣の姿勢も、本作の評価に直結していると感じる。

学校は、狭い。教師がいて、生徒がいる。教師は子どもを「生徒」だと思いながら接し、生徒もまた大人を「教師」だと思いながら接する。強い意志を持っていなければ、すぐに視野狭窄が起こり、それに気づけもしないだろう。

そんな環境に、教師でも生徒でもない大人=牧野が投じられることにより、教師と生徒どちらの側も反応を見せている。教師や生徒である前に、意思と心がある人間であることを、自覚し合う。きっとこのドラマは、「睡眠と食事が何より大切」なのと同じくらい、生きていくうえでシンプルなメッセージを発し続けているのだ。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_