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4年前から温めた“魂の作品”公開に注目 横浜流星が“逃亡犯”を熱演

  • 2024.12.13

2024年11月29日から公開中の、極上のサスペンスエンタテイメント映画『正体』。本作は、主演の横浜流星と藤井道人監督が4年前から温めてきた企画が実現した、魂のこもった作品。メインキャストには吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、そして山田孝之の名前が並び、主演級の俳優たちが顔をそろえている。原作は染井為人の同名小説。興収成績は初登場1位を獲得するなど、大きな注目を集めている映画だ。

映画『正体』

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(C)2024 映画「正体」製作委員会

日本中を震撼させた事件の容疑者として逮捕された鏑木(横浜流星)が脱走した。潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは? そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。その真相が明らかになったとき、信じる想いに心震える、感動のサスペンス。(公式サイトより)

役を「生きる」横浜流星

冒頭の脱走シーンから、横浜の熱演とアクションに圧倒される。鏑木には、どうしてもやらなければならないことがあるため、自分の体を傷つけ、危険に身を投じ、逃亡犯として追われる身になっても、脱獄しか選択肢がないことが、横浜の真剣な演技から伝わってくる。

あちこちに潜伏する鏑木は、長い髪やヒゲで顔を隠して工事現場で働いたり、帽子とマスク姿でライター業に従事したり、短髪にメガネの好青年として介護施設に勤務したりと、彼と一緒に仕事をする人に、それぞれ全く別人の印象を抱かせる。まるで“七変化”の主人公を、横浜は丁寧に演じているが、特にまつ毛の長い二重の大きな目を、一重の切れ長の目に見えるように変えるところは、ちょっとゾッとするくらい、潜伏することの危険を体現していると感じた。

横浜は、常々「演じる」ではなく、「(役を)生きる」と表現しているそうなのだが、今回の『正体』では、鏑木の潜伏場所ごとに「生きる」役も変わり、新たな偽名の人物に変わるたびに、撮影現場でも「〇〇役の横浜流星さんです」とスタッフから紹介されたという徹底ぶり。それだけ、撮影はハードとなっていったが、内面の表現の難しさもさることながら、警察に見つかり、捕まりそうになると、激しい逃亡劇が繰り広げられるので、アクションも激しさを極めていく。マンションのベランダから飛び降りて、全力疾走し、橋から川に飛び込むシーンでは、横浜は身体能力が非常に高いけれど、スマートに見えてはならないため、もがくような焦りのある、生々しさを出すという難しさが求められた。

吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈の好演も魅力的

難易度の高い撮影のもと、横浜がこなした数々の潜伏・逃亡シーンは、観客を大いに引き込み、鏑木が迎える結末が気になって目が離せなくなる。見れば見るほど、彼は悪人には思えず、どんな事情があるのか、鏑木の【真の目的】とは何なのかを知りたくてたまらなくなる。

潜伏先で鏑木が出会う人物を演じる吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、さらに鏑木を追う刑事役の山田孝之と横浜との共演シーンにも、それぞれ心をつかまれる。吉岡は、鏑木がライター「那須」として働くのを支える編集者の沙耶香役だが、彼女は住むところのない那須を自分の家に同居させ、心を通わせていく優しい女性。那須を信じて助ける沙耶香を、吉岡は瑞々しく演じている。

森本は、鏑木が「遠藤」と名乗って工事現場で働いている時に仲良くなる和也役。SixTONESのメンバーである彼は、俳優としても活躍しているが、本作では映画『Gメン』やドラマ『ナンバMG5』などで見せてきた明るいイメージとは違い、生活の苦しさを抱える中、遠藤と親しくなっていく青年を好演している。藤井監督はドラマ『だが、情熱はある』の森本の演技に感嘆し、彼をキャスティングしたそうで、和也役にも人間味と親しみやすさを持ち込んだ森本は、スタッフ内に「和也推し」が多数生まれるなど、周囲から愛されるキャラクターへと進化させたという。

山田杏奈と山田孝之という2人の山田も、鏑木の運命を大きく左右するキャラクターを演じている。山田杏奈は、鏑木が「桜井」という名で介護施設で働いている時の同僚で、彼の写真を悪気なくSNSにアップしてしまう舞役。その後で、大きく成長していく舞を、山田安奈は絶妙に表現している。山田孝之は鏑木を追い詰めていく刑事の又貫役だが、横浜にとって彼は憧れの先輩俳優だという。

山田孝之、藤井道人、横浜流星のタッグが実現

藤井監督と山田孝之は、映画『デイアンドナイト』で監督とプロデューサーとして組んでおり、親しい間柄だが、藤井作品に山田が出演するのは『正体』が初めて。藤井監督は山田に出演してもらうなら「孝之さんに相応しい役でなければならない」と考え、4年越しの横浜との念願の企画で、ついに山田の出演が実現した。藤井監督と横浜は、『青の帰り道』『ヴィレッジ』『パレード』など、何度も組み続けてきた盟友。藤井・横浜・山田の3人がそろった『正体』で、山田は横浜と同様、魂のこもった熱演を披露している。

筆者にとって、藤井監督作の中では、シム・ウンギョンと松坂桃李がW主演した『新聞記者』が深く心に残る映画だったが、『正体』もこの先ずっと忘れることのない、心に大きく刻まれた作品となった。主演の横浜をはじめとするキャストの演技が光る必見の映画『正体』は、現在公開中だ。


映画『正体』
2024年11月29日(金)より公開中
出演:横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、山田孝之 ほか
原作:染井為人『正体』(光文社文庫)
監督:藤井道人 脚本:小寺和久 藤井道人
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/shotai-movie/



ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP