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バカリズム脚本『ホットスポット』常連俳優たちが勢ぞろいの第1話!初出演の人気女優の適応は…?

  • 2025.1.16

日本のテレビドラマ界には優秀な脚本家が大勢いるが、その中で、今最も異彩を放っているのがバカリズムだろう。独特のペーソスとリアルなテンションの会話劇で奇想天外な物語を紡ぎ出すセンスは、他の追随を許さない。

そんなバカリズムの最新作『ホットスポット』は、彼のセンスが存分に活かされた作品となりそうだ。2023年の『ブラッシュアップライフ』のチームが再結成した本作は、なんてことのない地方都市の日常に宇宙人が入り込んだらどうなるのかを描く、シュールなSFコメディだ。

同僚のおじさんは宇宙人!?

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『ホットスポット』第1話より (C)日本テレビ

富士山が見えるビジネスホテルで働く遠藤清美(市川実日子)は、退屈な毎日だがそれなりに毎日を楽しく過ごしていた。同僚の由美(夏帆)やえり(坂井真紀)ととりとめのない話をしながら、フロント業務にいそしんだり、常連客の正体を妄想したりしながら、淡々と仕事をこなしている。清掃スタッフの中本(野呂佳代)のキラキラSNSをひそかにフォローして彼女の生態を確認し、数ヶ月に一度は幼馴染の葉月(鈴木杏)と美波(平岩紙)とご飯を食べながらどうでもいい話に夢中になるなど、それなりに充実した毎日だ。

ある日、清美は仕事の帰りに交通事故に遭いそうになるが、不思議な力で同僚の高橋(角田晃広)に助けられる。そして、高橋は衝撃の事実を清美に告げるのだ。「実は俺、宇宙人なのね」と。

このことは誰にも言わないでと念を押されたにもかかわらず、清美は誘惑に負けて、この面白い出来事を幼馴染の2人に話してしまった。しかし、2人はなかなか信じてくれない。そこで、清美は高橋を2人と合わせて能力を見せてもらうことにする。

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『ホットスポット』第1話より (C)日本テレビ

高橋は、清美のホテルで働く中年男性だが、地味で存在感がない。一見、どこにでもいそうなおじさんにしか見えないが、宇宙人なのだという。その能力は、人間よりも様々な能力が秀でているというもの。聴覚や嗅覚など五感を高めたり、すごい腕力を発揮したりできるが、能力を使うと代償でしばらく副作用に苦しむことになる。物語は、そんな高橋の能力を清美たちが興味本位やホテルで起きた事件解決のために用いる様を描いていく。

例えば、第一話では、ホテルの部屋のテレビが盗まれるという事件が発生。その解決のために清美は、高橋にテレビの匂いをたどって犯人を割り出そうと提案する。犯人は意外な人物なのだが、その顛末もなんだか人間くささがいっぱいで、脱力しつつもクスっと笑わせてくれるのだ。

本作は、いちおうSF作品と言えるのかもしれないが、一般のSF作品のようなスケール感も難しいテクノロジーも登場せず、ひたすらに日常的な世界にちょっとすごい力を持った宇宙人がいることの可笑しみを描く作品だ。

バカリズム脚本は、まるでファミレスの臨席から聞こえる会話のよう

バカリズム脚本の第一の魅力は、会話劇にある。『架空OL日記』や『ブラッシュアップライフ』といった過去作においても、休憩所などで繰り出される登場人物たちのリアルでくだけた、しかし独特の可笑しさを含んだ会話劇が多くの人を惹きつけたが、本作でもそれは健在。ホテルのフロント従業員という主人公の設定で、従業員同士のユーモアあふれるやり取りに、加え、一癖ある常連客とのやり取りはもちろん、幼馴染2人との食事会でのトークは、絶妙にファミレスで隣の席から聞こえてきそうなリアリティに溢れている。

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『ホットスポット』第1話より (C)日本テレビ

しかも、今回は「言った、言わない」でもめるところから始まるから、その会話のセンスにも磨きがかかる。高橋は、自分が宇宙人であることを言わないでと清美に念を押したが、彼女は誘惑に負けてしまう。しかし、清美は言っていないと頑なに誤魔化そうとしてへんなことを口走る。幼馴染2人と高橋を引き合わせるシーンでは、なぜ彼らが一緒にいるのか、その時点でかなり気まずい空気が流れるが、それをかいくぐって宇宙人としての能力を披露させようと、口八丁をかましていく。

そういうやりとりを見ているうちに、「こういう人、周りにいるなあ」と思わせるのが、バカリズムの脚本の巧みなところだ。宇宙人という突飛な設定から、日常に生きる人間の可笑しさがあぶり出されてきて、思わず笑わされてしまう。そんなシーンの連続なのだ。

そんな独特の脚本を体現するのは、バカリズム作品の常連俳優が多い。夏帆、坂井真紀、平岩紙に角田晃広、ココリコの田中直樹などはこれまでのバカリズム脚本のドラマに出演してきた役者たちだ。一方で、主演の市川実日子は初めてのバカリズム作品への出演となるが、彼女の自然体はすでに独特のユーモアとテンポ感のある会話劇への適応がなされているかのようで、見事に世界観に溶け込んでいる。

SFなのにスケール感はまるでない。だが、不思議と目が離せない。人間の日常に潜む可笑しさをこれでもかと見せてくれる怪作になりそうな予感のする第一話だった。

日本テレビ系 『ホットスポット』毎週日曜よる10時30分



ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi