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『踊る大捜査線』シリーズは、なぜ“今”映画化されるのか?公式サイトに掲載された“室井の履歴書”→意図を考察

  • 2024.10.4

10月11日劇場公開の『室井慎次 敗れざる者』にあわせて、フジテレビ系列にてシリーズ一挙放映中の『踊る大捜査線』。10月5日には、シリーズのなかで2本目の映画となる『踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が放送される。猟奇的連続殺人事件を軸に、婦女暴行、スリなど複数の事件を並行して描きながら、警察組織の上下関係とそこで働く人間を描いていく物語だ。

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 (C)SANKEI

複数の事件を通して、警察の上下関係を描いていく

『踊る大捜査線』シリーズは、1997年放送の連続ドラマから一貫して、本店と呼ばれる警視庁、支店と呼ばれる各地の警察署、国家公務員試験に合格し、幹部候補のキャリア、地方公務員として各都道府県警察の採用試験に合格し、現場の捜査員として働くノンキャリアなど、警察組織の上下を描いてきた。

警視庁の幹部候補と各警察署で働く現場の警察官の認識の違いや軋轢、業務の違いなどが細かく描写することで、事件の解決を目指すサスペンス要素だけではなく、どの企業でもおこりうる人間関係によるドラマが表現されている。これこそが本作を唯一無二の警察ドラマにしたといえるだろう。

『踊る大捜査線THE MOVIE 2』では、3つの事件の犯人逮捕までの過程を描きながら、上下関係があることによる捜査のしにくさ、理不尽さが描かれている。主人公・青島俊作(織田裕二)や恩田すみれ(深津絵里)は、湾岸署内で発生した婦女暴行、スリの事件の被疑者を追っているにも関わらず、本部が仕切る猟奇的連続殺人事件の捜査が優先され、思うように動けず葛藤する。事件の容疑者や被疑者の事情よりも、警察組織の中でもがく一人ひとりの登場人物の心情に重点が置かれているのだ。

特に本作は、警察の組織形態と殺人事件の犯人チームの組織形態が対比するように描かれている。厳しい上下関係の元、思うように動けない現場の捜査員、事件解決より規則を守ることを優先して、臨機応変に対応できないキャリア組の警察官が、どのように事件を解決していくのかにぜひ注目してほしい。見ているだけなのに、言いようもない達成感と爽快感が味わえるはずだ。

ユーモア溢れるシーンとセリフのバランス

『踊る大捜査線』シリーズの魅力は、警察組織を描くストーリーだけではなく、それを際立たせる緩急の効いたコメディシーンにもある。

湾岸署署長、副署長、刑事課長の通称“スリーアミーゴス”の緊張感のないとぼけた言動、本作では犯人との交渉を担当するネゴシエーターとして活躍する真下正義(ユースケ・サンタマリア)のヘタレ感あふれる柏木雪乃(水野美紀)との恋模様など、ファンにはたまらないキャラクターが立ったコメディシーンが多く見られる。こういったシーンが、随所に挟まることで緊張感を和らげることができ、より気軽に楽しく見続けられるようになっているのだ。

特徴的なのが、これまでのシリーズを知っていなくても笑えるようなコメディシーンになっていること。少しのセリフでキャラクターの特徴がわかるようになっており、これまでの作品を見ていなくても、どんな人物なのかが理解できるようになっている。なおかつ、笑ってほしいところではゆるさのある音楽がかかっていたり、音楽が止まったりと、笑いやすくなる演出が施されている。

『踊る大捜査線』シリーズは、一人ひとりのキャラクターが個性的で、それぞれにおかしみがある。サスペンスでありながらコメディとしても面白いという絶妙なバランスを体感してほしい。

なぜ今、再び映画をやるのか?

連続ドラマ放送から27年、新作の映画は、主人公・青島とは別の立場で活躍した管理官・室井慎次(柳葉敏郎)が主役となる物語だ。上の立場から警察組織の改革を目指していた室井だったが、それを叶えることができずに退職。現在は地元秋田に暮らし、犯罪被害者の子ども達と生活をしている。公式ホームページには、室井の履歴書が掲載されている。これは、彼が警察人生をどう終えたのかを表現するものとして最適なものであるといえるだろう。

青島との約束を大切にしていた室井にとって、警察庁退職後は夢破れた後の生活と言っても過言ではない。その夢が破れたあとの室井がどのように生き、何を考えているのかは、シリーズファンにとって気になるところだ。だからこそ今、映画化するという意気込みが感じられる。“敗れざる者”というタイトルを踏まえて、青島との約束が叶わずとも室井が自分の使命を全うして生きる姿が描かれることを、期待したい。

『踊る大捜査線THE MOVIE 2』を見るだけでも、『踊る大捜査線』シリーズの魅力を十分に楽しむことができる。面白いと感じたら、ぜひ過去の踊るシリーズも楽しんでほしい。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202