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5歳の天才子役のために脚本が変更された『衝撃の名作』 14年後の今振り返る“少女の必然性”

  • 2024.10.15

2010年、「母性」をテーマにしたドラマ『Mother』が放送された。松雪泰子が主演、尾野真千子や綾野剛らが共演し、当時5歳だった芦田愛菜が天才子役ぶりを発揮して大注目されたことで話題を呼んだ作品だ。

第1話から壮絶な虐待シーンが描かれ、衝撃を受けたことを覚えている。今年、芦田は20歳になったが、『Mother』で初めて見た彼女が、5歳当時から如何にすごい演技を披露していたかということを含め、今、改めて本作を振り返ってみたい。

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(C)SANKEI

海外でもリメイクされた名作ドラマ

人気脚本家の坂元裕二が手掛けた『Mother』は、多くの視聴者の心を掴み、海を越えてトルコや韓国でもリメイクされ、ヒットを記録した。各国の天才子役が、芦田を目指すかのように名演技を見せている。筆者はトルコ版・韓国版とも視聴したが、どちらでも子役に泣かされてしまった。でも、やはり本家の芦田から受けた衝撃と感動は、ずっと忘れることができない。

芦田が演じる道木怜南は、母親の仁美(尾野真千子)からネグレクトや虐待を受けており、体に痣や傷があることを教師の鈴原奈緒(松雪泰子)が見つける。仁美の恋人・浦上真人(綾野剛)は彼女の家に入り浸っていたが、仁美の留守中に怜南を性的対象として見ているかのような行動をする。そこへ帰宅した仁美は逆上し、何も悪くない怜南を叩いた後、ゴミ袋に入れ、ゴミ捨て場に放置。ここまで鬼畜な母親の虐待を見たことがなく、大きなショックを受けた。

ゴミ袋に入れられた怜南を発見して助け出した奈緒は、怜南から同意を得た上で彼女を“誘拐”し、2人の逃避行が始まる。ここに至るまでに、怜南はずっと辛くて怖い思いをし続けてきたため、小学1年生だが「赤ちゃんポストに入りたい」と切望するほど思い詰めていた。奈緒は、そんな怜南の境遇を知ったため、彼女を救いたいと思うようになり、怜南を“誘拐”したのだ。

母と娘の関係を描くストーリーに共感

「あなたは捨てられたんじゃない。あなたが捨てるの」と、奈緒が怜南に言うセリフが印象的だ。実は、奈緒も5歳の時に母親に捨てられ、7歳になるまで児童養護施設で育った過去を持つ。裕福な家庭に引き取られた奈緒だったが、自分が捨てられたという事実は忘れられないでいた。怜南に対して母性が芽生えた奈緒は、怜南に「継美」と名乗るように言い、疑似親子として生活しようとするが、逃亡の身であるため、いくつもの壁にぶつかる。

そんな中、奈緒は実母の葉菜(田中裕子)と再会。自分を捨てた葉菜を許すことはできないが、捨て身で奈緒と怜南(=継美)を守ろうとする姿に心が揺れていく。本作は、葉菜の母性や、奈緒を引き取って義母となった籐子(高畑淳子)の母性も同時に描かれ、母と娘の関係が重要な要素となっている。この辺りも、共感するところが非常に多いドラマだ。

仁美のことを「ママ」と呼び、奈緒のことを「お母さん」と呼ぶ怜南は、「継美」として奈緒を慕って懐くも、本当はママのことが大好きなので、虐待され続けたことに傷ついているが、ママに優しくされたい、愛されたいと強く願っている。だが、自分を助け出してくれた奈緒に感謝しているし、「お母さん」と一緒にいたいと思っている。そういった複雑な感情を、弱冠5歳の芦田は絶妙に表現し、視聴者の心を捉えて離さなかった。

芦田愛菜をキャスティングするために変更された脚本

怜南役のオーディションの規定年齢は7歳で、芦田には応募資格がなかったが、当時の所属事務所が駄目元でオーディションに参加させたところ、彼女があまりにも素晴らしかったため、どうしても芦田をキャスティングしたいという事態に。怜南はネグレクトによる栄養失調で、一般的な小学1年生の体格よりも小さいという設定に脚本を変えるほど、芦田はこのドラマに必要な逸材だった。結果、『Mother』は芦田の名演技があってこその名作となり、大ヒットドラマとなったのだ。

その後、芦田は2011年のドラマ『マルモのおきて』でも大人気となり、2013年の映画『パシフィック・リム』では菊地凛子の幼少期を演じてハリウッドに進出。「愛菜ちゃん」ではなく、「芦田さん」と呼びたくなる演技派俳優へと成長していった。

後に朝ドラで人気になったカップル

『Mother』は、心に傷を抱える奈緒を演じた松雪泰子や、奈緒に壮絶な過去を明かすことができず、娘を手放さざるを得なかった葉菜に扮した田中裕子らの名演にも心を奪われる。同時に、悪役と言うべき毒母・仁美役の尾野真千子と、救いようのない男・真人役の綾野剛の演技にも注目したい。

尾野は、2011年のNHK連続テレビ小説『カーネーション』に主演し、高い演技力が話題を呼んだ。綾野は、その『カーネーション』で、尾野が演じるヒロイン・糸子と切ない不倫関係になる周防を演じ、人気俳優となった。尾野と綾野が『カーネーション』の前に『Mother』で共演し、“鬼畜カップル”を怪演していることも、本作の見どころの1つだ。

14年経った今『Mother』を観て感じること

2010年当時、芦田愛菜の天才子役ぶりに惹きつけられ、『Mother』を観ていた人が、14年経った現在、もしかしたら母親となり、奈緒の母性に共感するかもしれない。筆者が本作を改めて観て感じたのは、「母性にもさまざまな形がある」ということだった。そして、やっぱり「芦田愛菜は5歳から既にすごすぎる…!」と思わずにはいられない。

当時と今では、見方や感じ方が変わるかもしれない『Mother』は、改めて視聴することを、ぜひお勧めしたいドラマだ。



日本テレビ『Mother』

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP