今ふり返るとスゴイ、人気脚本家の過去作品 “連載中のマンガ”をドラマとして成り立たせる確かな実力

2024.11.28

2014年から始まったTBS火曜22時といえば、恋愛ドラマを想起する人が多いだろう。実はその流れは2016年頃からで、『ダメな私に恋してください』から徐々にその色が強くなっていったという。2016年に同枠で放送されたドラマは、お仕事ドラマから恋愛ドラマへの移行期ということができる。そんななか、熱いお仕事ドラマを届けたのが、『重版出来！』。精一杯仕事に取り組むかっこいい大人たちがさまざまな角度から描かれ、見ていると自然と心が熱くなる。

週刊漫画雑誌の編集部、新人漫画編集者のドラマ

『重版出来！』は、松田奈緒子の同名漫画が原作。オリンピックの女子柔道強化選手だった黒沢心（黒木華）は、怪我をきっかけに選手生命を絶たれ、就職を決意。漫画に支えられた経験から、大手出版社・興都館の門を叩く。素直で真っ直ぐな性格で、何かあると首を突っ込み、突っ走ってしまう心が、漫画編集として成長していく物語だ。

特筆したいのは、心が失敗し続けたり、誰かに気づきを与え続けたりする物語ではないということ。心はもちろん失敗するが、それは新人が故の知識のなさや配慮のなさによるもの。個性豊かな漫画家たちに振り回されたり、口を出しすぎたりして失敗し、心は編集者としての心得を体当たりで学んでいく。また、新人特有の無邪気さが、他の編集者たちに影響を与えることもあるが、それがすべてではない。心が介在しようと変わらないこともある。心以外の個性溢れる編集者たちが何を感じ、どのように仕事をしているのか、そこにどんな流儀があるのかが描かれている。

例えば、営業部で働く小泉純（坂口健太郎）は、希望した部署に配属されなかったことで、ユーレイのように働く覇気のない社員だった。心と共に行動し、漫画家や漫画編集者の想いに触れたことで、自分の力で本を売る楽しさとやりがいに気づいていく。一方で、心の先輩である安井昇（安田顕）は、過去には仕事に熱心に取り組む社員であったが、雑誌の廃刊経験と漫画家との信頼関係の破綻、家庭環境の悪化を経験し、売上を守るための冷徹な編集スタイルに切り替える。漫画家に罵倒されようと、心の熱血さに触れようと、そのスタイルは変わらない。

自分の仕事に対するやりがいに気付き、成長する人、挫折を経験し、乗り越えた人、割り切ってあえて変わらない人がそれぞれが各話のメインキャラクターとなることで、どの立場から見ても響くお仕事ドラマになっている。漫画を書く人、サポートする編集者、漫画を売る営業、漫画家の家族など、それぞれがコトに向き合う熱さを見ていると、自分も明日の仕事を頑張ろうという気持ちになるのだ。

原作に忠実な脚本と、後の名作を生み出す監督陣の演出力

『重版出来！』の脚本を担当したのは、野木亜紀子。原作に忠実なストーリーながら1話1話にしっかりとしたテーマと見応えがあり、それでいて心が新人作家をサポートし二人三脚で成長していく過程など、複数話を通した物語も展開される。単独執筆作品としては、野木にとってはじめての漫画原作ドラマであるが、連載中の漫画をドラマとして成り立たせる技量の高さが感じられる。2016年の東京ドラマアウォードでは脚本賞を受賞。この作品で名実ともに原作ものの名手と呼ばれるようになった。

また、『重版出来！』の演出は、土井裕泰、福田亮介、塚原あゆ子の3名が担当している。野木と土井のタッグは、『空飛ぶ広報室』に続き、『重版出来！』が2作目で、後に『逃げるは恥だが役に立つ』と映画『罪の声』に繋がっていく。福田は、後に『恋は続くよどこまでも』や『Eye Love You』などを手がけ、現在放送中の野木が脚本を担当する『海に眠るダイヤモンド』でも、塚原と共に演出に名を連ねている。塚原は、野木と共に『アンナチュラル』『MIU404』、映画『ラストマイル』などを制作。『重版出来！』は、言うなれば後の名作の要素が詰め込まれたドラマということができる。ストーリーだけでなく、それぞれの人物の感情をより深く伝えるための演出の良さも感じられる作品だ。

脚本家と演出の繋がりには時代がある。好きな作品の脚本家や演出の過去の作品を遡ってみると、好みの作品への出会いがあるかもしれない。野木×土井、野木×塚原の作品が好きな方は、仕事への熱い思いを受け取れる『重版出来！』をぜひ。

ライター：古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X（旧Twitter）：@k_ar0202

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