1. トップ
  2. ドラマ好きも唸る、“すばらしい脚本力” 改めて見返したい“11年前の名作”と期待高まる最強タッグの新作

ドラマ好きも唸る、“すばらしい脚本力” 改めて見返したい“11年前の名作”と期待高まる最強タッグの新作

  • 2024.11.19

脚本家と監督、脚本家と俳優のつながりを遡っていくのは、ドラマ好きにとって醍醐味だろう。今回は、現在放送中の『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)を手がける、脚本家の野木亜紀子がTBSで最初に書いた11年前の名作お仕事ドラマ『空飛ぶ広報室』を振り返ってみたい。

『空飛ぶ広報室』の主演は新垣結衣、相手役に綾野剛。後に『重版出来』や『逃げるは恥だが役に立つ』、映画『罪の声』を野木と手がけることになる土井裕泰が演出とプロデューサーを務めている。

undefined
(C)SANKEI

航空自衛隊の広報室を舞台にしたお仕事ラブコメ

『空飛ぶ広報室』の原作は、有川浩の同名小説。テレビ局に務める情報番組のディレクター・稲葉リカ(新垣結衣)を主人公に、航空自衛隊の広報室である“空幕広報室”に務める空井大祐(綾野剛)などの空幕広報室メンバーの仕事模様が描かれる。

設定だけ聞くと、少し難しそうな印象を受けるかもしれないが、そこに描かれているのは不変的な仕事に対する悩みとそれを乗り越えていく爽快感だ。リカは勝ち気な性格故に、取材対象者を傷つけてしまい、強い意欲を向けていた報道班を外され、不本意な気持ちを抱えながら情報番組のディレクターを務めている。空井は、幼い頃からの夢であるブルーインパルスのパイロットに内定していたにもかかわらず、不慮の事故でパイロットの資格を失い、失意のまま空幕広報室に異動。それぞれ挫折を経験したうえで、互いに影響しあいながら、今いる場所でできること、仕事の楽しみを見出し、後に2人は恋愛面でも惹かれていく。

リカや空井以外にも、航空自衛隊で働く女性ならではの悩み、ライバル心と昇進が絡んだ隊員同士の葛藤、災害が起きても家族を顧みず、かけつけざるを得ない隊員の現実など、さまざまな立場の仕事に対する意識、やりがいが描かれている。誰にでも共感できる内容を描きつつ、自衛隊という特殊な職業について学ぶこともできるドラマだ。

物語を通して、リカと空井の恋愛は少しずつ進んでいくが、各話のメインとなるのは仕事に対する悩みや葛藤。人生の大半を占める仕事をどう捉え、理想と現実に向き合っていくかをメインに据え、それを通して自然と展開していく恋愛模様が描かれている。仕事と恋愛描写のバランスの良さが魅力なのだ。

初単独執筆ドラマとは思えない野木の確かな脚本力

実は『空飛ぶ広報室』以前、野木はサブライターとしてドラマ制作に関わっており、本作は野木にとって初めての単独執筆作品だ。『空飛ぶ広報室』の脚本からは、そんなことを微塵も感じさせない確かな脚本力が感じられる。

というのも原作の『空飛ぶ広報室』は6編からなる小説で、主人公は空井大祐だ。小説は、新人広報官の空井を中心とした空幕広報室メンバーの成長譚になっており、リカのドラマは詳細に描写されているわけではない。

野木は、小説で描かれている物語の軸を守りながら、リカを主人公に据えてテレビ局ディレクターとしての気づきと成長を、オリジナルエピソードを交えながら描いていった。特に、情報番組に否定的な目線を向けやる気のなかったリカが、自分の未熟さを突きつけられて反省する第2話の展開は全くのオリジナル。リカにとって大きな転機となる気づきを入れたことによって、リカの人間性と成長に深みが出ている。リカと空井の成長を同時に描きつつ、それぞれの視点で空幕広報室のメンバーを見つめることで、さらに厚みのある物語になっているのだ。

原作のエピソードを繋ぎつつ、説得力の増すオリジナルシーンを入れ、登場人物の人間性を自然に膨らませる脚色力からは、人気作の萌芽を感じてしまう。ちなみに野木と土井監督は、1月2日放送の新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』で、5回目のタッグを組む予定。『スロウトレイン』を楽しむ前の準備として、『空飛ぶ広報室』をぜひ。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202