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「しんどい」目黒蓮”夏”の行動にわく“疑問”と“危うさ”『海のはじまり』SNSからあふれる複雑な声

  • 2024.9.11

第9話において、主人公・月岡夏(目黒蓮)の恋人である百瀬弥生(有村架純)が、夏と別れる選択をした展開にSNS上が揺れた。それは、夏が引き取ろうとしている一人娘・南雲海(泉谷星奈)の「母親にならない」と決めたことと同義である。それを受け、9月9日に放送された第10話では、着々とシングルファザーになる準備を進める夏の姿が。SNS上では「しんどい」「背負い込もうとしすぎ」などの声が挙がっている。

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(C)SANKEI

育児を背負い込もうとする夏

海を引き取り、シングルファザーとして親子二人で生きていくことを、静かに決意した夏。シングルママ・パパに向けた支援制度について調べたり、育児に関する書籍を買ったりなど、真面目な夏らしい準備をする描写が微笑ましい。

それと同時に、なんでも自分一人で背負い込もうとし、責任を取ろうとする姿勢に、一抹の危うさと疑問がわく。なぜ夏は、別れた恋人である弥生や、月岡家、南雲家の人々の助けを積極的に借りようとしないのだろうか。

そこには否応なしに、なんでも自分で決断し、選び取ってきたかつての亡き恋人・南雲水季(古川琴音)の存在が浮かび上がってくる。

彼女は、海を妊娠したことが発覚したときも、一度は産むのをやめようとした。しかし、途中で翻意し、産むことを決めた。なるべく周囲の助けを借りず、一人で海を育てようとがんばったのも水季の意向。その結果、婦人科の定期検診に行けず、進みゆく体調不良に気づかず、命を閉じることとなってしまった。そのギリギリまで、彼女らしく生き抜くことを決めたのも、水季らしい決断と言える。

そんな元恋人の苦しみを、悩みを、日々の奮闘を、夏は何ひとつ知らない。何も知らされぬまま別れを告げられ、気づいたら水季はいなくなっており、後には娘の海が残った。夏にとってはまさに青天の霹靂で、安寧に包まれた何気ない日常がこの先も続くかと思っていたのに、まるで雷に貫かれたかのように生活が根本から覆されてしまった。

夏は、知らずにいたことの責任を、たった一人で育児を遂行することにより、果たそうとしているのではないか。知らなかったことの責任は、これから知っていくことでしか取れない。まだまだ小さかったころの海は知らないけれど、今後大きくなっていく海を知ることはできる。いま、生きている彼ができる最大限の方法で、亡き恋人のために償おうとする心理が、無意識に働いているのではないだろうか

そんな夏の姿に、SNS上では複雑な心境を吐露するような感想が目立っている。元はと言えば、産んで育てることを決めた事実を、ひた隠しにしていた水季の行動が、いまの夏に降りかかっているとも解釈できるのだ。南雲家の人々はもちろん、かつて水季とともに働いていた津野晴明(池松壮亮)の言動も、見方によっては少々厳しすぎるようにも思える。

シングルファザーになる選択は、どこに行き着くか

本編でも繰り返し言及されているように、一人で育児をすることは、そんなに生半可なことではない。働き、家計を維持しながら、名前のつかない雑多な家事を含めた「生活」と「育児」を両立させていくこと。二人で協力しながら進めることもままならないことを、慣れない人間がいきなり一手に引き受けようとしているのだ。

夏がシングルファザーとして生きていくこと。なるべく他者の手を借りずに、親子二人で暮らしていくと決めること。その決断は何を意味し、どこに行き着くのか。

仮に今後、夏と海の二人暮らしが頓挫することなく、順調に進んでいったとしても、それが明るい未来に繋がるとは限らない。ひとり親家庭が何不自由なく、具体的な援助はなくても工夫次第でじゅうぶんやっていける、とこのドラマをとおして示されることは、現実を生きるひとり親家庭にとって希望として映る確率は少ない。

なぜなら、そんな姿を見ても、苦しくなるだけだからだ

実際の暮らしは厳しいにも関わらず、理想と現実のギャップを突きつけられ、生きづらいのは自分のせいだ、とすべて「自己責任論」に集約される。自ら制度や支援について調べ、周囲の助けを賢く借りることができない至らなさを突きつけられるだけ。できることなら、どうやって「つらい」「助けてほしい」と言えるようになるのか、どうしたら苦しいものが楽になるのか、この物語には、そのヒントを示してほしい。

夏がなんでも一人で背負い込もうとする心の動きは、どうしたって危うく映る。子どもの立場にたち、子どもの目線で物事を考えられる夏だからこその、肩の力を抜ける育児との向き合い方を提示してほしい。



フジテレビ系 月9ドラマ『海のはじまり』毎週月曜よる9時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_