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「観るスポーツとしてはまだまだ」…神野大地が実感じたプロ野球と陸上界の“差”とは

  • 2024.8.20
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2023年12月に発足したM&Aベストパートナーズ(以下、MABP)陸上部。プロランナーの神野大地選手がプレイングマネージャーとしてチームを率います。ファンに愛されるチームをつくるための施策や監督としての指導方針について聞きました。

野球とサッカーの背中を追いかける

ーー前回のインタビューで「陸上界を変えたい」「もっとファンを増やしたい」というお話がありました。陸上界の課題を解決する上で参考にしたい他のスポーツ、業界はありますか? 

神野 プロ野球とJリーグですね。陸上競技も決して人気がない訳ではないと思うんです。市民ランナーも増えていますし、全国各地で新しいマラソン大会が開かれています。

でも、Doスポーツとしては盛り上がりを見せているけど、観るスポーツとしてはまだまだです。お金が回る世界にできているかと言われると、陸上はちょっと遅れているかなと。一人の陸上選手として、野球とサッカーの背中を追いかけたいという気持ちは持っています。

ーーどのようなところを参考にしたいですか?

神野 僕はヤクルトファンなのですが、ヤクルトの球団マスコット・つば九郎は「空中くるりんぱ」という恒例のパフォーマンスを披露してくれるんです。ヘルメットを空中にくるくると投げて、頭にきれいにかぶせたら成功というものなんですけど。

これはあくまで一例なのですが、野球のプレー以外にファンが楽しめる施策を各球団が工夫して実施しています。

また、試合後のヒーローインタビューでは、選手は必ず最後にファンに向けたメッセージを伝えます。「また勝てるように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします」というように。ファン感謝祭も年に一度、必ず行われています。 

これだけ盛り上がっているプロ野球がファンとのコミュニケーションを大切にしているのに、陸上界は全然やっていないですよ。まずはそういうところからやっていきたいなと考えています。

ーーMABP陸上部としては、具体的にどんな施策をしていくのでしょうか?

神野 ファンの方と交流する機会を定期的につくっていきます。たとえば、2ヶ月に1回くらい、皇居の周りを一緒に走るイベントを開催するとか。選手とコミュニケーションをとる機会があれば「次の大会で〇〇選手の応援に行こう!」と思っていただけるかもしれません。

試合後には、一緒に写真を撮ったり、サインを書かせてもらったり。できるかぎりのファンサービスをやっていきたいです。

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写真:SANKEI

陸上界の「異端者」

ーー神野選手は大学時代に箱根駅伝で「3代目山の神」として活躍されました。箱根駅伝ファンはたくさんいると思うのですが、なぜ実業団にはファンが少ないのでしょうか?

神野 そこなんですよ。箱根駅伝に出場するような大学には個人の選手に対してたくさんのファンがいます。なのに、実業団になるとファンがいなくなってしまう。

 その原因の一つが、情報不足だと思います。実業団の選手たちの多くは、今どんな目標に向けて取り組んでいて、次はどの試合に出場するのか情報を発信していません。自分が推す側だとしたら、これでは応援しにくいだろうなと思うんです。大学で好きだった選手が社会人になると、全然動向が見えなくなるんですから。

応援したいのに、応援できない。そんなもったいないことが起きないように、僕たちはガンガン情報発信していきます。すでにX(旧Twitter)、Instagram、YouTubeのアカウントをつくっています。

 ーーSNSで積極的に情報発信していくのですね。

神野 応援待ちではダメなんです。応援していただけるようなチームを自分たちからつくっていかなければ。そのためにできることはなんでもやっていくつもりです。 

その一つがチームの愛称です。実は今回、MABP陸上部のチーム名を決めました。これから僕たちは「MABPマーヴェリック」として活動していきます。 

ーーマーヴェリック?

神野 マーヴェリックは英語で「異端者」という意味です。 

僕は大学卒業後、実業団で2年間活動し、2018年からプロランナーになりました。そして今回、選手兼監督として、新しい陸上部を立ち上げました。普通の競技者とは違う陸上人生を歩んできたと思っています。

また、MABP陸上部をかつてない新しいチームにしたいと考えています。そのような想いを「マーヴェリック」に込めました。

今回チーム名を決めるにあたって、いくつか候補を発表した上でSNSでアンケートを行いました。応援してくれるみなさんの意見を聞きたいなと。投票結果をもとにGMの髙木や会社側とも話し合い、最終的に「MABPマーヴェリック」に決めました。 

ーーそもそもチーム名を決めたのはなぜですか?

神野 応援してもらうためには名前が大切だと思ったんです。

プロ野球も陸上の実業団と同じく企業がチームを持っていますが、チーム名は「東京ヤクルトスワローズ」とか「読売ジャイアンツ」じゃないですか。「スワローズ」や「ジャイアンツ」といった親しみやすいチーム名であることが少なからずプロ野球の人気につながっていると思うんです。

 これがもしも「ヤクルト野球部vs読売新聞野球部」だったらどうでしょうか。これほど多くのファンが球場に行って応援したいとは思えないのではないかと。企業の関係者以外からも広く応援されるためには、呼びやすく親しみやすい愛称が必要だと考え、チーム名を決めることにしました。

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YouTubeより

M&Aベストパートナーズ陸上部

結果を出せば報われる

ーーMABPヘの加入を検討している選手に向けて、アピールポイントを教えてください。 

神野 アスリートとして強くなるための環境はしっかりと整えていきます。現在建設を進めているクラブハウスは売りになるのではないかと。

ーークラブハウスとは? 

神野 選手たちが食事をとったり、トレーニングをしたり、水風呂・サウナに入ったりできる場所です。練習拠点と同じ東京・世田谷に建設予定です。ちなみに現在、東京都心にクラブハウスを持っている男子の実業団チームはありません。

ーー都心にクラブハウスを持つ唯一のチームになるのですね。その他に、売りはありますか?

神野 結果を出した人が報われる報酬システムです。

駅伝や個人の競技成績に応じて得られるインセンティブの割合が高い報酬体系にしています。ベースの給与は他企業と同程度かもしれませんが、競技で結果を残した場合の上がり幅はどのチームにも負けないのではないかと。

ーー神野選手が監督として指導するのも選手たちにとっては嬉しいポイントだと思います。どのような指導方針なのでしょうか。

神野 選手として経験してきたことは全て伝えていきたいと思っています。僕が1から10まで「これをやろう」と言うのではなく、一緒に最善策を探していくような指導ができればいいかなと。

というのも、学生時代にトップレベルで戦ってきた選手たちは練習法などに対して自分の考えをしっかり持っていると思うんです。なので僕は、選手たちが後悔しない陸上人生を歩める環境づくりをしていきたいです。


取材・文
岡村幸治

1994年生まれ。スポーツ新聞社で野球記者として巨人や高校野球などを取材。2021年に独立し、アスリートや経営者などにインタビューを行っている。海外旅行が好きで、2023年には世界一周の旅に出た。