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橋本環奈だからこそ演じられる朝ドラのヒロイン像 “複雑な表情”ひとつで垣間見えた、描かれていない背景

  • 2024.10.10

9月30日から放送が開始した朝ドラ『おむすび』。糸島の自然豊かな街並みとともに、この物語のキーとなる食、ギャルといった要素を感じることができる第1週目だった。作品の自己紹介的な立ち位置をとりながらも、主人公・米田結(橋本環奈)の心にある震災による傷と、それにより形成された価値観も垣間見えた。

結と阪神淡路大震災

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『おむすび』第1週(C)NHK

2004年、高校1年生になった結は高校生活に対して、消極的な態度を見せていた。部活をせずに家の農作業の手伝いをすると、これまでとは変わらない生活を望み、憧れの先輩・風見(松本怜生)に惹かれて、書道部に入部したものの書道展の良さがよく分からず、乗り切れない。伝説のギャルだった結の姉・歩(仲里依紗)の影響で、博多ギャル連合にスカウトされたときも、ルーリー(みりちゃむ)が歩から助けてもらった過去を聞いたときのリアクションも「しょーもな」だ。

「平穏無事に過ごせればいい」という結を冷めている人間だというのは簡単だが、その考えがあるのは、平穏無事な日々が脅かされた経験があるからではないだろうか。人とのつながりも思い出の品も、自然災害くれば無くなってしまう、幸せな感情が脅かされるという恐怖。だからこそ結は関わりを持ったり、物を残したり、何かに大きく心を動かしたりということを必要以上に避けているのかもしれない。

結の父・聖人(北村有起哉)が神戸に帰りたいと言っていたように、米田家は糸島に来る前に神戸に住んでいたことがわかる。結の年齢を踏まえれば、彼女は6歳のときに阪神淡路大震災で被災していると予想できる。小学校入学を目前に、希望に満ちた日々を送っていたであろう結にとって、どれだけショックなことだったかは想像に難くない。

普通に過ごしているように見えても、心の奥底に傷が残り、どうせ何かに熱中しても思い出を残しても仕方がないという価値観があることを察することができた第1週目。そんな諦めも感じる冷めた価値観を抱えて生きている結は、ひょんなことからギャルたちと友達になる。ネイルやアクセサリーなどのギャルっぽいファッションアイテム、一日一日の思い出を切り取るプリクラ。今この瞬間に価値あるものと結がどう向き合っていくのかに、彼女の心の成長や変化が描かれそうだ。

葛藤とお人よし…彼女の特性を示す橋本環奈の演技力

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『おむすび』第1週(C)NHK

結が見せるさまざまな反応から、熱中することを怖がっていることが垣間見えた第1週目。印象的だったのは、結と同じクラスのギャル・リサポンから、「毎日平和に過ごせればいいって、本当にそう思っとう?」と聞かれたときの反応だ。結は、少し動揺しながら、怒りにも悲しみにも見える表情を浮かべていた。その表情からは、結がその考えに至った理由を説明したところで、わかってもらえるはずがないという諦めが感じられる。

神戸で震災を経験し、怖い思いをしたあとに遠く離れた福岡県糸島で学生生活を送った結。遠く離れた土地には、地震の恐ろしさを真に理解してくれる人はおらず、話したところで仕方がないと感じる経験を過去にしたのかもしれない。橋本環奈が見せた複雑な表情は、結が経験した怖さや寂しさ、諦めなど、震災が生んだマイナスな感情がないまぜになっており、描かれていない結の過去まで想像させるものだった。

一方で、結は困っている人を放っておけないお人よしな一面も持っている。帽子を落として泣いている子供のために海へ飛び込んだり、大荷物を抱えた友人を助けたり、栄養失調で倒れたギャルを助けたりしてしまう自身の行動を、米田家の呪いだなんて自虐する結。しかし、困っている人を前にすると考えるより先に身体が動いてしまうのは、間違いなく結の長所だ。パッと動いて恩着せがましくならずに助けるという身のこなしの爽やかさも、橋本環奈自身が持つ魅力とマッチしているように感じられる。

相手との間に一線を引いて冷めた態度を見せたり、諦めを見せたり、助けたあともあっけらかんとしている結の様子を見ていると、良い意味でも悪い意味でも相手と距離をとる平成時代の女子高生といった印象を受ける。そんな結がギャルと関わるなかで、自分を認め、愛し、周りを大切にできるようになった先に、栄養士への道があるのかもしれない。半年かけて結がどんな人間に成長するのかを見守りたい想いが強くなる第1週目だった。

NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202