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7年前から出演“熱望”するも断られ… 国民的女優が徹底してつくり上げた“風貌”で挑んだ念願の主演作

  • 2025.4.2

石原さとみが失踪した娘の母親の沙織役を熱演し、話題となった映画『ミッシンング』は、『空白』『ヒメアノ~ル』の吉田恵輔監督が、オリジナル脚本で撮りあげたヒューマンドラマだ。沙織里の夫・豊を青木崇高、記者・砂田を中村倫也、沙織里の弟・圭吾を森優作が演じている。

(C)SANKEI

娘がいなくなったその後を描く

沙織里の娘・美羽が突然いなくなり、3カ月が過ぎ、沙織里は世間の関心が薄れていくことに焦りを感じていた。夫の豊とは事件に対する温度差からケンカが絶えず、唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々を送っていた。そんな中、沙織里が娘の失踪時にアイドルのライブに行っていたことが知られ、ネット上で育児放棄だと誹謗中傷の標的に。

世間の好奇の目にさらされ続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じるようになっていく。一方、砂田は視聴率獲得を狙う局上層部の意向により、沙織里や彼女の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材を命じられてしまう。

石原さとみの熱演

石原は、7年以上前から吉田監督作品への出演を熱望していたが、作風に合わないことが理由で断られていた。念願叶って吉田作品の主演が決まり、その気合の入りようは作品を観れば一目瞭然。髪の毛をボディソープで洗って傷め、ガサガサな唇や素顔で元のイメージとはかけ離れた風貌になるための役づくりをして臨んだという。

石原は2022年に第1子を出産後、本作で1年9か月ぶりの芝居復帰となった。自身が母親ということもあって、自分の命に変えてでも、失踪した娘を取り戻したいという思いが滲み出た迫真の演技を見せている。生気が抜けたような表情に加えて、早口で捲し立てるような口調など、細かな立ち居振る舞いは説得力が高い。「美羽が保護された」という電話を受けて警察署に向かった結果、デマだったことがわかり、警察署で失禁し慟哭するシーンでは痛切さがひしひしと伝わってきて直視するのが辛いほどだ。

SNSでは「終始石原さとみさんの演技が本当に凄くて辛くて」「良い映画だったけど、何度も見れない…」「開始5秒できつい」「桁外れな演技力にめちゃくちゃ引き込まれて、画面から目を離せなかった」と、賞賛の声で溢れている。

マスコミのあり方

本作の大きな軸のひとつは、マスコミのあり方についてだ。SNSでは「過剰取材、そしてメディアへフェイクを指弾する風潮も深層のテーマだとも思う」「報道について改めて考えたし裏側と真実の温度差や摩擦はどんな物なのかと考えさせられた」という感想が見られた。

正義感が強い記者の砂田だが、次第に視聴率を重視するテレビ局の方針に引っ張られ、自分を見失っていく。チラシ配りをする沙織里に「悲しい表情をしてほしい」と指示するなど、やらせ映像を撮ってしまい、罪悪感に苛まれてしまう。「事実を報道すること」と「視聴者が見たい情報を報道するということ」は明らかに違うようで、実はその境界線は曖昧だ。

私たちが普段目にしているニュースに、情報操作がないと言い切れるだろうか?報道された内容の本質、事実を見抜けているだろうか?本作は、受け身になりがちな私たちに気づきを与えてくれる一作となっている。最後に「美羽のために」と、ある人が沙織里らに手を差し伸べるシーンがある。他人の不幸に人々が群がる社会でも、優しさの連鎖は存在するという希望を見せてくれるのだった。



映画『ミッシング』2024年上映

ライター:山田あゆみ
Web媒体を中心に映画コラム、インタビュー記事執筆やオフィシャルライターとして活動。X:@AyumiSand