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朝ドラ『ブギウギ』「六郎のことを思い出して…」心の髄まで音楽家な羽鳥(草彅剛)の荒療治……「大空の弟」は曲名だった

  • 2023.12.6
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六郎(黒崎煌代)が戦死した知らせを、梅吉(柳葉敏郎)もスズ子(趣里)も受け入れられない。梅吉は故郷に帰ると言い出し、スズ子は上手く歌えずにいた。楽団を取りまく状況も芳しくなく、世間は米英との戦争に「バンザイ!」の嵐。目の前が真っ暗になりそうなスズ子の“光”となったのは、やはり羽鳥(草彅剛)だった。

六郎の急死に揺れる心

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(C)NHK

訃報とは、こうも突然訪れるものなのか。まだツヤ(水川あさみ)の死が色濃く残っているのに、六郎が戦死した知らせが梅吉とスズ子に届く。梅吉はわかりやすく憔悴し、スズ子は身体が震えて上手く歌えない。歌おうとすると、どうしても六郎のことが浮かぶ。

スズ子はたった一人、出征前の六郎本人から、死に対する恐怖を聞いていた。飛び立つ前夜の六郎は、布団にくるまりながら、死ぬのが怖いと言った。家族と離れた地で、たった一人、痛みや怖さを抱えながら死んでいくことが怖いと打ち明けていた。

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(C)NHK

普段は穏やかで朗らかな弟、カメが大好きでしょっちゅう一緒にいた弟の口から、漏れ出る死の生々しさ。少しでも、その怖さを和らげてやろうとスズ子は六郎を鼓舞する。しかし、六郎がどんな思いで、どんな状況で死んでいったかも知らされず、手元にあるのは紙切れ一枚だけだ。

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(C)NHK

楽団を立ち上げたスズ子は、なんとかして歌う場を、演奏する機会を設けなければならない。彼女が助けを求めたのは、やはり羽鳥だった。なんと彼は「六郎のことを思い出して上手く歌えない」とこぼしたスズ子の話を元に、新曲『大空の弟』をつくった。

弟のことを思って歌えないなら、弟のことを思いながら歌える曲をつくればいい。なんとも羽鳥らしい荒療治だ。どんなことでも曲にする、どんなことでも音楽の種にする。心の髄まで音楽家である羽鳥にとって、精一杯の励ましであり、慰めなのだろう。

合同コンサート開催と、父との対話

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(C)NHK

新曲に加えて、羽鳥は茨田りつ子(菊地凛子)との合同コンサートを提案する。コンサートのタイトルや内容も、お国に寄せればお咎めもない。まだまだりつ子に対して及び腰なスズ子だが、トップ歌手の共演を世間は放ってはおかないだろう。

どこか居丈高な様子で、近寄りがたい印象のりつ子。しかし何度警察のお咎めを食らっても飄々とし、ときには強い調子で持論をぶつける様は、頼りがいがある。彼女自身も、言葉は辛辣だがスズ子のことを気にかけているようだ。歌手として、人としても、スズ子を同志と認めつつあるのかもしれない。

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(C)NHK

合同コンサートで新曲『大空の弟』を歌うスズ子は、きっと、自分の歌を取り戻すだろう。そして、相次ぐ家族の死によって距離が離れてしまった梅吉と、ちゃんと話すときがくる。家族として、父と娘として。

二人が話す場はやはり、あの屋台だ。彼らが話し合って出した結論は、きっとスズ子の、そして梅吉の人生を邪魔したりはしない。大空にもきっと、スズ子の歌は届いているはずである。

 

※記事内の情報は執筆時点の情報です



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_