【社会人ドラフト候補】度会だけではない、知っておきたい注目選手

今年の社会人ドラフト戦線を評すると、「寂しい」の一語に尽きる。本来であれば、社会人野球はアマチュア野球最高峰のカテゴリー。今年のセ・リーグで独走優勝した阪神など、伊藤将司、近本光司、中野拓夢、木浪聖也と主力選手の多くが社会人出身だった。

ハイレベルな戦いで揉まれた逸材は、プロの世界でも即戦力として活躍するケースが多い。だが、今年の社会人球界には残念ながら来年のプロ野球で新人王を狙えそうな即戦力候補が極端に少ないのだ。

とくに大卒2年目の注目株が軒並み状態を落とし、投手に至っては「指名当確」と言える存在がいない状況。潜在能力を見抜くプロスカウトの眼力が問われそうだ。

注目選手

度会隆輝（ENEOS）

右投左打 外野手
横浜高－ENEOS

社会人の目玉候補に挙がるのは、度会隆輝（ENEOS）である。昨夏の都市対抗で4本塁打の大暴れで橋戸賞（MVP）を受賞した打撃が最大の魅力。高卒3年目という若さも武器だ。ただし、度会のような右投げ左打ちの外野手はプロ球界では「供給過多」の状況にある。二遊間を守れる選手、右の強打者といった属性の需要が高いだけに、度会が1位で指名されるかは不透明だ。そうしたプロ側の事情は当然、度会自身も把握しており、現在は外野のほかに二塁、三塁の守備も習得中である。

指名が予想される球団：即戦力の野手が欲しい球団

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津田啓史（三菱重工East）

右投右打 内野手
横浜高－三菱重工East

「二遊間を守れる選手」という意味では、津田啓史（三菱重工East）の評価が高まる可能性がある。前出の度会とは横浜高時代のチームメートで、二遊間を組んでいた。高卒3年目という若さと高い遊撃守備を売りにする。身長181センチと大柄ながら軽やかな身のこなしが特徴的で、三遊間深い位置からのスローイングも光る。ただし、打撃面に大きな課題を残しており、プロ側に「鍛えればモノにできる」と思わせられるか。今年は高校生、大学生を含めても遊撃手のドラフト候補が乏しく、津田にとっては追い風が吹いている。

指名が予想される球団：二遊間が手薄な球団

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山内慧（JR東日本）

右投右打 外野手
美来工科－専修大－JR東日本

「右の強打者」なら山内慧（JR東日本）が面白い。名門社会人の4番打者として活躍しており、インパクトで強さを伝えられるスイングは目を引く。身体能力が高いアスリート型外野手でもあり、大卒2年目の選手ながら伸びしろを残している。即戦力というよりは、プロの水に慣れた1～2年後の開花を期待したくなる逸材だ。

指名が予想される球団：将来中軸を任せられる右の強打者が欲しい球団

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松本健吾（トヨタ自動車）

右投右打 投手
東海大菅生－亜細亜大－トヨタ自動車

前出の通り大卒2年目の投手は寂しい状況になっているものの、可能性を感じさせるのが松本健吾（トヨタ自動車）だ。昨秋の日本選手権ではパナソニックを1安打完封に抑え、鮮烈な印象を残した。だが、当時152キロを計測したストレートの威力が、今年はもうひとつ上がってきていない。とはいえ、カットボールやフォークなど変化球の精度も高く、投手としての総合力は十分ある。東海大菅生高、亜細亜大と厳しい環境で主力投手として活躍してきた胆力も買いたい。

指名が予想される球団：投手陣の層を厚くしたい球団

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嘉陽宗一郎（トヨタ自動車）

右投右打 投手
松山聖陵－亜細亜大－トヨタ自動車

年齢的に「ドラフト適齢期」を過ぎた社会人投手であっても、プロの扉が開くこともある。昨秋のドラフト会議では、大卒4年目の船迫大雅が巨人からドラフト5位で指名され、1年目から貴重なリリーフとして即戦力の働きを見せている。

その意味で「真の即戦力」と言えるのが嘉陽宗一郎（トヨタ自動車）だ。身長187センチ、体重87キロの体躯はマウンドで一際大きく見え、常時150キロ近い快速球はコントロールも抜群。カーブ、カットボール、チェンジアップとカウント球としても勝負球としても使える変化球を備え、もはやアマチュアレベルを超越している。今夏の都市対抗ではエースとして優勝に導き、橋戸賞を受賞している。

亜細亜大から入社6年目の嘉陽は、今年で28歳になる。近年のプロ球界では2020年に阿部翔太が28歳にしてオリックスから8位指名され、プロで大活躍している前例もある。だが、嘉陽は「プロはもう考えていません」「ミスター社会人を目指します」と、社会人に骨を埋める意思を表明している。

本人の意思が第一なのは当然ながら、嘉陽がプロで即戦力になれる実力者なのは間違いない。三顧の礼をもって嘉陽を迎えるプロ球団は現れるだろうか。

指名が予想される球団：「是が非でも嘉陽が欲しい！」という覚悟のある球団

独立リーグにも注目選手が

最後に独立リーグのドラフト候補についても触れておきたい。日本国内には北海道から宮崎まで独立リーグ球団があり、NPBからのドラフト指名を目指す原石たちがしのぎを削っている。大学野球や社会人野球からドロップアウトした選手も多く、野球界にとって貴重な受け皿になっている。

独立リーグ球団のなかで圧倒的に人材輩出実績があるのは、四国アイランドリーグplusに所属する徳島インディゴソックスだ。2013年から10年連続でドラフト指名（育成ドラフトを含む）され、NPBに人材を送り込んでいる。

そして、今年徳島からドラフト指名が有力視される筆頭株は、リリーフ右腕の椎葉剛。最速160キロ近い快速球を武器にし、ホップするような軌道で空振りを量産する。島原中央高を卒業後、社会人・ミキハウスで3年間プレーしたものの芽が出ず独立リーグへ。肉体改造が実り、わずか1年足らずでNPBスカウトが注目する存在に成長した。

徳島は他にも強肩強打の左打者・井上絢登ら逸材がひしめいている。今年は誰がスターダムにのし上がるチャンスを得るのか。10月26日にその答えが出る。

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菊地高弘（きくち・たかひろ）

1982年生まれ、東京都出身。雑誌『野球太郎』編集部員を経てライターとして独立。「菊地選手」名義で執筆した『野球部あるある』（全3巻・集英社）は13万部のヒット作になった。2019年に上梓した『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』（カンゼン）はTBS系日曜劇場の原案としてドラマ化された。近著に『野球ヲタ、投手コーチになる。 元プロ監督と元生物部学生コーチの京大野球部革命』（KADOKAWA）がある。

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