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「ゾウの出産は壮絶」「乳首に口が届かず、初乳が飲めずに…」安佐動物公園に誕生した絶滅危惧種のマルミミゾウ、飼育担当者が明かす“母親の献身的な子育て”

  • 2026.11.8
2025年8月5日、広島市安佐動物公園で誕生したマルミミゾウのアオ。写真提供=広島市安佐動物公園

広島市安佐動物公園で国内初となる繁殖により誕生したマルミミゾウのアオが、2026年8月5日に1歳を迎えました。アオは同園で暮らしているメスのメイと、オスのダイとの間に生まれた子です。

マルミミゾウは世界の動物園ではたった2園、4頭しか飼育されておらず、そのうちアオを含めた3頭が安佐動物公園、残りの1頭はコートジボワールの動物園で暮らしています。そんな希少なゾウがなぜ日本にやってきて、新たな命を誕生させることになったのか。安佐動物公園の飼育ご担当者にお話を伺いました。


DNA検査でマルミミゾウだと判明!

メイ。撮影=高本亜紀

「メイは2001年5月、当園で飼育していたサバンナゾウのお嫁さん候補として、アフリカのブルキナファソからやってきました。ですが、何年経っても体が大きくならず、オスとの体格差がありすぎたため、同居や繁殖は断念せざるを得ませんでした。

その後、遺伝子研究が進み『サバンナゾウとマルミミゾウは別の種である』ということが明確になり、DNA検査を行った結果、メイはサバンナゾウではなく“マルミミゾウだった”と判明したのです。メイが来園した当時は、サバンナゾウとマルミミゾウはアフリカゾウの亜種(同じ種の中のグループ)とされていたので、検査結果を聞いて腑に落ちました。

一方、メイと同時にブルキナファソから山口県の秋吉台自然動物公園サファリランドに渡った2頭も、マルミミゾウでした。秋吉台ではそのペアで繁殖を目指していたのですが、残念ながらメスが亡くなってしまって。

当園にはメスのメイがいて、隣県にはオスのダイがいる。『お互い1頭ずつのまま生涯を過ごさせていいのだろうか』『マルミミゾウは絶滅危惧種。力を合わせて繁殖に挑戦できれば……』という思いから、秋吉台サファリランドさんと協議をしてダイを当園で迎え入れることになりました」(飼育担当者・以下同)

わずか4日で達成したクラウドファンディング

メイとアオ。写真提供=広島市安佐動物公園

メイの出産が多くの方に知れわたるきっかけとなったのが、安佐動物公園で行われたクラウドファンディング。世界でも希少なマルミミゾウが出産を控えていることは、動物フリークのみならず、大きな反響を呼びました。

「メイも初めての出産ですし、万が一うまく子育てができず人工哺育になった場合、体の大きなゾウには膨大な量の人工ミルクが必要になります。1日にどれくらいの量が必要かを明確に答えるのは難しいのですが、(9月頭現在)アオは母乳と合わせて、出産前に用意していた人工ミルクを毎日1リットルほど、それもあっという間に飲み干してしまいます。もし完全な人工哺育になっていたら、どれほど多くのミルクが必要だったか分かりません。メイが自力で子育てをしてくれるのが一番ですが、用意したミルクが無駄になるかもしれないという状況の中で資金を確保するため、クラウドファンディングに踏み切りました。

開始早々、想像以上の反響をいただき、大変驚きましたし、資金調達はもちろんですが、『マルミミゾウという希少な存在を知ってもらう』という大きな目標も達成でき、多くの方に関心を持っていただけたことが何よりありがたかったですね」

2023年の11月にスタートしたクラウドファンディングはわずか4日で第一目標の900万円を達成。その後も参加人数は伸び続け、結果、3000万円以上の資金が集まりました。その資金はさまざまなところで活用されています。

メイとアオ。2頭の後ろに写るサバンナゾウのタカは10月19日に旅立った。撮影=高本亜紀

「第一目標だったミルクの確保や出産予測のための検査機器購入に加え、皆さんのご支援のおかげで、ゾウたちが歩く放飼場の砂を入れ替えたり、夏の暑さを防ぐ日除けを設置したりと、環境整備を行うことができました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

感動の再会かと思いきや……

メイ。撮影=高本亜紀

2022年6月、秋吉台サファリランドからダイを迎え入れると、メイとの繁殖に向けての顔合わせがスタートします。

「まずは仕切られたゲート越しに相性を見極めました。メイとダイは推定2歳の時、一緒にブルキナファソから日本に来た間柄です。人間の感覚なら『感動の再会』を期待するところですが、全くそんな反応はなかったですね(笑)。

お互いに攻撃性がないか、メイが嫌がっていないかなどを確認するのと並行して、メイの血液中のホルモンを定期的に検査し、発情日を予測しました。ある程度の予測が立ったところで、徐々に慣らしながら2頭を同居させました。

ゾウの繁殖は当園では初めてのことです。過去に飼育していたサバンナゾウのペアが交尾はしましたが、その時は繁殖には至りませんでした。日本全国を見ても、動物園でのゾウの繁殖は例が多いわけではないことに加え、サバンナゾウやアジアゾウの繁殖例がマルミミゾウに当てはまるかどうかもわからなかったという点で苦労もありましたね」

その後、定期的なホルモン検査とエコー検査で、メイの妊娠が判明。

「過去には実現できなかったことだったので大変嬉しくはあったのですが、同時に出産、さらに子育てへの不安が大きくありました。約2年の歳月を要するゾウの妊娠は、人間からすれば大変だと思うかもしれませんが、ゾウはつわりがないとされ、食欲が落ちるなどの変化もないんです。なので、妊娠が判明してからも餌を必要以上に多く与えることはせず、なるべく普段と変わらず過ごしてもらいました」

命の危機を乗り越え、無事スタートした自然哺育

メイと生まれたばかりのアオ。写真提供=広島市安佐動物公園

そして、2025年8月5日午前4時55分頃、ついにメイがアオを出産。予定より早く、加えて早朝の出産となりました。

「万全の体制で立ち会う予定でしたが、予定日より早い出産だったため、出勤した際、すでに立ち上がっている子ゾウを発見して驚きました。

出産前、日本各地の動物園さんにゾウの出産シーンを観させていただきましたが、ゾウの出産は壮絶で、具体的な理由はわかっていませんが、母親が子を投げたり、踏もうとしたりすることがあります。また、ゾウは群れにいる仲間のゾウの出産や子育てを見て学ぶとされますが、メイは推定2歳で日本に来たこともあって、子育てを見たことがないのではないかという懸念がありました。でもメイは、出産時にパニックにならず、赤ちゃんに寄り添ってくれていました」

多くの哺乳類は、免疫の面で初乳を飲む必要があります。アオは誕生してすぐに立ち上がることができていましたが、メイの乳首に口が届かず、初乳が飲めずにいました。その後も母乳がなかなか飲めない時間が続いたそうです。

パドックを歩くアオ。写真提供=広島市安佐動物公園

「もし初乳を飲めなかった場合は、血漿を飲ませたほうがいいという文献を読んでいたので、事前に妊娠中のメイの血液から血漿を採っていました。それを飲ませることができたのでひと安心だったのですが、ゾウは群れで生活する野生動物ですし、人間が育てるのはかなり難しく、今までに成功例がほとんどありません。だからこそメイに育ててもらいたいし、赤ちゃんが自力で母乳を飲んでほしいと思っていました。

アオは哺乳瓶にはすんなりと順応して人工ミルクを飲んでくれていたので、人工ミルクをメイの胸にスプレーし、垂れたミルクをたどって自然と乳首に吸い付いてくれないかなど、手当たり次第にいろんなことを試したので、何がよかったか、今となってはわからないのですが、誕生から7日目に母乳を飲んでいるアオを確認した時は本当に安心しました。

自力で母乳を飲めるようになってからの次の課題は母乳が足りているのか、病気にかからないかというところです。他にも当園は山の中にあるので、広島市内に比べると雪も積もりやすいため、寒さで体調を崩したり、凍傷にかからないように暖房設備を用意したり、寒い冬に向けて部屋の中に藁をたくさん敷いたりしました。

ただ、寒いからと言って、部屋の中にずっと閉じ込めておくわけにはいかないですし、掃除も必要です。天気がいい時は、運動場を雪かきして、そこに出している間に掃除をしていましたが、外にも暖房を置いたり、屋外で過ごす時間は短くしたり、その日によって状況を見極めながら飼育していくことで無事に冬を越すことができました」

あのメイが! と驚く飼育担当者も

メイとアオ。撮影=高本亜紀

アオが生まれたことで、母親のメイにも変化が生まれました。

「メイはちっちゃい頃、やんちゃで落ち着きがなかったんです。体が小さいのに、オスのサバンナゾウへゲート越しに突っかかっていったり、ちょっかいを出したりするお転婆な子で。そんなメイが献身的にアオのお世話をしていることに、あのメイが! とびっくりしています。

最初はアオが何をしても怒らなかったメイですが、最近はご飯を取られそうになると叱るなど、しっかり教育もしてくれています。夜間の様子をビデオで見ると、アオが動くたびに起きるため、出産前より睡眠時間が圧倒的に減っているようです。そうした姿にも母親らしさを感じますね」

アオ。写真提供=広島市安佐動物公園

「アオの性格はまだわかりませんが、現段階では子どもらしく元気な反面、慎重な一面もあります。放飼場に出るまで大変時間がかかりましたし、初めてパドック(放飼場と室内をつなぐ空間)に出した時に、室内の掃除を行ったんです。出産からずっと新しい藁を足すことしかできなかったので藁をすべて出して綺麗にしたのですが、人が入ったこともあり、匂いや見え方が違ったんでしょうね。なかなか部屋に戻ろうとしませんでした。もちろんヤンチャなところもあって、こちらが想定してなかったことをすることもありますし、オスらしい性格という印象もあります」

広島市安佐動物公園

http://www.asazoo.jp/

文=高本亜紀 写真提供=広島市安佐動物公園

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