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顎のない古代魚は泳ぎの伸びしろをたっぷり残したまま姿を消していた

  • 2026.11.7
顎のない古代魚は泳ぎの伸びしろをたっぷり残したまま姿を消していた
顎のない古代魚は泳ぎの伸びしろをたっぷり残したまま姿を消していた / 顎のない魚の仲間、プテラスピスが2匹で泳ぐ姿の復元図です。大昔には、顎を持たない背骨の動物が、いくつもの系統に分かれて暮らしていました。 Credit: Petr Menshikov (https://twitter.com/Petr75113553; https://vk.com/prehistoricproduction) / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、16:9 に切り抜いて表示)

今の背骨を持つ動物は、顎を持つ仲間がほとんどを占めています。

けれども大昔には、顎を持たない背骨の動物(無顎類)が、いくつもの系統に分かれて暮らしていました。

その多くの系統は、デボン紀のうちに姿を消しています。

中には、頭を固いよろいで覆った仲間もいました。

消えた理由の一部はこの重いよろいにある、としばしば考えられてきました。

体が固く重装備なせいで形を自由に変えられず、進化の行き止まりにはまった、という見方です。

では彼らは本当に、「これ以上よくなれない」所までたどり着いていたのでしょうか?

ある研究チームは、よろいの頭をコンピューターの中で泳がせて、この問いを確かめました。

研究の詳細は、2026年10月30日付で学術誌『iScience』に掲載されました。

化石の頭を3Dにして、水の流れを計算した

プテラスピスの化石標本から作った複製(下)と、生きていた姿の模型(上)です(アメリカ自然史博物館の展示)。
プテラスピスの化石標本から作った複製(下)と、生きていた姿の模型(上)です(アメリカ自然史博物館の展示)。 / Credit: Jonathan Chen / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

調べたのは、頭をよろいで覆った顎のない魚の一群(プテラスピス形類)です。

チームは化石と発表済みの復元図をもとに、51種の頭のよろい(頭甲)を3Dモデルにしました。

この51種は主な系統をすべて含み、仲間内の形のばらつきを端から端までとらえています。

頭甲を選んだのは、暮らしぶりを読み解くうえで中心になってきた部位であり、しかも立体のまま化石に残りやすいからです。

次に、形の違いを地図上の位置の違いとして並べた空間(形態空間)を用意しました。

この地図に等間隔で点を打ち、それぞれの点に当たる理論上の形を60個取り出します。

実在の種がいない場所の形も含めて、まんべんなく試すためです。

そのうち11個は面どうしが交差してしまう形だったので外し、残る49個で水の流れを計算しました。

調べたのは、水の抵抗、浮き上がる力(揚力)、揚力と抵抗の比(揚抗比)、そして向きが乱れたときに体を回す力(元の向きへ戻す向きか、さらに傾ける向きか)です。

顎のない魚の仲間、プテラスピスの復元図です。チームは、こうしたよろいの頭をコンピューターの中で泳がせました。
顎のない魚の仲間、プテラスピスの復元図です。チームは、こうしたよろいの頭をコンピューターの中で泳がせました。 / Credit: Petr Menshikov (https://twitter.com/Petr75113553; https://vk.com/prehistoricproduction) / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)

向きの乱れは、頭を上下に振る向き(ピッチ)と左右に振る向き(ヨー)の2方向で見ています。

頭の角度は、まっすぐな状態から5度刻みで最大40度までずらしました。

大きさの違いで結果がゆがまないよう、計算は2通りの条件で行っています。

全長を手のひらほどの10cmにそろえる条件と、体積をそろえる条件です。

どちらも、同じくらいの大きさの水中の脊椎動物で想定される流れの範囲に収まります。

こうして、49の頭の形すべてに、泳ぎの成績表がつけられました。

49の形の成績表、実在の古代魚は何位あたりにいた?

顎のない魚の仲間、アングラスピスの復元図です。チームは、こうした頭の形に、泳ぎの成績で順位をつけました。
顎のない魚の仲間、アングラスピスの復元図です。チームは、こうした頭の形に、泳ぎの成績で順位をつけました。 / Credit: Petr Menshikov (https://twitter.com/Petr75113553; https://vk.com/prehistoricproduction) / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

その前に、何をもって「泳ぎに向いた形」とするかを決めなければなりません。

目指すのは、抵抗が小さく、揚力も揚抗比も大きく、上下にも左右にも向きが元へ戻る形です。

ただ、成績が5つもあると、1つを伸ばすと別の1つが落ちる、という引っ張り合いが起こりえます。

そこでチームは、複数の条件を同時に比べる「パレート最適」という考え方で、形に順位をつけました。

スマホ選びに例えると、電池・軽さ・値段のどれをとっても別の機種に負けている機種は、まず候補から外れます。

逆に、どの機種にも全面的には負けていないものが1位です。

こうすると、1つの成績だけが飛び抜けた形ではなく、全体のつり合いが良い形が上位に来ます。

なお揚力は、頭を20〜40度上げたときの値だけで比べました。

この角度なら、揚力が体の重さを上回り、しかも急に揚力を失う「失速」も起きにくいと考えられるからです。

結果は、大きさのそろえ方を変えても、頭の角度を変えても、ほぼ同じでした。

顎のない魚の仲間、ドレパナスピスの復元図です。チームは、大きさのそろえ方や頭の角度を変えても、形どうしの比べ合いの結果が変わらないかを確かめています。
顎のない魚の仲間、ドレパナスピスの復元図です。チームは、大きさのそろえ方や頭の角度を変えても、形どうしの比べ合いの結果が変わらないかを確かめています。 / Credit: Petr Menshikov (https://twitter.com/Petr75113553; https://vk.com/prehistoricproduction) / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

まず、頭の形の違いは、そのまま泳ぎの性能のはっきりした違いになっていました。

これは、別の顎のない魚の仲間(骨甲類やガレアスピス類)で以前に得られた結果とも一致します。

そして最も成績の良い形は、地図の中でひと続きの1つの領域にまとまっていました。

地図全体では、条件によって順位が6段階から9段階に分かれました。

一方で実在の種の多くは、上から4番目か5番目までの順位に収まっていました。

特に集まっていたのは、頭のよろいの寸法の比率が中くらいの、地図の真ん中あたりです。

そこは流れの面で有利な条件と重なっており、泳ぎ方に幅を持たせつつ効率も良い場所を占める傾向がうかがえる、とチームは見ています。

プテラスピスの化石がいくつも並ぶ岩の板です(ワイオミング恐竜センターの展示)。実在の種の多くは、形の地図の真ん中あたりに集まっていました。
プテラスピスの化石がいくつも並ぶ岩の板です(ワイオミング恐竜センターの展示)。実在の種の多くは、形の地図の真ん中あたりに集まっていました。 / Credit: CryolophosaurusEllioti / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

ただし、成績が最適から離れた場所にいる種も、少なからずいました。

このほかにも、横への広がりと背腹の厚みを極端に組み合わせた形の領域には、知られている種が1種もいませんでした。

そして肝心の1位の領域は、その広い範囲が空き地のままでした。

1位の場所にいた種はわずかで、後の時代に分かれた一部の種が、その縁に届いていただけだったのです。

では、時代とともに形はどう動いていたのでしょうか?

系図に年代を重ねて見ると、複数の系統で、若い種ほど祖先より成績の良い場所へ移っていました。

一度きりではなく、いくつもの系統で同じ向きの動きがくり返されていたのです。

彼らは良い形へ向かう途中にいながら、最も良い形の広い範囲には手をつけないまま終わっていました。

よろいの体に「越えられない壁」はあったのか

甲皮類と呼ばれる古代魚の一つ、ケファラスピスの復元図です(A. S. ウッドワード博士による復元)。こうした固いよろいの体では形を自由に変えられなかった、という見方がありました。
甲皮類と呼ばれる古代魚の一つ、ケファラスピスの復元図です(A. S. ウッドワード博士による復元)。こうした固いよろいの体では形を自由に変えられなかった、という見方がありました。 / Credit: From the Proc. Geol. Assoc. / Wikimedia Commons(Public domain)

空き地が残ったのは、よろいの体ではそこへ行けなかったからではないか、とも考えられます。

そこでチームは、形の進化を説明するモデルを、「壁あり」と「壁なし」で比べました。

「壁あり」のモデルは、形がある線を越えられないという仮定を、1つ余分に持っています。

余分な仮定を置く以上、はっきりと説明がうまくならなければ、採用する理由は弱くなります。

系図の形や枝分かれの年代には不確かさがあるため、比べる作業は100通りの系統樹それぞれで行いました。

形の地図には、形の違いを表す主な軸が2本あります。

1本目の軸では、壁の位置を変えた2つの「壁あり」モデルが、100通りのすべてで「壁なし」に負けました。

2本目の軸でも、ゆるめの壁を置いたモデルは、100通りのすべてで負けています。

より厳しい壁を置いたモデルが勝ったのは100通り中9通りだけで、その差もわずかでした。

さらに1本目の軸では、ある「落ち着き先の形」へ引き寄せられるモデルが、100通りのすべてで最もよく当てはまりました。

ドレパナスピスの化石です(アメリカ自然史博物館の展示)。
ドレパナスピスの化石です(アメリカ自然史博物館の展示)。 / Credit: Ryan Schwark / Wikimedia Commons(CC0)

その落ち着き先は、空き地の手前の壁際ではなく、実在の種が暮らす領域の内側にありました。

つまり形は壁にぶつかって止まったのではなく、内側の目標に引かれていた、と読めます。

ただ2本目の軸は、どのモデルが最もよく当てはまるかが系統樹ごとに分かれ、はっきりしませんでした。

「壁なし」が最もよく当てはまったのは100通り中69通りで、厳しい壁のモデルは7通りでした。

チームも、この比べ方であらゆる制約を否定できるわけではない、と断っています。

また計算で見たのは頭のよろいの泳ぎの性能だけで、食べる・身を守る・まわりを感じ取るといった、よろいのほかの役割は成績に入っていません。

それでも、すぐ隣の最適な領域への道が固い壁でふさがれていた証拠は、ほとんど見つかりませんでした。

ここからチームは、この魚たちには使われないままの性能の伸びしろが、たっぷり残っていたと結論づけています。

ドリアスピスの化石です(ノルウェー・スピッツベルゲン島の、デボン紀前期・約4億1000万年前の地層)。デボン紀は、顎を持たない背骨の動物の多くの系統が姿を消した時代です。
ドリアスピスの化石です(ノルウェー・スピッツベルゲン島の、デボン紀前期・約4億1000万年前の地層)。デボン紀は、顎を持たない背骨の動物の多くの系統が姿を消した時代です。 / Credit: Macrophyseter / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)

そして、よろいの体で取りうる泳ぎの解決策を探り尽くす前に、絶滅していたのではないかと考えています。

良い形の多くが手つかずのまま残った理由について、チームは、たまたまの成り行きか、進化に使える時間が足りなかったか、あるいはその両方だろうと見ています。

これは、顎のない魚が体のつくりそのものの制約によって進化の可能性を使い切っていた、という見方に疑問を投げかける結果です。

チームはさらに、顎や対になったひれなどの獲得が古い制約を解き放ったという定番の筋書きにも疑問を向け、その制約はそもそも大げさに語られてきたか、初めから無かったのかもしれないとしています。

若い種ほど良い形へ歩み寄り、一部はようやく1位の場所の縁に届いていました。

よろいの古代魚の進化は、その一番いい場所の広い範囲を空き地のまま残して、途切れていたのかもしれません。

写真で見る、よろいの頭を持つ古代魚たち

ドレパナスピスの仲間の化石です(東京・国立科学博物館の展示)。頭のよろいは、この仲間の暮らしぶりを読み解くうえで中心になってきた部位です。
ドリアスピスの化石です。
顎のない魚の仲間、ドレパナスピスの復元図です。計算で最も成績が良かった形の領域は、その広い範囲が空き地のままでした。
顎のない魚の仲間、アングラスピスの復元図です。この魚たちの仲間では、いくつもの系統で、若い種ほど祖先より泳ぎの成績の良い形へ移っていました。
ドレパナスピスの仲間の化石から作った複製です(フィールド自然史博物館の展示)。頭のよろいは、立体のまま化石に残りやすい部位です。
底の砂に半ば埋もれたドリアスピスの復元図で、背中側に開いた口から呼吸の水を取り込んでいたと考えられています。今回の計算は泳ぎの性能だけを見たもので、よろいのほかの役割は成績に入っていません。
A. S. ウッドワード博士によるプテラスピスの復元図です。チームは化石だけでなく、発表済みの復元図も使って頭のよろいの3Dモデルを作りました。
デボン紀前期のヨーロッパにいた、顎のない魚の仲間プテラスピスの復元図です。この仲間が消えた理由の一部は重いよろいにある、としばしば考えられてきました。
絶滅した魚、ドリアスピスの化石です(フランス・パリの自然史博物館の展示)。

参考文献

Unrealized optimal designs challenge models of constraint in early vertebrate evolution (iScience)
https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117992

元論文

Unrealized optimal designs challenge models of constraint in early vertebrate evolution
https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117992

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。 好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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