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ハードな"孤育て"の、崩壊前夜──。俳優ローズ・バーンと見つめる「ワンオペ育児」のリアル

  • 2026.11.4
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母になれたのは人生で最高の幸せ。わが子への愛は無償──。母親について語られるとき、しばしばそんな美しい言葉が並べられる。だが、実際には決していいことばかりでないと、子育てをする多くの女性たちは知っている。フルタイムで仕事をこなし、夫は不在がち。子どもが病気となれば、息をつく間もない。

自らも一児の母で、フェミニスト理論について執筆もするメアリー・ブロンスタイン監督が脚本を書き下ろした映画『ワンオペレーション』は、人があまり見つめたがらない現実に焦点を当てる。「私の長年のエージェントから、この脚本を読むべきだと3度ほど勧められたんです。読んでみて、あまりの素晴らしさに感動しました。こんな脚本は今までありませんでしたから。先の展開が、まるで予想できない。話が進むうちに事情が少しずつ明かされていくのもうまいと思いました。これは俳優にとって、最高の機会を与えてくれる作品。メアリーとの最初のミーティングでは、『本当に私でいいのですか?』と聞いてしまいました」と、主演のローズ・バーンは作品との出合いを振り返る。

© 2025 LEGS FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED

バーンが演じるリンダは、セラピスト。原因不明の病気のある娘を育てながら、仕事をこなす毎日。しかも、ある日突然自宅の天井が壊れ落ち、安価なモーテルでの仮住まいを強いられる。出張先から電話をかけてくる夫からは思いやりを感じられず、自身もセラピーを受けて気持ちを吐き出しているものの、ときに観客が母親に期待する振る舞いを裏切るような行動にでる。その姿は観客をぎょっとさせながら、同時に笑わせもする。

「リンダはものすごいストレスを抱えています。それが、駐車場の係員や天井を修理する作業員との会話、あるいはセラピストとして患者に向かっているときに出てしまうのです。私はその部分にも共感しました。この映画には、そんな複雑な感情をすくいとるユーモアがちりばめられています」

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❝いろんな違う角度から子育てを語る映画が、もっともっと出てきてくれることを願っています❞

ブロンスタイン監督自身も、娘が7歳で重い病気にかかり、治療のためにニューヨークからサンディエゴに短期間移住したことがあった。リンダの状況は、監督自身の経験も色濃く反映されている。「メアリーの経験は私にとって大きな参考になりました。この役の準備のために、障害のある子どもを育てる親たちへ話を聞きました。それぞれに事情は大きく違いますが、私は彼女たちから多くを学ばせていただきました。常に誰かのケアをするというのはどんなことなのか。それは夫婦関係や、キャリアや、子どもの友達関係にどんな影響を及ぼすのか。子育てに関する私の考えは、この映画のおかげで大きく変わったと思います」

職場にいるとき以外、リンダは基本的にいつも娘と一緒にいる。だが、映画に娘の顔が出てくるのは、最後のシーンだけ。もちろん、それは意図的だ。追い詰められたリンダの心が、娘に寄り添えなくなっていることを暗示するためだという。

「リンダは自分の娘をきちんと見ていません。彼女には見えないのです。この小さな女の子は、助けを必要としているのに。映像を通じて、私たちはそれを表現しようとしました。それに、理由はもう一つあります。観客が娘に同情しないようにするため。少女の姿を見たら、観客は当然、彼女がかわいそうと思ってしまうでしょう。でも、これは母親についての物語。リンダの視点が失われてはなりません」

だが、娘を演じる子役との共演は楽しんだという。「カメラには映っていなくても、彼女はいつも私と一緒にいましたし、シーンのパートナーでした。演技とは、共演者との間に生まれるものです。私の演技も、彼女があってこそです。だから、彼女が全然映っていない完成作を見ると、胸が痛みましたね。彼女がいてくれたのは、現場のためにもよかったです。これはヘビーな映画ですが、子どもがいると、みんな明るく、楽しい雰囲気をつくろうとしますから」

この映画の北米公開のすぐ後には、産後うつをテーマにしたジェニファー・ローレンス主演作『ダイ・マイ・ラブ』が公開されている。また、2024年には、子育てのためにキャリアを諦めた女性のフラストレーションを描くエイミー・アダムス主演の『ナイトビッチ』があった。女性のリアルに迫る映画が続くのは、偶然でもあり、そうでもないと、バーンは考える。

「はっきりと目には見えなくても、社会の空気の中に問題意識があるということでしょう。『ダイ・マイ・ラブ』は残念ながら未見なのですが、ジェニファー・ローレンスはすばらしい俳優ですし、ぜひ見たいと思っています。『ナイトビッチ』は原作を読んでいましたし、映画も気に入りました。これらの映画のように、いろんな違う角度から子育てを語る映画が、もっともっと出てきてくれることを願っています。私自身も、その会話にかかわれたことを、光栄に思っています」

2026年1月、ゴールデン・グローブ賞にて。 © 2025 LEGS FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED

バーン自身も、俳優ボビー・カナヴェイルとの間に2人の息子を持つ。経験者として、女性たちに何かアドバイスはありますかと聞くと、「アドバイスが欲しいのは私のほうです」と笑った。「親になり、仕事をしていて、結婚もしているというのは、ものすごく大変。『家族に今必要なことは何?』『夫は何を必要としている?』『自分は?』と、いつもチェックしています。本当に、キリがありません。『バランスを取りましょう』と言うけれど、そう簡単じゃない。自分にできるかぎりのことをやっていくしかないのです」

そんな中でも、俳優として成長を続ける彼女は、この映画でキャリア初となるアカデミー賞ノミネートを果たした。だが、これから何をやるという具体的なゴールはないと話す。「役者というのは先の予測がつかないもの。それは長い経験で学びました。目の前に何が現れるかわからないのです。だからこその驚きもある。この役のようにね。そこもまたこの職業のすてきなところです」

原因不明の病気を抱える娘を育てながら、セラピストとして働くリンダ。出張続きの夫を頼れず、仕事とケアに追われるなか、自宅の天井まで崩落。娘とはモーテルでの仮住まいをし、積み重なるストレスによって、彼女の言動は次第に危うさを増していく。あまり語られない母親へ期待される神話の陰に隠された孤独や怒り、疲弊を、ブラックユーモアを交えて描く。全国公開中。

ローズ・バーン

オーストラリア・シドニー生まれ。『The Goddess of 1967』でヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞。ドラマ『Damages』で注目を集め、『ブライズメイズ』『インシディアス』シリーズなど幅広い作品で活躍する。『ワンオペレーション』でゴールデン・グローブ賞とベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞し、アカデミー賞主演女優賞に初ノミネートされた。

Illustration: HiromiI Chikai, Editor: Mina Oba From Harper's BAZAAR November 2026 Issue

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