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【スイスの隠れ世界遺産】“逆さの地層”を見にサルドナへ!ロープウェイで絶景ハイク

  • 2026.11.1

スイスと聞いて思い浮かべるのは、雪山や湖、美しい街並み。でも今回訪れたのは、ちょっと違った角度からアルプスを楽しめる場所です。スイス北東部に広がる世界自然遺産「テクトニック・アリーナ・サルドナ(Swiss Tectonic Arena Sardona)」。一見すると美しい山岳風景ですが、よく見ると山肌にはくっきりと一本の線が走っています。正直なところ、訪れる前は「地質の世界遺産って、ちょっと難しそう」と思っていましたが、その一本の線の意味を知ると、目の前の山を見るのが俄然面白くなりました。今回は、ロープウェイに乗って“逆さの地層”を間近で見に行きます。

 

世界遺産への玄関口、山あいの村「Elm」

サルドナ観光の拠点のひとつが、グラールス州の山あいにあるElm(エルム)。チューリヒからは、列車でSchwanden(シュヴァンデン)まで行き、そこからバスに乗り継ぐと到着します。

マイボトルさえあれば水に困ることはない

村に着いて印象に残ったのが、あちこちで見かける水飲み場。ビジターセンターの前にも水飲み場があり、散策の途中で冷たい水を飲んでひと休みしました。山々に囲まれたエルムは、水に恵まれた土地。山中にはミネラル泉があり、アルプスに降った雨や雪が地中へ染み込み、いくつもの岩の層を通って湧き出しています。これから見に行く地層が、この土地の水ともつながっていると思うと、何気ない一杯もちょっと特別に感じられました。

山肌に見える一本線!世界自然遺産サルドナとは?

いきなり山へ向かう前に、まずはビジターセンターでサルドナの見どころをチェック。2008年に世界自然遺産に登録された「スイス・テクトニック・アリーナ・サルドナ」は、グラールス、ザンクト・ガレン、グラウビュンデンの3州にまたがる広大な山岳地帯です。

最大の特徴は、山肌を横切るように伸びる一本の境界線。「グラールス衝上断層(Glarus Overthrust)」と呼ばれています。

現地では「マジックライン」とも呼ばれている

地質の常識がひっくり返った境界

そもそも地層は、古いものの上に新しいものが積み重なっていくのが普通です。ところがサルドナでは、その順番がまるで逆。約3500万〜5000万年前の若い岩石の上に、なんと約2億5000万〜3億年前の古い岩石が乗っているのです。つまり、2億年以上も古い岩が“上”にあるということ。まるで地球の歴史を上下逆さまに重ねたような、不思議な光景が見られるんです。

これは、アルプスが形成される過程で、古い岩盤が若い地層の上へ大きく押し重ねられたため。その後、長い年月をかけて山が隆起し、侵食されたことで、かつて地下深くにあった境界線が地表に現れました。

地質学に詳しくなくても、「あの線より上の岩の方が数億年も古い」と知ってから山を見ると、不思議と景色が違って見えてきます。

山にぽっかり開いた「Martinsloch」にも注目

さらに目を引くのが、岩壁にぽっかり開いた巨大な穴「Martinsloch(マルティンスロッホ)」。高さ約22mにもなる自然の岩窓で、年に2回ほど、太陽の光がこの穴を通り抜けてエルムの教会付近を照らすことで知られています。

世界遺産になった今も地形が変わっている!?

2024年10月3日には、Martinslochのすぐ近くで大規模な岩盤崩落が発生。約10万立方メートルもの岩が崩れ落ち、村の人たちは数日後になって「山の形が変わっている」と気づいたのだとか。何億年もの歴史を刻んできた山が、今も変化し続けていることを実感させる出来事です。

※なお、Martinsloch周辺は現在も落石の危険があるため、穴そのものへ向かうルートは利用できません。ハイキングの際は最新の登山道情報を確認してください。

小さなロープウェイに乗って、いざ世界遺産の中へ!

そんなサルドナをもっと間近で見るため、今回はロープウェイ「Tschinglenbahn(チングレンバーン)」に乗って山へ向かいました。

青い小さなキャビンは定員4人。渓谷を越えながら、約8分で標高約1500mのTschinglen-Alpへと運んでくれます。大きな観光地のロープウェイとは違い、キャビンはこぢんまり。ぐんぐん高度が上がっていくと、足元には深い谷、その向こうには荒々しい岩壁が広がります。麓から眺めていた山が少しずつ近づいてくるにつれ、「世界遺産を見に行く」というより、世界遺産の中に入っていく感覚が強くなってきます。

山上に着けば、周辺を歩いてサルドナの景観を間近に楽しむことができます。さらにしっかり歩きたい人にはハイキングコースもあり、景色を楽しみながら、この土地ならではの地形を体感できます。

Tschinglenbahn(チングレンバーン)

住所:Schwändi 3, 8767 Elm

所要時間:約8分

運行時期:例年5月〜10月ごろ(冬季運休)

運行時間帯:7:20〜18:20 ※時刻表に沿って運行

※運行期間・時刻は年や天候によって異なります。訪問前に公式サイトで最新情報をご確認ください。

山歩きの途中、小さな山小屋でタルト休憩

山の上でひと休みするなら、「Tschinglen-Wirtschaft」へ。ロープウェイの山頂駅から歩いて数分の場所にある、小さな山小屋です。薪を使うコンロで作るスープをはじめ、アルプチーズやジビエ・グリルソーセージなど、地域の食材を使った軽食が味わえます。

今回いただいたのは、ラズベリーを使ったタルト。素朴な見た目ながら、歩いた後の甘いものは格別! 山を眺めながら温かい飲み物を一緒にいただく時間も、ハイキングの楽しみの一つです。

Tschinglen-Wirtschaft

住所:Tschinglen-Alp, 8767 Elm

営業時期:例年5月〜10月ごろ

電話:+41 79 505 59 53

※営業状況は季節や天候などにより変わる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。

宿泊はHotel Elmerへ。窓の外まで世界遺産!

山へ出かけている時間はもちろんですが、ホテルに戻ってからも世界遺産が旅の風景から消えないのがエルム滞在の魅力です。

この日滞在した「Hotel Elmer」は、1858年に建てられ、2021年の改修を経て再オープンしたホテル。一部の客室や館内のウェルネスエリアからは、世界自然遺産の山々を望むことができます。

部屋に入ってカーテンを開けると、窓の向こうには緑の草原とサルドナを構成する美しい山岳風景。一日中山を歩いた後も、ベッドからその続きを眺めていられるのがなんとも贅沢でした。

白いソーセージは、グラールスの「民主主義の味」!?

ホテルのレストランディナーでいただいたのが、白い仔牛のソーセージにオニオンソースとマッシュポテトを添えた一皿。「Glarner Kalberwurst(グラールス風仔牛ソーセージ)」という、この地方を代表する郷土料理です。実はこの料理、グラールス州の政治文化とも深いつながりがあります。

グラールスでは毎年5月の第1日曜日、「Landsgemeinde(ランツゲマインデ)」と呼ばれる住民集会が開催され、有権者が町の広場に集まり、法律や税率など州の重要な議題について議論するのだそう。その場で投票証を掲げて意思表示し、多数派を目視で判断するという、昔ながらの直接民主制が今も続いています。

そして集会が終わった後に食べる定番料理が、このKalberwurst。Hotel Elmerでは、白いオニオンソース、マッシュポテト、赤ワインで煮たプルーンを合わせた伝統的なスタイルを提供しています。

さらに面白いのが、このソーセージの材料をめぐってかつて議論が起こり、1920年のLandsgemeindeでは、その中身が法律で定められたというエピソード。仔牛肉や牛乳、卵などに加え、特徴的なのが「生パン粉」を混ぜること。この伝統的なレシピを守るために、わざわざ法律で定められたというから驚きです。夕食のソーセージから、まさかスイスの政治文化の話につながるとは思いませんでした。

Hotel Elmer

住所:Dorf 51, 8767 Elm

電話:+41 55 642 12 20

「地質って難しそう」が、山を見る楽しさに変わる

世界遺産と聞くと、壮麗な建築物や遺跡を思い浮かべがち。サルドナを訪れる前は、世界自然遺産と聞いても「珍しい地層がある場所」という程度のイメージでした。

けれど、山肌を走る一本の線が何億年もの地球の動きを示していると知ると、ただの岩山にはもう見えません。「美しい山」だけで終わらず、アルプスが生まれた壮大な歴史まで体感できるのがサルドナの面白さ。有名な観光地とはひと味違うスイスを楽しめます。 

©Chiharu Kubota


 

取材協力

スイス政府観光局

スイス インターナショナル エアラインズ

スイストラベルシステム

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