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【「ソラタとヒナタ」の絵ができるまで】紙版画の絶妙な「質感」と「色」で描く、優しくて、美しい世界観

  • 2026.10.30
cocreco写真提供:くまあやこ

かんのゆうこさんの童話シリーズ「ソラタとヒナタ」が、2026年5月27日に絵本『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』となって発売されました。絵本誕生のきっかけは、童話シリーズの挿絵担当のくまあやこさんがSNSで作中のキャラクターの誕生日を祝い続けてきたこと。

本記事では、前後編で制作エピソードの数々をお届け。後編では、実際の制作時の写真とともに「紙版画」での制作についてお話しいただきました。

いよいよ、原画の制作へ!

ラフをかんのさんや編集者のFさんにご覧いただいたあと、原画の制作にとりかかります。原画はまず紙版画の一版多色刷りで刷ったあとに、絵の具で着彩していく流れになります。

*紙版画

紙を版にして、インクをのせた版を紙に写す版画の方法。

*一版多色刷り

1枚の版に、複数のインクをのせて刷る方法。

cocreco絵本『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』

紙版画ってどうやって作るの?

紙版画で絵をつくる工程をご紹介したいと思います。使用する道具は、ドライポイント用紙(牛乳パックのように表面がツルツルとした厚紙)、ニードル(えんぴつの先が針になっているもの)、銅版画インク、インクベラ、パレット、寒冷紗(かんれいしゃ)、版画紙(水に浸したもの)などです。

cocrecoくまあやこさんが実際に使用している道具(左:ルーペ、中央:ニードル、右:インクベラ・銅版画インク・寒冷紗)写真提供:くまあやこ

紙版画の工程

①ラフ画を反転コピーして、カーボン紙(私は鉛筆で塗って作った自家製のものを使ってます)でドライポイント用紙に絵を写します。

*カーボン紙

片面にインクが塗られた薄い紙。インクがついていない側からなぞって、絵を別の紙に写す。くまあやこさんは、自作したものを使用。

*ドライポイント用紙

牛乳パックのように表面がツルツルとした厚紙。版を彫る紙。

*ドライポイント

版材にニードルで直接線を刻んで、インクを詰めて刷る凹版(おうはん)技法。

cocrecoラフ画を反転して、カーボン紙でドライポイント用紙に絵を写す。写真提供:くまあやこ

②下絵を写したドライポイント用紙に、ニードルで彫りながら絵を描いていきます。面で表現したい部分は表面のコーティングした紙をはがします。

*ニードル

えんぴつの先が針になっているもの。版を彫るための道具。

③版が彫れたら、色の配置などを考えて、版に銅版画用のインクをのせて詰めていきます。

cocrecoインクをのせる前にスケッチで色の配置を考える。写真提供:くまあやこ

私の場合は、一版多色刷りなので、絵柄に合わせて、ひとつの版にいろんな色を詰めます。

*一版多色刷り

1枚の版に、複数のインクをのせて刷る方法。

cocreco絵を彫った版にインクを詰めている様子。写真提供:くまあやこ
cocreco絵に合わせていろいろな色のインクを詰めていく。写真提供:くまあやこ

④版全体に色を詰めたあと、寒冷紗(かんれいしゃ)で絵を描くように余分なインクを拭き取っていきます。

*寒冷紗(かんれいしゃ)

ガーゼのような網目状の薄く、硬い布。版に乗せた余分なインクを拭き取るために使う。

cocreco版にインクを詰め終わったところ。写真提供:くまあやこ

⑤インクを拭き取り終えたら、銅版画用のプレス機に版を乗せて、さらに紙(予め水に浸したあと余分な水分を取った)を版の上に載せて、プレス機を回しながら、祈りを込めて刷っていきます。

cocreco銅版画用のプレス機にインクを詰めた版と紙を挟んで、ローラーを回しながら刷っていく。写真提供:くまあやこ

⑥プレス機で刷ったあと、版から紙をはがして、紙版画の原画が完成! です。

cocreco版から刷った紙をはがしていく。(上:刷り上がった紙、下:インクを詰めた版)写真提供:くまあやこ
cocreco完成した版画。写真提供:くまあやこ

なぜ紙版画で制作するの?

版画は1本の線を描くのにいくつかの工程を経て、できあがります。時間はかかりますが、私がいつも制作している銅版画や紙版画は刷り上がったときの線のきれいさや、いくつかのインクの色が混ざり合った線や粒子のようなタッチに、版画ならではの魅力があふれています。

紙版画は銅版画のように腐食がいらないのでより短期間で手軽に版を作ることができて、インクの色が変色することなくそのままの色で刷り上がるのがいいところです。

*銅版画

銅板を版にして、インクをのせた版を紙に写す版画の方法。銅を腐食させて版を彫る。

cocreco実際に使ったニードルと紙版画。写真提供:くまあやこ

今回の制作で一番悩んだのが、ソラタやヒナタ、動物たちの表情やお祭りの屋台の場面など、細かい部分はペンなどで直接描いたほうが描きやすいので、その部分はペンで描いて、紙版画の部分と混ぜてみるのはどうかなど試行錯誤しました。

やはり、線と絵のように拭き取るインクの揺らぎみたいなものの一体感を出したくて、最終的にカバーと本文のすべてを紙版画で制作することにしました。

cocreco刷り終えたあとの版。すでに拭き取ってなくなってしまいましたが、インクがうっすら残った版もきれいだったりします。写真提供:くまあやこ

紙版画の制作を終えてみて

版画の制作は刷ってみないとわからないこともあって、今回も失敗もありましたが、失敗のあと、どう成功へ変えていくか、次回はどうしたらいいかを考えるのも楽しいです。思いどおりにならないこともあるけれど、想像以上にいい刷りができたときは言葉にならないくらい嬉しいです。

今回、物語の連続した版を刷るので、はじめて版画用の色見本を作ってみました。紙版画はインク詰めと拭き取りの作業が時間との勝負なので、のんびり迷っているとインクが乾いてしまうので、色見本が指揮者のように行く先へと導いてくれました。

絵本1冊の絵を短い期間で紙版画で制作するのが初めてだったのと、途中4分の1まで制作したところで刷る紙を変えて最初からやり直したりと、かなり綱渡り状態だったので、無我夢中でしたが無事に刷り終えることができたとき、本当にほっとしました。

cocreco最初に刷っていた紙の版画。丈夫な紙なので線が出やすく安心感はあるのですが、変更した紙のほうが細かいタッチがきれいに刷れました。写真提供:くまあやこ

最後の仕上げ

刷ったあと、自然乾燥させた紙版画に、版画の良さを残しつつ、アクリルや水彩絵の具などで部分的に色をのせたら、原画の完成です!

cocreco刷った版画を乾燥させて、アクリルや水彩絵の具で色をのせたもの。写真提供:くまあやこ
cocreco上写真の版画が、本になったもの。

一番最後に制作した見返しだけは、本文との違いや軽さを出したかったので、ペン画で描きました。

*見返し(みかえし)

本の表紙・裏表紙をめくった裏側の部分。

cocrecoペンを使って手書きで見返しに使うイラストを描いていく。写真提供:くまあやこ
cocreco実際に完成した見返し。写真提供:くまあやこ

完成したすべての原画を編集者のFさんとデザイナーの脇田さんにお渡ししたときには、本当に心からほっとしました。

本のかたちへ

そのあと、脇田さんが絵と文章を合わせて、カバーから本文、帯など細いところまで丁寧にレイアウトをしていただき、おしゃれをしたときのような、とっても素敵な本のかたちにデザインしてくださりました。私も色校正や画像修正などで講談社さんにたびたびお邪魔して、作業させていただきました。(社食のランチも美味しかったです!)

みなさんといっしょに色校正を見たり、感想を話しあったりしながら、脇田さんが要望をくみ取って、わかりやすく細やかに調整してくださって、とても心強かったです。楽しいひとときでした!

*色校正

製本前に実際の紙に印刷して、色味などを確認していく作業。

cocreco実際の絵本に近い状態で、色味やレイアウトなどを確認していく。写真提供:くまあやこ

今回、印刷をしてくださった共同印刷さんが、初校からかなり原画に近い色を出していただいて、さらに再校では微妙なニュアンスも見事に再現して、とてもいい色にしていただきました! ありがとうございました。

*再校

最初に色味やレイアウトを確認した際の修正点を反映して、再度印刷したもの。

今、本になる最終段階、印刷と製本の工程にかかっていただいていて、わくわくしながら待っているところです。1冊の絵本ができるまで、たくさんのかたの手で本のかたちになっていき、本が完成し旅立った後もたくさんのかたが関わってくださっていると思うと、本当にありがたい気持ちでいっぱいになります。

絵本が無事に完成して、みなさまにソラタとヒナタの新しい物語をご覧いただけるのがとても楽しみです!

最後まで、お読みいただき、本当にありがとうございました。

cocreco完成した絵本。

\前編は記事末尾リンクから/「「ソラタとヒナタ」絵本化の裏側〈前編〉を講談社コクリコサイトにて公開中です。ぜひ、記事末尾のリンクよりご覧ください。

『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』

かんのゆうこさんの大人気童話シリーズ「ソラタとヒナタ」が、完全オリジナルストーリーで絵本になりました。優しいくまのソラタが、天涯孤独で愛情も誕生日も知らないきつねのヒナタのはじめての誕生日をお祝いします。

絵を描くのは、同シリーズの挿絵をご担当され、本記事で制作エピソードをお話しいただいたくまあやこさん。こだわりのたくさんつまった優しく、色鮮やかな絵とともに、心あたたまる友情の物語をお楽しみください。

また2026年10月14日より、本作の原画展を開催予定です。詳細は、記事末尾よりご覧ください。

cocrecoソラタとヒナタはじめてのたんじょうび

童話シリーズ「ソラタとヒナタ」

cocrecoソラタとヒナタ ともだちのつくりかた
cocrecoソラタとヒナタ みえない星空
cocrecoソラタとヒナタ おはなしのバトン

『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』原画展

神保町にあるこどもの本専門店「ブックハウスカフェ」ディスプレイウィンドウにて絵本『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』の原画を展示させていただきます。ぜひご覧いただけましたら嬉しいです!

近くなりましたら、在廊予定などの詳しい情報を、くまあやこさんのSNS(Instagram:@kumaayako)にてお知らせいたします。

▼『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』原画展

2026年10月14日(水)~10月31日(土)

こどもの本専門店「ブックハウスカフェ」ディスプレイウィンドウ

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