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「やめてくれ!」悶絶するような過激さなのに「親しみやすい」ホラー映画とは? R15+指定映画『クレイフェイス』【レビュー】

  • 2026.10.30

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10月30日より映画『クレイフェイス』が劇場公開されている。本作は「バットマン」でおなじみのDCコミックスを原作とし、かつヒーローではなくヴィラン(悪役)を主人公とした、堂々の「ホラー映画」だ。

●R15+指定に納得の過激さながら、間口が広く親しみやすい内容に

結論から申し上げれば、本作はとても面白い! 刺激的な描写のあるアメコミ原作の映画は『ジョーカー』(2019年)や『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)も高い評価を得ていたが、そちらに引けを取らない完成度だった。

注意点は「刺激の強い肉体損壊および肉体変形の描写がみられる」という理由でR15+指定がされていること。そう聞くと観る人を選ぶ内容と思われるかもしれないし、後述する通り良い意味で「やめてくれ!」と悶絶するほどの凶悪なサスペンスシーンがあるのも事実だ。

しかし、全体的にはエンタメ性が極めて高く、かつ共感しやすいドラマが紡がれているため、親しみやすい印象さえある。少なくとも、ホラー映画というジャンルだけで敬遠してほしくはないし、(グロが大丈夫なのであれば)多くの人に勧めやすい内容だ。なお、苦手な方が多いであろう「大きな音でワッと驚かせる」、いわゆる「ジャンプスケア」の演出は(ごく一部にあるが)控えめだ。

しかも、この『クレイフェイス』と他の映画との物語やキャラクターのつながりはほぼないため、予備知識をいっさい必要としない。クレイフェイスは「ジョーカー」や「ハーレイクイン」といった他のヴィランに比べると知名度は低いが、この機会にその「誕生」から知ることができる絶好の機会だ。とにかく、まずは「過激だが間口は広く親しみやすいホラー映画」を期待して、気軽に観に行ってほしい。

※以下、映画『クレイフェイス』の決定的なネタバレを避けつつ、一部内容に触れています。

●本当にかわいそうだけど、部分的には自業自得でもある「転落」の過程

あらすじはこうだ。アカデミー賞ノミネートを目前に控えている若手俳優マット・ヘーゲン(トム・リス・ハリス)は、ギャングのボスの娘に手を出した見返りとして、顔中を切り刻まれてしまい、名声も仕事も何もかもを失ってしまう。絶望の果てに、マットは研究熱心な科学者のケイトリン・コー博士(ナオミ・アッキー)のもとへとたどり着き、未承認で非合法の“禁断の治療”に手を染めることになる。

まずよくできているのは「転落」の過程だ。ジェームズ・ワトキンス監督によると、主人公のマットは「いい奴」であり、「自分の原点を決して忘れない謙虚さがあり、友達思いで、努力して人気を得たという観客が共感できる人物」であることを重視したという。まさにその通りで、序盤のアカデミー賞にまつわる事柄での喜びようなどから、俳優として努力を積み重ねてきたことや、正しく評価されたいと願う純粋な人物であることが、これでもかと伝わるだろう。

それでいて、転落の発端となるのは、「“相手から誘ってきた”のは事実ではあるけれど、マネージャーの友人からもはっきりと『やめておけ』と忠告された女性と、性的な関係を持ってしまったこと」だ。つまりマットは完全な被害者ではなく、部分的にせよ自業自得なところもあり、「かわいそうだけど、でもそれは本当にダメだったよな」と「同情だけではない」感情を抱く人物なのだ

その後のマットは整形手術を重ねるも金銭的に搾取されるばかりで、世間からは奇異の目と誹謗中傷にさらされ、俳優としての道はどんどん閉ざされていく。彼の精神がどれほど蝕まれていくかが、文字通りに痛いほど伝わるだろう。顔を傷だらけにされるというのはもちろん一般人でも絶望になり得るが、彼にとって顔は「商売道具」でもあり、「人生」そのものなのだから。

そして、その先にたどり着いた禁断の治療は初めこそ大成功、マットは全てを取り戻したかのように思えるのだが……実際は深刻な「副作用」があった。彼の顔はまるで粘土のように崩れ、さらなる異常事態へとつながっていく。そんな「転落からのさらなる悪夢」は意地悪ではあるが、やはり共感できるドラマとして面白く仕上がっているのだ。

●「恋人になれない」「似た者同士」の関係のドラマ

本作のドラマを牽引しているのは、「恋人になれない(ならない)」関係にもある。具体的には、ケイトリン博士は禁断の治療を施したマットとはあくまでも「医師と患者」の間柄として対応しているのだが、時には友人、なんならそれ以上の対象として、彼のことを心配しているようにも見える。

しかしながら、ケイトリン博士には婚約者がおり、マットとは友人以上の関係にはならない「はず」なのだ。そのことがどのように物語の結末に絡んでくるか……はもちろん秘密にしておくが、本編の中でももっともスリリングなドラマだったのかもしれない、とだけは言っておこう。

また、マットとケイトリンも、共に「承認欲求」を抱えている、「似た者同士」でもある。マットは前述したように俳優としての成功を、ケイトリンも未承認の研究の成果を間違いなく欲している、ある意味では合わせ鏡のような存在なのだ。だからこそ、ケイトリンがマットに患者以上の感情を抱いてしまい、それがマットがケイトリンに執着する原因になってしまうのかもしれない。それぞれは間違った感情なのかもしれないが、「そう思ってしまうのもわかる」と、やはり共感を呼ぶだろう。

さらに、大きな見どころとなるのは、そのマットのマネージャーであり友人であるフランク(エディ・マーサン)との関係にもある。こちらも詳しい言及は控えておくが、現在公開中の映画『ストリートファイター/ザ・ムービー』にも似ている、「表向きは華やかな人物」と「彼の精神を支えるマネージャー」との「湿度の高さ(しっとりとした重さのある感情)」がとんでもないことになっていた。いわゆる「ブロマンス」要素を求める人にとっても、本作は「豪速球ストレート」を投げつけられたような嬉しさがあるだろう。

●エンタメとホラー盛り盛りの見せ場が主人公の精神状態とリンクしている

そんなドラマ面での「似た者同士」「湿度の高さ」も見どころの本作だが、基本はやはりエンターテインメントでありホラー。特に「どっちに転ぶかわからない」ハラハラドキドキのシチュエーションがてんこ盛りなのが、何よりの美点だ。

中でも観客に「強烈な痛み」を想像させる見せ場は、「飛行機内でのトイレ」のシーンだろう。何が具体的に起こるのかはここでは秘密にしておくが、観ながら本当に身じろぎしてしまったホラー映画史上でもトップクラスの凶悪なサスペンスシーンであり、良い意味で「一刻も早く終わってくれ!」と願ってしまった。

さらには、主人公のマットことクレイフェイスは別人の顔になるどころか、「別人になる」ことさえできるため、劇中のキャラクターだけでなく、観客さえも「“どっち”なんだ!?」と惑わされ、それがホラー映画としての恐ろしさにつながっている。目の前に見える人物が別人に変身したマットなのか、それともそうではないのか……と、存分に予想または推理をして観て、時には心底ゾッとするのも良いだろう。

そうしたエンタメとホラーが盛り盛りの面白さが、しっかりドラマ面、特に主人公のマットの精神状態とリンクしているのも秀逸だ。初めこそマットは悪事を働こうとしたわけではなく、ただ人生を取り戻したかっただけなのに、どうしてこうなってしまったのか……という悲哀は、クレイフェイスが際限なくモンスターと化していく様と確実にリンクしている。

また、クレイフェイスの顔が崩れたり、はたまた別人になる(なりたい)こともまた、変質していくマットの精神が具現化したものと取れる。とてつもないラストで、そのことを思い知らされるだろう。

●「間違いない」監督と脚本家の名前を覚えてほしい

本作の完成度の高さは、やはり監督と脚本家の手腕によるところが大きい。ジェームズ・ワトキンス監督は『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』(2024年)というリメイク作をオリジナルよりもエンタメ増し増しに仕上げて高い評価を得ていたし、脚本を手がけたマイク・フラナガンは『ドクター・スリープ』(2019年)や『サンキュー、チャック』(2026年)というスティーヴン・キング原作の監督作で絶賛されていた。「間違いない」クオリティーの作品を届ける、この2人の名前は覚えておいたほうがいいだろう。

そのマイク・フラナガンが監督・脚本を務めた、こちらもスティーヴン・キング原作の『キャリー』が現在Amazonプライムビデオで配信中だ。ドラマシリーズだからこそ長い時間をかけて紡がれる物語、特にSNSが存在する現代だからこそのいじめ主犯の心理が克明に描かれているのが特徴で、『クレイフェイス』とは「主人公の精神と特殊能力の発露がリンクする」という共通点もあるので、ぜひ併せてご覧いただきたい。

また、日本で気軽に観られる(読める)クレイフェイスが活躍する作品は少ないのだが、テレビアニメ『異世界スーサイド・スクワッド』は配信で観やすい。同作でのクレイフェイスは、俳優という職業は同じでも「自信過剰のナルシスト」という、今回の映画とはまったく異なるキャラになっており、これはこれで愛らしい(?)ので違いを確かめてみてもいいかもしれない。

さらに余談だが、今回の『クレイフェイス』で製作を務めたジェームズ・ガンは「少年時代に愛したジョン・カーペンターやデヴィッド・クローネンバーグのようなホラー映画を、DC ユニバースの中で作り出すことにしました。いわゆる偽物のホラー映画ではなく、本物のホラー映画をね(笑)」と無邪気にも思えるコメントをしている。ある意味で「クラシカルかつ王道のホラー映画を、アメコミ映画でやってみた」作品と言ってもいいだろう。

その無邪気さの結果というべきか、全体的な重厚さにはやや欠けることがこの『クレイフェイス』の弱点かもしれない。しかし、それは「親しみやすい王道かつライトなホラーエンタメ」というプラスの印象そのものと言えるし、それでいて物語の完成度は申し分ないのだから、それは本質的には欠点ではないのだろう。ぜひぜひ、逃げられない映画館でこそ、この悲哀に満ちた恐ろしい物語を楽しんでほしい。

文=ヒナタカ

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